乱読。遅読。積読。あれもこれもと死ぬまでに読みたい、読んでおきたい本は山ほどあれど、イカンセン脳ミソが足りない。集中力が足りない。歳とともに時間が経つのが早くなり、残された時間はどんどん減っていく。それなのに1冊読むうちにも、読みたい本は2冊3冊と日々増え
ていく。追いつかない。気持ちは焦るが、1頁1頁、1冊1冊をゆっくり、じっくり読み進めていくしか道はないのだと、自分に言い聞かせる今日この頃です。登山もランニングもピアノも同じ。吉本隆明さんの著作は難攻不落の大山脈で、麓をウロウロするばかり。プルーストは登山口に立っただけ。『源氏物語』も一度くらいは通読したい。
また読書メーターをやってみようと思い、戻って参りました。
読書好きのみなさんと感想など共有できればと思います。どうぞよろしくお願いいたします🙇
中庸平凡。
「なぜ」が世界を変える
一章 死んだ教室
黒板に書かれた公式を、誰も見ていなかった。
春日高校3年B組。窓の外では桜がとっくに散り、五月の風が体育館裏のネットを揺らしている。教室の中は、ノートを枕にした頭と、スマホを膝に隠した手と、どこでもない虚空を
見つめる目ばかりだった。
前任の数学教師、田村が異動になったのは三週間前のことだ。
田村の授業は「板書が速く、説明がない」という様式美で成立していた。公式を写す。問題を解く。答え合わせをする。そのサイクルが三年間、一度もブレたことがない。誰も何も理解していなかったが、誰も何も困っていなかった。定期テストの範囲さえ覚えれば、点数は取れた。
「じゃあ静かにしてろ」
自習監督に来た英語の松本が教卓に文庫本を広げた瞬間、後ろの席の川島涼太は盛大なため息をついた。
「物理も数学も詰んだ。もう諦める」
隣の席の小野寺実が細い声で言った。「受験、どうすんの」
「知らん。文系にする。けど古文も詰んでる」
「それ全部詰んでるじゃん」
「そう。俺の高校生活、詰んでる」
涼太はそのまま腕に顔を埋めた。
扉が開いたのは、そのときだった。
二章 最初の五分間
入ってきた男は、教師にしては若すぎた。
三十代前半だろうか。スーツではなく、白いシャツに黒のスラックスという格好で、持っているのはチョーク一本だけだった。荷物も、教科書も、出席簿さえない。
「あ、田村先生の代わりに来た桐島です。よろしく」
それだけ言って、桐島は黒板の前に立った。
松本がバツの悪そうな顔で文庫本を閉じ、教室から出て行く。誰も桐島を見ていなかった。川島涼太も、顔を腕に埋めたままだった。
桐島は黒板を消すこともなく、静かに言った。
「一個だけ聞かせてください。サイン、コサイン、タンジェント。何のためにあるか、知ってる人」
沈黙。
「知ってる人じゃなくていい。なんとなく聞いたことある説明、なんでもいいです」
最前列の優等生、橘花が恐る恐る手を挙げた。「直角三角形の、辺の比、です」
「そう。それは正しい。」桐島は頷いた。「じゃあ、なんで人類はそんなものを作ったの?」
また沈黙。
涼太は顔を埋めたまま、耳だけ動かしていた。
「答えは、海で死にたくなかったからです」
教室の空気が、わずかに変わった。
三章 話の背骨
「紀元前の船乗りを想像してください」
桐島はチョークを持ったまま、歩き始めた。教壇ではなく、教室の中を。
「GPSもない。地図も大雑把。嵐が来たら終わり。そんな時代に、人間には一個だけ頼れるものがあった。星です」
窓際の席の女子が、スマホから目を上げた。
「北極星の角度を測れば、自分が地球のどの緯度にいるか分かる。でも角度を距離に変換するには、計算が要る。弧の長さと角度の関係。それを扱う道具として、三角比が生まれた」
桐島は黒板に、三角形ではなく、円を描いた。その円の中に、小さな船のシルエットをざっくりと書き加える。
「だからサインとコサインは、最初から『回転』と結びついてるんです。直角三角形の話じゃなかった。人間が空を見上げて、自分の位置を知ろうとした話だった」
涼太は、いつの間にか顔を上げていた。
「で、ここが大事なんですけど」
桐島の声が、少し速くなった。
「多分今、半分くらいの人が『じゃあ直角三角形の説明はなんだったんだ』って思ってる」
涼太は思っていた。まさにそれを。
「それ、正しい疑問です。答えは、円と直角三角形は実は同じものを見ている、です。円の中に直角三角形を書いてみると分かる」
チョークが動いた。円の中に、斜辺が半径と重なる直角三角形が現れた。
「角度が変わると、縦の長さが変わる。それがサイン。横の長さが変わる。それがコサイン。つまりサインとコサインは『角度が変化したとき、縦と横がどう動くか』を表してるだけ。波の形をしているのも、音が波打っているのも、交流電流がぐにゃぐにゃしているのも、全部これが理由です」
橘花がノートに何かを書き始めた。急いで、でも丁寧に。
四章 つまずく前に
桐島は一度立ち止まり、教室全体を見渡した。
「ここで絶対に混乱する人が出るので、先に言います」
涼太は背筋を伸ばした。自分のことを言われている気がした。
「サインが『縦』でコサインが『横』って、逆じゃないかって思う人がいる」
涼太はまさに思っていた。
「コサインの『コ』って、英語でco-、つまり『補角の』って意味なんです。サインの補角がコサイン。だから横なんじゃなくて、サインを基準にして、それを90度回転させた相棒がコサイン、と覚えると混乱しにくい」
川島涼太は、手を挙げていた。自分でも気づかないうちに。
「あの」
桐島が目を向ける。
「じゃあタンジェントは」
「いい質問です」桐島は笑った。「タンジェントは、英語でtangent、接線って意味です。円に接する線の長さ。縦と横の比を取ると、円の傾き、つまり坂の角度が分かる。スキーのゲレンデが何度の斜面かを知りたいときに使います」
「スキー場」と涼太は呟いた。
「そう。人類はスキー場より先に、山の傾斜を測って安全な道を切り開くために使ってた」
五章 放課後の黒板
授業が終わった後、涼太は席を立てなかった。
頭の中で何かが繋がり続けていた。サインとコサインが船乗りの道具で、タンジェントが山の傾きで、波の形が交流電流で。バラバラだったピースが、一本の糸で縫われていく感覚。
桐島が黒板を消しながら、涼太の視線に気づいて振り返った。
「何か残ってる?」
「いや」涼太は言葉を選んだ。「なんか、気持ち悪かったものが、急に気持ちよくなった感じがして」
「それ、一番いい感覚です」
桐島はチョークを置いた。
「公式って、誰かが必死に考えた答えなんですよ。問いがあって、試行錯誤があって、やっと辿り着いた形。だから公式を覚える前に、その人がどんな問いを持っていたか分かれば、覚えなくても導ける」
「導ける、か」
「数学も物理も、暗記科目じゃないです。推理小説です。どうしてそうなるのか、追いかけていくと、必ず理由がある」
涼太は窓の外を見た。五月の空が、夕方の色に変わり始めていた。
「推理小説か」
声に、どこか火がついたような響きがあった。
六章 一ヶ月後
川島涼太の数学の点数は、赤点ギリギリから学年十七位まで上がった。
それよりも変わったのは、授業中の顔だった。
桐島が何かを説明し始めると、涼太は必ずどこかで「あ」という顔をした。声には出さない。でも眉が上がって、目が少し細くなって、口の端がわずかに動く。
小野寺実はそれを「涼太の理解顔」と呼んで、いつしか自分もそれを待つようになっていた。
桐島の授業には、不思議なリズムがあった。
疑問を育てる。疑問が熟したところで答える。答えが新しい疑問を生む。そのサイクルが、五十分をあっという間に変えた。チャイムが鳴るたびに、教室のどこかで小さな舌打ちが聞こえるようになった。終わりたくない、という音だった。
エピローグ 問いを持つ人間
十一月。模試の返却日。
涼太の答案には、物理の大問に、見慣れない記述があった。
公式を使う前に、三行の説明が書いてあった。「この状況で保存されるのはエネルギーであり、なぜなら——」
採点者のコメント欄には赤ペンで一言あった。
「理解している」
涼太はその答案を、机の引き出しにしまわなかった。
桐島の授業が始まる前、机の上に広げておいた。理由は自分でもうまく説明できなかったが、なんとなく、見えるところに置いておきたかった。
扉が開いた。
「今日は慣性の話をします」桐島は言った。「まず聞きますけど、なんで止まってるものって、動き出しにくいんだと思う?」
川島涼太は、一番最初に手を挙げた。
了
年金生活者。趣味は、読書、映画、旅行など。ついに、73歳、「ついにゆくみちとはかねてききしかどきのうけふとはおもはざりしを」、まさか自分が、その歳になるとは。驚きと嘆息です。ボケないように、日々頭と体を鍛える所存です。海辺のファーストペンギン、時々テ
レビで見かけるペンギンの集団、一番先頭を行くけど、別にカリスマ性や深い考え、思惑があって先頭を突っ走ているのではないが、なにか行動的なものを感じる。ああいう感がなしでだけれども、自分を信じて突っ走る勇気と根性を見習いたい。ほんとうは、慎重に行動して他人のふり見てわが身を正せが信条でありつつ、突撃、神よ我にご加護を与え給えというのも大好きな人間です。(とりあえず一部改訂、年齢調整)
ジャンルは問わず、軽いものから重いものまで,気になったら読むようにしています。
好きな作家は三浦しをんと沢木耕太郎,海外(シカゴ)在住なので,電書メインです。
読書熱の上がり下がりが激しいので,なんとか安定させたいな〜。
北海道釧路市出身。北海学園大学人文学部日本文化学科中退。著述家兼書評家、歌人。様々な職業を転々とした後に小説『遠浅の海』(KDPほか)やエッセイ集『生産性はなくても本は出せる』(同)など8作を自己出版。座右の銘は「曾子曰、君子以文會友、以友輔仁」(孔子)な
ど。
令和7年私が選ぶベスト著書
第1位 著 「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉 原丈人著
第2位 著 トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇 アビゲイル・シュライアー著
第3位 著 入門 シュンペーター 資本主義の未来を予
見した天才 中野剛志著
第4位 著 ヒルビリー・エレジー J・Dヴァンス著
第5位 著 翠雨の人 伊与原新著
第6位 著 玉木雄一郎、「国益」を大いに語る! 藤井聡著
第7位 著 「あの戦争」は何だったのか 辻田真佐憲著
第8位 著 成瀬は信じた道をいく 宮島未奈著
第9位 著 投資依存症――こうしてあなたはババを引く 森永卓郎著
第10位 埼玉クルド人問題 ─ メディアが報道しない多文化共生、移民推進の真実 石井孝明
第10位 日本経済の死角 ――収奪的システムを解き明かす 河野龍太郎
読書を通じて、論理(ロゴス)と霊性(ピュシス)の接点を探究しています。
元来、行政実務やビジネス規制の現場に身を置いていた背景から、ルソーやカントといった西洋の社会契約論、法哲学、そしてマルクス等の労働価値説を含む経済史を思索の柱としてきました。しかし、
現代の生成AI(LLM/RAG)がもたらす知性の変容に直面する中で、改めて日本人の根底にある「神道」の自然観や、空(くう)を説く「仏教」の精緻な心理学的側面に深い叡智を見出しています。
2026年より本格化させた占術(カード・ダウジング)の実践は、これら東西の思想を単なる理論に留めず、生きた知恵として社会に還元するための試みでもあります。既に200回を超える鑑定の現場では、古典が教える普遍的な「問い」が、現代人の迷いを解きほぐす鍵になることを実感しています。
また、英・仏・中・越の4か国語習得に励むのは、言葉の壁を超えて各国の精神構造に触れるため。簿記の学習による計数的視点、そしてロックやパンクの歌詞に宿る社会への批評性。これら多岐にわたる関心を、神仏の智慧という大きな器で統合していく過程を記録しています。
古典から最新技術、そして信仰や精神世界の本まで、節操なく読み漁ります。共読の方との深い対話を楽しみにしています。
📬 イベントや対話の場も企画中。読書をきっかけに、リアルなつながりが生まれることを願っています。気軽にフォロー&コメントください!
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社会人2年目。
中学生時代に友人の勧めもあって読書を始めました。高校時代〜大学時代はしばらく本から離れてテニスやギターをやってました。
社会人になり隙間時間にできる読書をまた始めました。今
は作家になるのが夢です。
好きな作家:道尾秀介/三秋縋/伊坂幸太郎
/東野圭吾/星新一
■個人的ベスト書籍
道尾秀介『シャドウ』
ジョージ・オーウェル『1984』
フィリップ・K.ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
三秋縋『三日間の幸福』
三秋縋『恋する寄生虫』
最近は、日本農業(食糧)問題、憲法改正問題、相続税(節税,マンション投資など)関連の書籍を中心に読書しています
現代思想/社会学と映画/批評家 今年11年目を迎える読書会主催。
このアカウントは基本読書会の忘備録とお知らせ
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2025/4/30更新
みな様の感想、つぶやき💬などなどに、感激し「ナイス!」を推す習性が有ります。悪しからず(≧∇≦)b
2025/3/21に、名前を「ぶふひこ」から「明るい表通りで🎶」に改名。
ルイ·アームストロング - 明るい表通りで
コー
トをつかみ、帽子を取ったなら
悩みはひとまず置いといて、ドアをあけよう
明るい表通りをあるけば
何もかも良くなるさ
君と出会い何もかも変わったんだ
幸せな曲でステップを踏み鳴らして
明るい表通りをあるけば
全てがうまくいく
今まで暗い道ばかり歩いてきたんだ
でも今は恐くない
たとえ1セントも持っていなくとも
気分はロックフェラーみたいな金持ちさ
明るい表通りをあるけば
足元の塵もいつか金に変わるんだ
(インストゥルメンタルブレーク)
今まで暗い道ばかり歩いてきたんだ
でも今は恐くない
たとえ1セントも持っていなくとも
気分はロックフェラーみたいな金持ちさ
明るい表通りをあるけば
足元の塵もいつか金に変わるんだ
明るい表通りをあるけば
明るい表通りをあるけば
ルイ・アームストロング この素晴らしき世界/ハロードーリー!
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ルイ・アームストロング「On the sunny side of the street」収録アルバム
「The Lady is a tramp」日本語訳
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私にとっていまを生きるって、バタフライで、宙を舞い、泳ぎ続けること(^^)
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本と(ホント)の出会いは、宝物
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新聞などの書評を読むのが大好き。刺激を受けてあたらしい本を探すのも楽しみ。図書館利用が多いかも。
辞書が好きでいろんなものを持っている。
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満男「伯父さん、人間てさ、人間は何のために生きてんのかな?」 寅「難しいこと聞くな、、、。何というかな、ああ生まれてきてよかったって思うことが何べんかあるだろう。そのために生きてんじゃねえか」 満男「ふーん」 寅「そのうちおまえにもそういうときがくるよ、な? まあ、がんばれ」(第39作『寅次郎物語』より)
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力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思わせ、男女(をとこをむな)の仲をも和らげ、猛(たけ)き武士(もののふ)の心をも慰むるは、歌なり
『古今和歌集』の「仮名序」
言葉だけで天地を動かし、恋を盛り上げ、鬼神も武士もエモくさせてしまう、和歌。
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見てもまたあふよまれなる夢の中(うち)にやがてまぎるるわが身ともがな
世がたりに人や伝へんたぐひなくうき身を醒めぬ夢になしても
(若紫巻)
許されぬ恋…光源氏と藤壺の贈答
(光源氏)逢ってもまたふたたび逢うことはめったにない逢瀬の夢の中に、そのまま紛れて消える身となりたいですよ
(藤壺)世間の噂に人が語りかけ伝えるのではないでしょうか、比類なくつらい我が身を醒めない夢にしてしまったとしても
ひりひりと感じる真夏の夜の夢、千年の年月を超え、読み継がれる、『源氏物語』に夢中です(*^-^)ノ
読書が大好きで、小学校の頃から図書館には足を向けて寝られない程お世話になっています。ただ、そのせいで、ベストセラー本を評判になっている時期に読むことは滅多にありません。
熱しやすく冷めやすいので、記録をつけ始めても続けられた試しが無く、英語の多読もあっと
いう間に語数がわからなくなってしまいました。(多読自体は細々と続けてはおりますが・・・。)このサイトは新聞で知ったのですが、覗いてみたら、私のような無精者にも敷居が低そうな気がして登録しました。
好きなジャンルは翻訳ミステリーですが、エコロジーや手作りにも関心があるので、その分野の本もアンテナに引っかかれば読みます。近未来小説も好きです。ギャビン・ライアル、ディック・フランシス、レジナルド・ヒルが亡くなって悲しいです。P・D・ジェイムズには長生きして欲しい!ドロシー・L・セイヤーズ大好き!
どうぞ。
穏やかに健やかに。
国見弥一…やいっちです。 パスワード不明のため、臨時のサイト。
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