教養小説(ドイツ語: Bildungsroman)は主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説ですが、そのフォーマットを用いて、主人公のいやな面などをここまで赤裸々に描写しているのは本書の特徴だと思います。なお例のミルドレッドは本書(上巻)のP444に出てきます。ミルドレッドについてもモームの描写は容赦がない感じですが、小説の展開としてはギアが上がったという感じで楽しめます。
「紳士には陸軍、海軍、法曹界、聖職の四つの職業しかないと伯母は言う。但し、伯母の義弟が医者だったので、医者も加えたが、昔は医者は紳士と思われなかったことは忘れていなかった。フィリップにとって最初の二つは論外であり、聖職者は絶対いやなので、法曹界だけが残った。土地の医者は、近頃では技術畑で働く紳士も多いと言ったが、伯母はそんなのはだめだと言下に否定した。 「フィリップに会社になんて入ってもらいたくありません」」 今から100年ほど前の上中流階級の職業観がよくうかがえる一節です。
①P.21「ナチスはマルクス主義の階級闘争や国際主義といった概念に反対し(中略)、資本主義体制の打倒・変革をめざす本来の意味での社会主義や共産主義と異なるどころか、それと明白な敵対関係に立つものだった。」ナチスがソ連や中国の政治体制と違うことを著者が強調するのは、独裁制に反対し自由と民主主義を重視する人の考えとは乖離 ②第二次世界大戦でナチスと戦ったソ連および共産党系支持団体は、今でも対立相手を「親ナチ」「歴史修正主義親和的」であるといって教条的に非難することが多い この二つから本書の思想的背景がわかる
今の世界情勢を見てみれば、(ソ連)と(ウクライナ),(パレスチナ)と(イスラエル)などが戦争をしていて、どちらの対立の場合でも(一方が完全な善で一方が完全な悪)だと割り切れるものでもありません。ジェノサイドを行っている国ですら悪と断罪されない場合もあるので、ナチスについての専門家の認識(ナチス=完全な悪)というのは特殊な範疇に入るように思います。(英国が対独融和策を継続していれば/ドイツが戦争に勝っていれば)風向きは変わっていたかもしれず、歴史専門家の意見も政治風土の産物としか思えません。
本書の編訳者の鈴木氏は「ここで、強く言っておきたいのですが、きょうだいの苦しみは、あくまでも、本来のキャラクターと、社会の「通念」であるところの男女の役割との大きな落差を、それぞれが意識するところから始まりました。『とりかへばや物語』に描かれているのは、決して異常な話でも、性の倒錯でも、退廃でもありません。 」と述べていますが、当時であれ現代の物語であれ、男女が入れ替わった設定がもたらす危険な香りや情緒は一種のスパイスとして物語の引きになっていてそれを無視するのは一方的すぎる解釈のように感じます。
どちらかといえば本を読むことよりも音楽を聴くほうが好みなのですが、読書メーターを始めてから読書を楽しむ機会が増えました。読書メーターを通して知った本も多く、頻繁にこのサイトを覗いて、皆さんのレビューなどを参考にしています。
また、日本語だけでなく英語の本も継続的に読みたいと考えていて、英語本については、月一冊以上読むことをノルマにしています。英語で書かれた小説については、「ガーディアン1000冊」のイベントなどを利用して、古今東西の面白い本を選ぶ参考にしています。
私のレビューは、気にいらなかった本についてバランスを欠くほど辛口になるようです。自分が好きな著者の作品を、私が酷評していることもあるかもしれません。お気分を害されるかもしれませんが、あくまで私の偏見だとおもって、ご了承をお願いします。
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①P.21「ナチスはマルクス主義の階級闘争や国際主義といった概念に反対し(中略)、資本主義体制の打倒・変革をめざす本来の意味での社会主義や共産主義と異なるどころか、それと明白な敵対関係に立つものだった。」ナチスがソ連や中国の政治体制と違うことを著者が強調するのは、独裁制に反対し自由と民主主義を重視する人の考えとは乖離 ②第二次世界大戦でナチスと戦ったソ連および共産党系支持団体は、今でも対立相手を「親ナチ」「歴史修正主義親和的」であるといって教条的に非難することが多い この二つから本書の思想的背景がわかる
今の世界情勢を見てみれば、(ソ連)と(ウクライナ),(パレスチナ)と(イスラエル)などが戦争をしていて、どちらの対立の場合でも(一方が完全な善で一方が完全な悪)だと割り切れるものでもありません。ジェノサイドを行っている国ですら悪と断罪されない場合もあるので、ナチスについての専門家の認識(ナチス=完全な悪)というのは特殊な範疇に入るように思います。(英国が対独融和策を継続していれば/ドイツが戦争に勝っていれば)風向きは変わっていたかもしれず、歴史専門家の意見も政治風土の産物としか思えません。