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2022年7月の読書メーターまとめ

えふのらん
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感想・レビュー
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ナイス
244ナイス

2022年7月に読んだ本
33

2022年7月にナイスが最も多かった感想・レビュー

えふのらん
外面は柳田國男や折口信夫に続くような幻想性の高い小説なのに仕掛けは推理小説。かなり構築性が高いし物語性に対して手厳しい。夜市は兄の自己犠牲……に見せかけて業者の規則違反に対する断罪が主題。風の古道も蘇生者の運命からイザナミを髣髴とさせながら実は境界の機構と住人の自警が道の悪用を正す様に焦点が定められている。神隠し、山人、そういった神話的なモチーフを扱いながらも超自然的な許しを拒絶して、時計仕掛けの神も振り払っている。ひたすら切り詰めて贅肉をそぎ落としたような作品だった。
えふのらん
2022/07/23 15:38

あと中盤で東雅夫のアンソロに収録してそうだな、と思いつつ風の古道を読み終えてみればあとがきが東雅夫だった。だよなぁ……。

が「ナイス!」と言っています。

2022年7月の感想・レビュー一覧
33

えふのらん
雲南省スー族よかった。生老病死すべてをVRを通して体験する、というシチュエーションそのものはありがちだけど、それを学会向けの報告書風にすることで珍しいスタイルを獲ている。使用例というのがポイントで単に通過儀礼や風俗を報告するのではなく、参与観察を間に挟む事でリアリティを会得している。検疫官も職業倫理と葛藤したうえでガジェット(物語)と向き合っているのが面白い。アメリカンブッダもネイティブアメリカンの立場から四諦八正道を解釈する、という視点は面白いけどMアメリカがややイデオロギーチックでいまいちノリきれなか
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えふのらん
孫文が設計した回路基盤に南方熊楠が育て宮沢賢治が磨け挙げた粘菌演算処理装置を積んだ西村真琴設計の少女人形と学則天二号が北一輝と対決する冒険活劇。捻りに捻りを重ねて要約してしまうと何が何だかわからないが、兎に角面白かった。当時の文理越境的な研究者や胡散臭い軍人たち、そういった時代の空気がサイバーパンクで結びついているのが特徴で、歴史改変でありながらきちんとSFとしても充実している。天皇との謁見も一ひねりした解釈がされているのもすごい。これが北一輝に結びつくというだけでも一つの浪漫だものな。
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えふのらん
原始霧へと還元された世界は審神者/巫女の突き立てた天沼矛によって再現され、日瑠子陛下は素戔嗚と共に流される。日瑠子陛下はもちろん蛭子命、原始霧も山を覆う朝霧と重ね合わせになって柚子=朝霧の巫女に着地している。これまで単に神話的なモチーフだったものがきちんと記紀や山の人生に収束しているのが嬉しい。
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えふのらん
怪奇の象徴だったコマが死ぬのにあわせて日瑠子陛下は2.5次元化。楠木正成の部下として義経やら忠正やら源平を超えて朝敵(?)が集まる。もちろん新田義貞も。節操の無さというかリアリティラインがぐちゃぐちゃになる光景がサイケデリック。あとラストの花於ちゃん。黄泉醜女を画にしているだけでもありがたいんだけど、それに因縁が付くとなお面白い。
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えふのらん
七生報国の本義は仁義ではなく素戔嗚との契約だった、と解釈する慧眼というか勇気。山人を通して意思疎通をしているのも楠公ならありうる。正季も何百年も立って女体化された上に依り代にされるとは思わなかったろう。
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えふのらん
学園物を間にはさみながらも、そこで演じられた物語をきっちり伝奇に落とし込んでいる。素戔嗚と対抗するために天津彦根を宿したはいいけれど、そのおかげで成った柚子との仲が菊理の離反を生み、素戔嗚/楠木の再興を成してしまう。勢力図は変わっていないけれど、人間関係の程度ではしっかりゆり戻しが起こっている。折口信夫的妣国に囚われた忠尋に巫女が柳田國男的唱和で呼びかけかけているのも熱い。「かやせ!」
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えふのらん
「妣が国へ、妣が国へ罷らん」から「素戔嗚と号すなり」までの密度と勢いがすごい。冷静に考えれば近親血縁怨念云々で黄泉に憧れるのは、かなり性的であれなのだが画で倫理が保たれている。そもそも記紀がそんな話ではあるが、その辺のモチーフの選択/置換(蟲)がうまい。あと須佐之男ではなく素戔嗚なんだね。
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えふのらん
山の描き方や視線の誘導の凄み。重要なモチーフだから強調しているのは当然だけど、ここまで背景に意味を持たせる力量には感心する。あと対立軸を考えるのが楽しい。そりゃ天照/北朝/平田勢からすれば素盞雄/南朝/楠木/熊沢は朝敵だし、逆から見れば偽王なんだよな。天津も無関係だと言いたくなる理由もわかる。
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えふのらん
全自動石臼
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えふのらん
偽亮大夫の自作自演の翻案がうまい。うますぎて朝霧の巫女オリジナルのエピソードに見える。吊瓢箪や頭から這い出す一つ目の小人も古典を経由しているのに現代(平成)の物語として読めてしまう。こういう日常を感じさせるのが稲生物怪録の良い所だし、それを落とし込む作者もすごいよな。あと楠木が吉野に行ってるのもポイントが高い。
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えふのらん
忠尋が山に魅入られる際の視点移動(コマ割)が印象的。街の雑踏(買物)から歩道(帰り道)、霧のかかった山という具合に情報量、画風をコントロールしている。境界を意識した画風の変化は後半で顕著だけど、一巻の頃から異化はうまい。稲生物怪録も巻物の抽象度をそのまま持ってきているのも確信犯的。エヴァと比較される事が多いが、モチーフも作風もまるで違う。脚本くらいではなかろか。
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えふのらん
昭和霊異記1は妖怪談義で3は山の人生、漫画としてのうまさももちろんあるけど、芯がぶれないが故に引き付ける魅力がある。にしても柳田國男好きなんだな。
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えふのらん
何をおいても柳田國男の美しい文章と史料に向き合う誠実な態度。民俗学の史料としては色々と批判されているので評価はし辛いのだが、彼が生み出した文語体がこの作品に独特の価値を与えている。特に遠野物語に登場する神隠しや山人、郷里の信仰を記録している部分が顕著で、その今の時代とはかけ離れた雰囲気、使われなくなった文体がエピソードに怪奇小説的な風味を加味することになった。
えふのらん
2022/06/23 09:17

一方の山の人生は視点そのものが面白い。ひたすら昔話を例示し、その連関を探るというつくりで昔話の語りと論考が一体化している。今なら援用した理論から引用箇所まで逐一明記しなければならないし、そういった態度こそが誠実だといえるが、柳田國男がいた時代がそれを超越し、特権的な作風を与えている。隠された子どもを捜す村民の「かやせ」の声と表紙を取る鐘太鼓の音が一体となった神隠しの項などは特に読み応えがあった。

えふのらん
2022/06/23 09:23

また、仙人への憧れに義経記の起源を見ているのも柳田らしい。元々一本道だった原本を常陸坊海尊(百歳以上)を自認する者らによって語りなおされ、やがて地方のエピソードが回帰的に編みこまれていったらしい。編纂課程が発信者/受信者の欲望を通して肉付けられていく様はスリリングですらある。(その信憑性はさておき)。民俗学の起源に相応しい一冊だ。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
たった一ヶ月の出来事なのに妖怪たちのアクションの豊かなこと。巨人に小人、ヒキガエルあたりまでは有りふれた化物だが、それらが煌々と目を光らせ頭部から這い出してくる。何をするにしても、ただ襲い掛かるのではなく驚かせるために一癖も二癖もある悪戯を仕掛けているのが面白い。行灯から立ち上がった炎が天井まで燃え上がったかと思えば、次の日には畳からは水が湧き出、いつのまにか石臼は無人でぐるぐると何かを引きはじめる始末。他にも刀の鞘や瓢箪が空中を舞うなど、空間を使った演出さえある。
えふのらん
2022/06/23 08:48

描かれている怪奇現象はどれも火や水、光といった現象を操ることのできる生き物でそれが一々想像を掻き立ててくれる。化物の造詣や生態の提示に止まる作品が溢れるなかで、これほど視覚的/文学的な効果が発揮できているのは奇跡と言っていい。ラブクラフトに肉薄するような、重厚なスタイルを獲得している作品だと思う。

えふのらん
2022/06/23 08:51

作中の主人公もこれまた面白い。怪奇現象が起きようが妖怪に舐められようが”騙されようが”何があっても寝る。京極夏彦オリジナルか、と思えば記録の方でもきちんと寝ているから、このユーモアも意図されたものなのだろう。あと、最期に理由が明かされるのも意外性があった。良いものを読んだ。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
外面は柳田國男や折口信夫に続くような幻想性の高い小説なのに仕掛けは推理小説。かなり構築性が高いし物語性に対して手厳しい。夜市は兄の自己犠牲……に見せかけて業者の規則違反に対する断罪が主題。風の古道も蘇生者の運命からイザナミを髣髴とさせながら実は境界の機構と住人の自警が道の悪用を正す様に焦点が定められている。神隠し、山人、そういった神話的なモチーフを扱いながらも超自然的な許しを拒絶して、時計仕掛けの神も振り払っている。ひたすら切り詰めて贅肉をそぎ落としたような作品だった。
えふのらん
2022/07/23 15:38

あと中盤で東雅夫のアンソロに収録してそうだな、と思いつつ風の古道を読み終えてみればあとがきが東雅夫だった。だよなぁ……。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
不条理とか砂漠とか迷宮とか分裂症とか、すべてを包括的に定義してしまえばいくらでも分類しなおせる作品ではある。のだけれど、基本構造は藪の中なので傾向さえ認めてしまえばわかりやすい。みんな身勝手な人間ばかりだ。依頼人も依頼人の弟も大燃商事も燃料屋も皆嘘つきで自分都合で情報を小出しにする。探偵は真実を探るが、誠実になればなるほど入れ子上の情報=都市に圧倒され認識を、自我を喪失する。近代都市は嘘で塗り固めないと生きてはゆけない無間地獄……ならば、むしろ、己を背景化してしまえばいいではないか。
えふのらん
2022/07/19 20:15

ジャンプカットやコラージュではなく、あくまで理路整然と自我を前景化していくあたりのが安部公房らしい。虚構に満足できない田代は首を吊ってしまうが、これも主客の転倒を止揚するための仕組みだろう。砕け散るのは個人の思い出ではなく認識の仕組みそのものなのだ。ただ、嘘に付き合うのは疲れる。戯言の質はいいが、何度も読み直す気にはなれない。藪の中くらいがちょうどいい。

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えふのらん
騒音と屋上に集う烏、喧騒と包帯で耳を塞ぐ少女、雑踏で人を翻弄する都市と意識を吸い出す球体、と主題を挙げれば都市論のようではあるのだけれど、それを追う意識はどこまでも感情的で粗野。近代的な対象を描いてはいるのだが、そこには常に”私”がいる。孤独な、厭世的な、はみだし者の”私”。良く出来た作品ではあるのだけれど、あまりに情緒すぎる。そこまで主観にこだわるなら都市で主題を統一する意味はないと思う。物自体は認識の枠組みの内にある、と言ってしまうことはできるだろうが、安部公房くらい鋭利な方が私は好きだ。
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えふのらん
表紙が素敵にアクロバティックなので小川未明にそんな話あったっけ??ってなりながら読んでみたら、中身はしっとりとした彼らしい噺だった。蝶の浮遊感と香水の挿絵が洒落ている。乙女の本棚シリーズらしい個性はないのだけれど、絵本としては楽しい。この作風で赤い蝋燭と人魚を描いてほしい。
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えふのらん
顔に”運”と書いただけの運慶(第六夜)や第八夜の割烹着に花顔の店員が夢らしい雰囲気を醸し出している。場面に合わせた色の変更、改行も洒落ている。挿絵の使命としては矛盾しているようだけれど、このシリーズはキャラクターが匿名的であるほど作品と波長があっていると思う。原作に癖があるから絵が個性的すぎれば互いに殺し合ってしまうし、かといって無個性すぎれば文章に食われてしまう。桜の森のもそうだったが、今作も顔の欠落が作品を引き立てている。良書。
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えふのらん
ショートショート風の構成だけど雰囲気は赤江瀑そのもの。殺意渦巻く東北、諦念を運ぶ御遍路、未練がましい平家、隠された罪や哀しい記憶が土地や夢を通して明らかになっていく。明語彙の選定も的確で次代設定の違和感を消しつつすらすらと読ませる。ちょっと恒川光太郎にも似てるかもしれない。
えふのらん
2022/07/17 19:50

彼にしてはエロスは控えめなので入門書に剥いているかも(私は苦手なのでこれくらい質素な方が好き)。

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えふのらん
程よく抽象、程よく具体的。桜をモチーフにしているだけあって色彩や花びらの質感がいい具合に絵に落とし込んである。読者層を考慮してか首遊びは控えめな表現だけど、簡素な表現が逆に首実検を思わせる雰囲気になっていて不気味だ。紙の手触りや頁ごとの色合いもこだわってる。空欄の多用や人物の選定が想像力を働かせる効果を生んでいる。が、ややヒロインの絵が多すぎるような気もする。正体が明かされる終盤は好き嫌いがわかれるのでは。
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えふのらん
幻想文学としてよくできてはいるけど、モチーフが具体的なせいでバランスが崩れている。憑依や視点の交錯も魅力的なんだけど、トリガーになっている取引や嘘が人間臭いから不思議というより不快な感情が残ってしまう。どうせなら常世が読みたかったなぁ……。
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えふのらん
山人は天狗の下働きもするから忙しい!とあって遠野物語もとい柳田國男との温度差を感じた。土竜を斬ってみたら血の固まりだったが、これは人の穢れを流したものが凝固したものではないか等々の平田流解釈も面白い。が、彼に合わせて少年も語っているのか全体的に国学調で、やれ天狗が仏の姿を借りて皆を誑かしているだの龍が仏典を噛み砕いていただの仏教は邪教だからーとどう読んでも仏教に反発して編み出したような物語と解釈がいくつも収録されているからいい加減げんなりしてしまう。説話集としては稲生物怪録より劣る。
えふのらん
2022/07/11 19:07

鉄を食う針鼠もハッタリがきいていい。いいんだけど、やっぱり平田に合わせているのが見え見えで……そこがワイドショーっぽくて嫌だった。

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えふのらん
八百万といっても農業を主体とした生活を送っている以上は自然と豊作を願う類の神が生成されるわけで、その辺は欧州の神とあまり変わらない。むしろデジャブ感がちょっと楽しかった。記紀等で神の見分けがつかなくなった際などに辞書的に利用すると良いかも。ただ、それぞれの神格にそれほど違いがないから読み通すのは難しい。(だからプロフィールなのだろうけれど)
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えふのらん
登場人物(神)の数をほどほどに抑えてあるから読みやすい。筋を押さえるだけならこれでいいかも。波邇夜須あたりのネタを収録していないのはご愛嬌ということで
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えふのらん
視聴覚を揺さぶるが所々に仕組まれている。”盲目”の芳一を囲む平家一門の”声”、安芸之助が”視た”胡蝶の夢。怪談は不気味でなくてはならないけれど、百物語のような筋立てで怖がらせるのではなく、読者の五感を利用しようとしているのが中々面白い。ただ、最後の最後に社会進化論を引いてきてげんなりしてしまった。安芸之助の夢の源を明らかにしたいという姿勢は理解できるが、スペンサーの思想が二十世紀の民族迫害諸々の原因になっていることを考えると収録すべきではなかったと思う。
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えふのらん
やっぱり耳なし芳一が飛びぬけて面白い。基が琵琶秘曲なのである程度物語としては完成しているのだろうけれど、古典なのに近代的な質感がある。見えないからこそ「耳で」わかってしまう武士の気配、壇ノ浦を耳にした平家一門の嘆息。 今昔を底本に地獄変を書いた芥川と同じで、翻案でも才能のある人が書けば別物になる好例だろう。今昔からとった安芸乃助の夢、幻想文学風の衝立の乙女、輪廻転生を題にした蝿、雉のはなしもよかった。引用元は宇治拾遺あたりの仏教説話だが受け入れる側の気分を強調したことでより視覚的になっている
えふのらん
2022/07/08 03:26

また芥川との比較になってしまうけれど、今昔物語や宇治拾遺物語を現代的な視点で読ませてくれるという点では地獄変や羅生門と同じくらい大切な本だと思う。特に質感が独特で古典を異化するのに決定的な役割を果たしている。モラルを重視した芥川とも違う。古典でありながら新鮮さを感じるのはそういう細部へのこだわりなのではなかろか。

えふのらん
2022/07/08 03:29

あと宇治拾遺、今昔は定番として雨月物語っぽいのも収録されてますね。ただ青頭巾は微妙に視点や筋を変えている。むしろ異本だったりするんだろうか。琵琶秘曲からの引用もあるらしいので、原典を探すだけでも大変そう。

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えふのらん
大手二社が文庫化しているのに今更「藪の中」、と訝しくも思うかもしれないが侮るなかれ。兎に角ラインナップが濃い。それもサイコスリラーに振り切れている。殺し殺され犯された当人が各々自分勝手な言い訳を重ねる「藪の中」、老婆が死体の毛を抜く様を見て、野党に成り下がるか迷っていた男が”決心”する「羅生門」、最愛の娘が生きたまま焼かれる姿を画に写し取る「地獄変」、「蜘蛛の糸」については、もはやあらすじを説明する必要もないだろう。極限状態におかれた”近代”人は何を思うのか、ただひたすらエゴイスティックな一冊。
えふのらん
2022/07/08 02:48

ただ「鼻」も収録しているので単に今昔物語集をなぞっただけの可能性もなきにしもあらずです。

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えふのらん
藤木氏には朝日選書の三部作があるので正確には違う、のだけれど雑兵たち戦場の続き。天下統一が成し遂げられたあと、彼らの武器はどこへ行ったのか、刀狩ですべて消えてしまったのか、残っていたとして、どのように運営されたのか、というのがこの本の趣旨。結論から言ってしまえば武器はあった、百姓もノンビリしていたわけではなかった。普通は締めがわかってしまえば八割読んだようなものだが本書はそれからが本番。武器はあった、ということを証明するために武器管理の御触書が次々に呈される。
えふのらん
2022/07/05 04:16

面白いのが喧嘩停止令で、用水を巡って喧嘩が起こったがその際に刀の使用が確認されたから数名を処刑という判断が下ったらしい。武器を本来の用途から外れた使い方をしたから、というのは今の銃刀法と同じだが喧嘩そのものよりも武器の使用に重点をおいて、しかも処刑にまで踏み込んでいるのが興味深い。逆に一揆を起こした百姓に対して発砲を行い”非武装の人間に武器を向けるのはよくない”と体制側が上からお怒りを受ける場面もあったという。この辺の生命よりも身分制の維持、道徳の護持を優先するあたりいかにも近代以前の日本という感じだった

えふのらん
2022/07/05 04:25

後半では明治の刀狩は警察権力による武力(銃)の独占にはじまり徴兵制に伴う軍隊の表象化に至った等々の若干角度を変えた刀狩批評が展開されているのも嬉しい。そも豊臣秀吉の刀狩は大仏建立の材料集めやそれに伴う功徳がウリだった、という豆知識も得られた。(これはこれで目配せをする相手がいるから重要ではあるのだけれど)。大変満足感のある読書だった。ただ、法令解釈については雑兵に続いて行き過ぎたものがちらほらあったので、そこだけは不満か。

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えふのらん
傭兵、奴隷とセンセーショナルなタイトルだが論考は社会学がベースで理路整然としている。傭兵も百姓も人間で命は惜しい、が、その前に食わねばならぬ。飢えた土地(北陸)で何千何万もの命が喪われるくらいなら肥えた隣国(甲斐)を襲えばいい、ついでに人を捕らえたなら売りさばけばいい。これをやっていたのが上杉謙信というのだから、ちょっとした驚きではあるが、生地では二毛作ができないから閑散期は山を下りて乞食になる他なかった、という事情以上のものではない。掠奪の方が稼ぎになるという世界があったのだ。
えふのらん
2022/07/05 03:43

また後半で展開される天下統一以後の世界もなかなか衝撃的だ。食うに困って雑兵になった百姓は戦時の味が忘れられず掠奪を繰り返し、時には都会に出ていくようになった。もちろん、このことで治安も問題にはなったが、同時に耕作放棄によって年貢は入らないわ、雑兵を雇い入れたことで兵の質も下がるわで散々だったらしい。税収の低下とコストカットによる職員の低下、とくればもはや封建や武士どうこうではない。世界中どこにでもありふれた風景になってしまう。

えふのらん
2022/07/05 03:49

考察は兵農分離の意義を問うことから出発しているが、これを転換期の経済と治安に見ているのも面白い。やや法令解釈が独断的なところもあったので全面的に賛成とはいかないが、一次資料から丹念に情報を抽出していく様には目を見張るものがあった。名著。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
軍記物語の武士、朱子学上の武士道を追った批評本。考えてみれば鵯越の逆落としは奇襲の代名詞みたいなものだし、義経の戦い方がそもそも武士らしくない。盛俊のやり口にしたって卑怯といっていい。なのに、何故、武士道は一対一の戦いを好み卑怯な戦術を恥じるのか……というのが本書の主題。著者は外的が存在しない社会を安定させるための思想、即ち(著作内では儒学とされているが)朱子学が武士のあり方を求めた結果として形成されたのだとする。
えふのらん
2022/07/05 22:10

ただ、これも一枚岩だったというわけではない。例えば荻生徂徠などは武士などというものは粗暴で学がなく、国を治める才覚などない、と言い切っている。同じ儒学者でも拡大解釈し武士を再定義した側と過去の兵法に詳しかったが故に拒絶反応を示した思想家によって態度が大きく変わっているのは面白い。

えふのらん
2022/07/05 22:27

精神史としては楽しく読む事ができたが、思想家から思想家へ飛翔する際の欠落が気になった。特に国学ずっぽり抜けているが、そこに武士はいなかったのだろうか。また、中江藤樹と山鹿素行を取り上げるにしても彼ら自身の思想のなかでそれをどう位置づけていたかがわからないので精査することができない。まぁだから「思想史」ではなく「精神史」なのだろうけど。刺激にはなったが真に受けるにはちょっと危険な本だと思われる。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
信長記と差別化するためか司馬遼太郎風を目指したのか、どちらかは不明だが武功よりも人格、特に実業家としての秀吉を強調していている。訳者の言うとおり本来の太閤記はキャラクターチックなのかもしれないけれど、清洲城の三日普請や薪奉行を強調しても、それはそれでビジネス書風になってしまうのだから如何なものか、と思ってしまった。あと逸話が貧乏臭い。文学が仏教説話や朝廷の権威から解放されたからこその物語なのだろうけれど、それが単なるビジネスマンの立身出世モドキというのはちょっと悲しい。
が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
信長の奇行を憂いた平手政秀の自害、桶狭間合戦を前にした信長が人間五十年、と自分をなぞらえた事等の有名どころは一通り押さえてある。長篠、桶狭間も基がドラマティックなので引き込まれた。父親の棺桶を前にした狼藉や延暦寺への焼討といった鬼畜な所業も収録していて、伝記としては美化と史実半々といったところ。ただ毛利とぶつかってからはどこを攻めた落としたの羅列で読み物としてはいまいち。まあ戦国そのものがそのような時代なので太平記のような官軍と逆賊のドラマを求めてもしょうがないのかもしれ
が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2011/12/09(4522日経過)
記録初日
2011/12/09(4522日経過)
読んだ本
1177冊(1日平均0.26冊)
読んだページ
321672ページ(1日平均71ページ)
感想・レビュー
1177件(投稿率100.0%)
本棚
1棚
性別
現住所
奈良県
外部サイト
自己紹介

ほら耳をすませば天の声 脳内電波が 駆け巡る

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