幼い日の強烈な体験から一心不乱に研究に邁進するようになった、社会生活には難がありそうな主人公にも、荒くれ軍人の中で本物の兵器に囲まれて魅せられた林雲にも、研究者としてここまで突き抜けていれば何でも為せるのではないかとの感慨を抱いた。まったく分野違いながらも我が身の大学院時代を振り返ってしみじみ思うなど。あと、ICをろくに使っていないシンプルな車が走っていそうなのも中国の奥深さか。

核戦争という冷戦期には嫌でも人々が想像せざるを得なかった事態の後に、科学技術への憎しみから科学者の根絶のうねりが渦巻き、識字者の根絶にまで運動は発展し、書籍は火にくべられるというさらなる悪夢を描いたのは迫力がある。知識の著しい後退と記録の断絶のため過去について歪められて語られつつも、修道院が命がけの執念で書籍の焼け残りを集め、保存し、複写や解釈を続け、人類の営為の連続性を保っていこうとする様には感動を覚える。そして数百年、千年を経て少しずつ文明は再び芽吹くが、やがて核兵器に到達する様は息をのむばかり。

自助努力による栄達を目指し克己と禁欲とを旨とする受験生像は明治30年頃に確立し、制度が変化しても克己と禁欲との物語は戦後まで途切れることなく続いたという。鉄の規律のスパルタ教育を売り物にした私の全寮制予備校時代（1990年代半ば。現在は閉校）もまさに同じ物語を生きていたのだと感慨深いものがあった。ただし自助努力による能力研鑽は、企業官庁の組織人には対人関係ほどは重視されなくなってゆき、いわゆる知識偏重への批判もあって、非学力入試への動きまで触れられている。執筆当時はまだ、そういう動きもある、程度だったか。

オートマグが、まだ試作段階らしくサンフォード・マグナム自動拳銃という名称で紹介されている。大威力拳銃がブームになりつつあるのを感じさせる。現代・拳銃カートリッジ10傑として.44Mag、.41Mag、.357Magを挙げているが、7.63mmモーゼルや.44-40、さらには.38スーパーや9mm×19が含まれるあたりも大威力競争が始まっていない時勢か。世相については、テレビは色付きになり、スピーカはステレオに、車は高いグレードが出てカネがかかるとぼやきがあるが、創刊当初に比べて消費生活が豊かになっている。

幼い日の強烈な体験から一心不乱に研究に邁進するようになった、社会生活には難がありそうな主人公にも、荒くれ軍人の中で本物の兵器に囲まれて魅せられた林雲にも、研究者としてここまで突き抜けていれば何でも為せるのではないかとの感慨を抱いた。まったく分野違いながらも我が身の大学院時代を振り返ってしみじみ思うなど。あと、ICをろくに使っていないシンプルな車が走っていそうなのも中国の奥深さか。