踊念仏なる奇行が民衆を魅了し、その波が鎌倉に迫らんとする弘安五年。仕掛け人である一遍智真は、あの男のことを思う。一年前、再来した蒙古軍に正面から挑み武勇を示した男。かつて源頼朝が認め船大将と呼ばれるも、承久の乱で京方につき、また先代のお家騒動により没落した家を継ぐ男。分裂した家中をまとめ、軍船道達丸を築造し、最後は余人の理解を超える用途にこれを使った男。伊予の御家人、河野六郎道有。彼が人買いから男女２人の異国人を買ったのが、全ての始まりだった。いがみ合う人。分かり合う人。その狭間で歴史は作られる。今なお。

警視庁捜査七課の城ヶ崎唯人は、環境省所管の近未来研究局に呼ばれ、それを目にする。巨大なドーム状の世界最高水準のコンピュータ、ハイパー二〇五〇の電脳空間で、何かが蠢く。そして、自らの頭蓋を撃ち抜く者たち、自壊に至るバーチャルゲーム、幸福と安らぎの老後生活補助施設、希望が叶う人工授精、古き良き世界への回帰、学習強化薬物、社団法人ベストライフ研究所が発見した長寿命理論は、栄華を極めたヒトに兆した種としての末期症状なのか。否、テクノロジーという寄生体が宿主であるヒトを蝕みながら進化する諸様相と捉えるべきだと思う。

筆者が政治部の新聞記者として間近に見てきた政治家田中角栄は、雪深い貧村で育ち、上京して土建業に精を出し、政界へ進出して鉄道と道路で裏日本に利益を誘導し、列島改造論で遂に総理大臣の椅子に座るも、ロッキード事件で逮捕起訴され、それでも選挙では勝ち続け、キングメーカーとして政界に君臨した力業の人生だった。戦後の焼け野原を知る世代にとっては、手で掴め量を測れる具体のモノにこそ価値があり、カネは誠意と友好の証であり、信用と約束の証であり、励ましと労いの証だったのだろう。今や、カネで信用をなくす者のなんと多いことか。

父が殺された。日本の、とあるタブーのために。由緒ある神社の宮司だった父は、何かを伝えようとしていた。答えを求め、賢司・リチャーディーは伊勢神宮、木嶋神社、出雲大社、籠神社などを訪ね、日本の神道や神話とユダヤ教の歴史との間に、奇怪な共有点の数々を見いだし驚愕し、最後に太陽神アマテラスの正体を知る。本書に一片の真実があるとして、東を目指してここまで来てしまう極端に一途な信仰心こそが、一方で世界を分断し対立せしめているのではないか。例えばヘブライ語で「ホドホド」と云ったら、何か希望の持てる意味はないのだろうか。

台湾語と中国語を混ぜてしゃべる両親のもとで台湾に生まれ、３歳で日本に移住して今や日本語を最も身に馴染む日常語とする筆者は、ふと自分は日本では外国人なのだと認識する。以来、中国語を話す両親と日本語を話す祖父母のいる台湾の歴史事情に思いを凝らし、台湾総統選や台湾人作家による日本語小説、大陸に近い馬祖への旅などを通じ、台湾と日本の２つの国と言葉の狭間で自身の立ち位置について煩悶し、やがて自ら得心できる答えを見出す。筆者の深い思索から、言葉はそれを使う者のアイデンティティに強く絡み付いていることが痛いほど分かる。

踊念仏なる奇行が民衆を魅了し、その波が鎌倉に迫らんとする弘安五年。仕掛け人である一遍智真は、あの男のことを思う。一年前、再来した蒙古軍に正面から挑み武勇を示した男。かつて源頼朝が認め船大将と呼ばれるも、承久の乱で京方につき、また先代のお家騒動により没落した家を継ぐ男。分裂した家中をまとめ、軍船道達丸を築造し、最後は余人の理解を超える用途にこれを使った男。伊予の御家人、河野六郎道有。彼が人買いから男女２人の異国人を買ったのが、全ての始まりだった。いがみ合う人。分かり合う人。その狭間で歴史は作られる。今なお。