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小暮写眞館で、宮部みゆきさんを撮る

ソロモンの偽証
トピック

KAKAPO
2016/04/17 09:09

 少年の死を切っ掛けに様々な悪意が表面化し、加害者と被害者の境界を打ち砕く。過剰な報道は、現実の世界でも起こり得るが、宮部さんは、それによって誰も救われないことを看破する。約740頁を割いて提示されたテーマは重く、面白いという評価は不謹慎だが、少なくとも『第Ⅰ部』を読み終えた限り、読者に伏せられた謎、読者には明かされているが登場人物に伏せられた謎が、読者の副腎にアドレナリンを放出するよう指令を出す。やはり類稀な作品だと思う。

 決意では、新たな事実も明確になり、涼子たちの心情も少しずつ変化し、絆が深まってゆく様子に読者も励まされる。宮部さんは、読者に好かれる人、嫌われる人を描き分けるのが上手く、物語りが進むにつれて、好きだった人に共感できない部分がでたり、嫌いな人に同情する部分がでたり、気持が揺さぶられる。

 あくまで設定は、'90年代の日本なのに、城東第三中学校という閉ざされた世界で、中学生の能力を超えている駆引きを繰り返し、健気に真相を追い求める賢くて忍耐強い少年少女達の姿は、まるで『ホグワーツ魔法魔術学校』を舞台に、悪と闘うハリー達のようだ。彼らに宿ったのは、魔法ではなく、類稀な感性と知性、強靭な精神と粘り強さだったのかもしれない。そういう意味で、私は、このリアリティの乏しさは、現代モノだけではなく、時代物も、ファンタジーも描ける宮部みゆきさんが、現代を舞台に描いたfantasyなのではないかと結論づけた。」

 法廷を読み終えて…まるで交響曲のようだった。物語が長いためか、山も谷も比較的なだらかで、高さや深さよりも絡みを楽しむという趣向で、検事側と弁護側の対立が、同じ真相を目指という構造だったことも、盛り上がりを欠く原因だったかもしれない。

 だからと言って、この物語が詰まらないというわけではない。のどが渇いている時に美味いドライビールのようなキレはないが、常温で飲むべきモルトウイスキーのような芳醇な香りと絶妙な風味がある。中学生同士が、ディベートのように対立し、結果的に助け合いながら同じ真相を目指すという構造も、試みとしては斬新であった。

 思春期をうまく乗り越えられるか、乗り越えられないかは、その頃に必要な身の丈に合った目標を見つけられるかどうかにかかっているような気がします。ある人は、スポーツだろうし、ある人は受験だろうし、またある人はゲームだったり、恋愛やアイドルだったりするのだろう。しかし稀に、親や教師から与えられる目標を受け取りそこなってしまった結果として、自分自身への関心が暴走してしまう子供がいる。自分は何故生まれてきたのだろう、生きている意味ってなんなのだろうと…そういう子供の気持ちを察知して、示唆を与えることも大切…

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