梅の香りは霞み沈丁花の匂いが濃艶になる。如月が終わり弥生が始まり風景が和らいでくる。まるで麝香の匂いが私を誘っているようで。まるで月の光が私を呼び寄せているようで。春の音が聞こえる。夜の音が聞こえる。濃密で優雅な夜の気配は私を吸い込んでいきそうで。繊細で甘美な春の気配は私を守ってくれそうで。冬が終わった。閉ざされた寂寥が終わった。雪の純白とはしばらくさよなら。冷たい空気とはしばらくさよなら。冬がくれた星空の美しさを私はきっと忘れないから。「花の香のかすめる月にあくがれて夢もさだかに見えぬ頃かな」(定家)。
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