初めて太宰作品を読んで、太宰治ファンは太宰治の書く文章が好きというよりも、太宰治が好きなのかもしれないと感じた。生きる中で起こる嫌な気持ち、恥ずかしい心、そういうものを語る太宰が好きなのかもしれない。自分も語りたくなるのかもしれない。

いよいよ石田衣良作品も何も考えずに頭を使わず時間を潰すだけの文章になっている気がする。何も残らない。骨のない文章。もっと歳を取ったら残るのかな。でもこういう頭を使わない羅列の文章も生きるのには必要で、時間を使うのには必要。

新卒で税務課で働く私のために書かれた本かと思った。1話目であんなにこちらのことを気にしていると思っていた人は2話目のその人視点では全然気にされていなくて、また別の人を気にしている、という構図が面白かった。女の人ってそうだと思う。自意識過剰に目につけられてるって思うけど、案外相手は別のことを考えている。女の人の世界と、女の人の気持ちと、女の人を描くのが上手い作家だと思った。終わり方はいまいちしっくりこなかったけれど、それはこれからこの作者が成長していくのだと思う。

読みながら、もっと真剣に読めば良かったと後悔する話。図書館で出会い、通勤の電車でなんとなく読み始めるような本ではなかった。伊坂幸太郎は天才だと実感する。

「スローグッドバイ」では男の人の幸せが訪れるのを見守る短編集だったけれど、「愛がいない部屋」では女の人の幸せが訪れるのを見守る話だと感じた。そう思ったけれど、今読み終わった時からしばらく時間を置いてパラパラ本を見直していると、幸せが訪れるのを見守っているわけではないと気がついた。女として、こんなことが訪れたら幸せだろうなぁというのを見守る話だ。好きだったのは、「魔法の寝室」の、麻耶が夜明けの壁紙と出会うシーン。解説の名越康文さんの「愛」に関する談義を私は忘れずずっと覚えていたい。

男の人のこういう女の人がいたら良いな、という気持ちを具現化したような作品。男の人の欲情を誘う容姿と風貌をしていて、でも中々させてくれない。それには悲しい訳があるけれども、中々教えてくれない。その悲しい訳というのも、普通に平凡に生きている人間には望んでも訪れない災害と色情が交わった悲しい訳。できすぎているし、妄想が過ぎる。でも石田衣良さんのそういうところが嫌いじゃないから私たちは読んでしまうんだろうと思う。壇蜜さんの解説が良かった。壇蜜さんの書いた文章を読みたくなった。

初めて太宰作品を読んで、太宰治ファンは太宰治の書く文章が好きというよりも、太宰治が好きなのかもしれないと感じた。生きる中で起こる嫌な気持ち、恥ずかしい心、そういうものを語る太宰が好きなのかもしれない。自分も語りたくなるのかもしれない。