あと童話と童話/民話について柳田、佐々木、関の系譜を交えながら俯瞰的に解説しているのも好印象。昔話をきちんと理解するならこの三者は外せないし、今流通している本がなぜあのスタイルで書かれているのかがわかる。見た目の割りに大学の概論くらいに内容が濃い。
他にも死後の恋と瓶詰地獄という王道も収録されている。が、注目すべきは海洋小説ともいうべき支那米の袋と難船小僧と事件や夢を綴った怪夢といなかの、じけんだろう。夢野久作といば虚言や夢幻など捉えがたい作品で有名だが、ジャンル小説を意識した作品もあった。もちろん、展開はセオリー通りではないし捻りが過ぎるのだが。夢野久作の作風の広さを知ることのできる一冊。
推理小説らしいのは陰獣だがこれもSM要素がひとつの見せ場になっている。どれも描写が素晴らしく怪奇小説として十分に面白い。推理に拘らなかった夢野久作と比べると面白いのではないか。
演出としてはカタストロフインザダークが好みだった。西哲子がマンホールに落ちる寸前の笑顔→フラッシュバック時の目を見開いた笑顔(逆光)→スタジオから連れ出す時の艶やかな笑顔(コートの襟立ち)。表情+環境でバリエーションをもたせてある。唐突な夢落ちで終わるのは「そこに穴があった」との差別化なんだろうけど、怨念落ちはこっちの方にしてほしかったな。
他には「人食岬の決戦」という小作が収録されている。これは手塚には珍しい旧軍もので、繰り返し突撃命令ばかりを出す上官が配下の部隊を犠牲にし敵陣を突破しようとして罰が当たる、という筋。「犠牲」と書けば嫌な表現だが言い換えれば「陽動」。やりようによっては犠牲も抑えられるきちんとした戦術なのに、これを悪行のように書いてしまうあたりが人道主義者手塚の限界だろうか。陽動作戦の真意を配下の部隊に告げ口しようとする部下とそれを切って捨てる上官も戯画としては安易で如何にも民間の人が考えそうな内容(水木ならどう書いただろうか
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