255文字のレビューコンテスト「レビュアー大賞」にて、ベスト・オブ・ベストレビュアー賞に輝いた、カノコさんのおすすめ本3冊を、カノコさんのレビューと共に紹介!
ベスト・オブ・ベストレビュアー

カノコさん
4,000を超えるエントリーの中から選ばれた、砥上裕將『線は、僕を描く』のレビューは、第7回 レビュアー大賞 結果発表ページからご覧ください。
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カノコさんのおすすめ本
3冊はこちら!
明治・大正を舞台に、男女の愛憎を深く描いた短編集。何という情念、何という凄艶。
登場する女たちは美しく、怖く、その情の強さに身体の内側が冷たく燃える。息をすることすら忘れてしまうほど艶っぽく静謐な文章は、連城三紀彦だけの唯一無二だ。恋愛小説としても優れているのに、それに酩酊しているとその先に待ち受ける真実に脳天をかち割られるような衝撃を受ける。
劇作家と舞台女優の後追い心中事件を描いた「花虐の賦」がやはり無比の出来栄え。分かっているのに鳥肌が立ってしまった。「能師の妻」や「野辺の露」の壮絶さも勿論堪らない。男の元にかかってきた一本の脅迫電話。娘を守るため、そして三十年前に発生した毒殺事件の真相を解き明かすため、男は因習残る故郷に調査に向かう。
過去の事件の因果が現代に巡り、噛み合わなかった歯車が回り始めてしまう。様々な違和感や綻びが収束する終盤は思わず声が出た。湿度が高く陰鬱な描写もさすがで、その緊迫感に囚われて逃げ出せなくなる。
神はいるのか。その曇りなき眼でわたしたちを見ているのか。ならばどうして、と縋りたくなるような言葉にできない悲しみ。最後の最後まで、その非情さに打ちのめされた。紛うことなき傑作。アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
伊坂幸太郎引越し先のアパートで出会った青年に本屋強盗に誘われた椎名。その二年前、ペット殺しの犯人にブータン人のドルジと立ち向かう琴美。
二つのエピソードが、空白の出来事を埋めるように交互に綴られる。圧倒的に「物語」としての力が強く、どんどん明かされる事実にひとり取り残されていくようで、途方に暮れてしまう。作中で語られた事実よりも、語られなかった年月を思ってさめざめと泣いてしまいそうになる。とても大好きな作品。
読後、胸にぽっかり開いてしまった穴を埋めたくて、言葉にし難い寂しさの名前を、ずっと知りたいと思っている。
ベストレビュアー
おすすめの本もご紹介!
身の上話
Kanonlichtさんのレビュー:
「いったいこれは何を読まされているのか」という感覚は著者の真骨頂。話の中心となる一人の女性と語り手はどうやら別の人物らしいと冒頭から明かされるけれど、なぜそうなっているかがわかるのはずっと先。どこにでもいる普通の女性がふと衝動的にとった行動で思ってもみない事態が次々と起こる。そんなことありえないと思いつつある意味で納得しながら読めてしまうのは、語り手がそれを事実と受け止め個人的見解を交えながら淡々と語る構造の巧みさだと思った。52ヘルツのクジラたち
よつば🍀さんのレビュー:
途轍もなく残酷でありながら愛おしさに震える。幾度も涙で文字が滲み、胸が締め付けられる思いだった。主人公は実母に疎まれ、自分の人生を家族に搾取されて来た貴瑚。奇跡の様なアンさんとの出会いで一度は救われるものの、過去のトラウマに縛られ選択を誤る。そんな貴瑚と出会うべくして出会った一人の少年。この少年も実母からの虐待を受けていた。深い孤独を感じ死ぬ事さえ厭わない二人が、互いに助け助けられ心を寄せていくさまに心が解れて行く。『助けて』の声が届かない子らが今もどこかにいるはず。52ヘルツの鯨の声に想いを乗せた傑作。マスカレード・ナイト
おからさんのレビュー:
犯人は誰なのか宿泊者の様々なストーリーも追いながら楽しく読めました。刑事の鋭さを保ちながらホテルマンとしての業務もきちんとこなし、プロフェッショナルとして働く新田がとてもかっこよかったです。物語に入りこむあまりとある夫婦のエピソードにほろり。様々な情報に引っ張られるし宿泊者全員怪しく感じてしまいます。要望の多い面倒な宿泊者が多いように感じたけれどそれもまた伏線。仕事に誇りをもっているからこその人生が細かく描かれていました。病と障害と、傍らにあった本。
有さんのレビュー:
現在病も障害も傍らには無いが、弱っている今に寄り添ってくれるエッセイ集だった。読めない書けない、うまくいかない時の薬みたいな本でもある。まだ知らない本の魅力が、可能性がここにあった。ささくれ立った心にじんわりと温もりが浸透していく。つらさや苦しさをただ見つめ、そこから学び、それでも生きる、だからこそ生きる人々の気概が私の肩を叩く。本は読まなくなる、読めなくなる日が来ても、それまでと違う形でまた寄り添ってくれるのだ。これは手元に置きたい。おすすめしてくれた読友さんに感謝。そして私もこの本をおすすめしたい。四月、不浄の塔の下で二人は
ひめか*さんのレビュー:
閉鎖的空間の中で育てられた静が兄を連れ戻すために人間世界へと足を踏み入れる。そこで青年・諒や苦労人のシングルマザー・相田と出会い、少しずつ変わっていく。人間世界のものを知らない静目線の語りが斬新で、人間の生きる世界は美しいし面白いと改めて感じられた。優しくて親切な諒に私も惚れた。強い志を持って決意したラストの静もかっこいい。これまで敵視してきた"泥人"の優しさや温かさに触れ、静と共に泣いた。俗な恋愛小説に仕上げていないところも平山氏らしくて良い。偽ファンタジー、異色恋愛物。引き込まれ、暫くは余韻が続いた。