今月もそれなりに充実した読書ができた。「線虫」の本、閻 連科の文化大革命絡みの小説、吉田 伸夫の現代物理学に基づく創世記、積年の宿願だったホイジンガの『ホモ・ルーデンス』、出版社のPR誌、父の蔵書も数冊と、ヴァラエティに富んだ読書になってる? 2023年7月の読書メーター 読んだ本の数:17冊 読んだページ数:3936ページ ナイス数:6639ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/556130/summary/monthly/2023/7
(転記続き) ただ、われわれには過去には、折々しか向き合えない。生者は生者の動機で生きていくしかなく、それで精一杯なのだから、仕方がない。ただ、そんな中でも、作家という種族が居て、どんな方法やベクトルであるかは様々だとして、目に見えない情念に直面し、それどころか、過去をほじくり返してでも、厚い表皮を剥ぎ取ってでも、何事かを描かんとする衝動と本能に生きていく、その一人が、小野不由美という作家ということなのではないか。
ここにまた梨木香歩という作家を加えてみたくなる。柔らかくて夢の中の断固たる論理が展開する梨木香歩。手法も世界観もまるで違うことを承知の上で。…以前も書いたが…梨木という作家…何処か童話というか不思議世界が現実と夢の中の論理のように、不可解でもこれが現実なんだから仕方ないでしょと現前化していて、彼女のワールドに従うしかないのだ(それが心地いい)。
(上記の追加など)著者(かが あつこ)情報:「1920年3月2日東京府生まれ。本名・吉村美名子。高等女学校卒。佐藤春夫に師事し、時代・歴史小説を書いた。(中略……ある作品が)関係者による圧力があり中絶。のち1971年土地問題の係争から私文書偽造で夫とともに逮捕された。以後は消息不明である。」(Wikipediaより) 「作品に、『無官の忍者』『皇女悲歌』『海賊大名』『脱島記』など。」
父の蔵書にあったので手にした。時代小説好きな父らしい選択。面白いとは感じず。自信に満ち溢れた書きっぷりからすると、現役当時は人気作家だったのか? 出たばかりの本書を父は買ってしまった?
「「礼が守れぬ者は法も守れない」今から二三〇〇年も前に、コンプライアンスにつながる考え方を説いた荀子。「法」の前に「礼」を理解するべき、という「礼治」の考え方を」どれほど理解できたかは怪しいとしても、孔孟との関係、時代背景などイメージできただけでも読んでよかった。それにしても「礼」は現実の中でどれほど実効性があったのだろう。
解説エッセイが諸々(冬のチェーホフ/「中二階のある家」のプロセス/発表当時の反響/モデルさがし/闘うチェーホフ/あとがき)付いているが、ちょっと蛇足の感があった。
実をいうと、我が家には中二階がある。低い天井で家のメインの柱がニョキッと貫かれていた。窓からは眼下に田圃が見渡す限り広がっていた。高校時代の三年間、勉強しないとという思いに駆られつつも、小説やら哲学書を読み耽っているばかり。叶わぬ初恋の苦しい時期でもあった。
目を瞑ればそこに生々しくある<過去の現実>は、自分でさえも触れえない禁忌のバリアーで隔絶されている。レトリックを駆使し、そのことで傷口に分厚い蠟が積み重なっていくという皮肉。
バルザックファンとは自称できないけど、『ウジェニー・グランデ』 『ゴリオ爺さん』 『谷間の百合』くらいは一度ならず読んできた。が、本作に手を出して自分はバルザックの何者たるかをまるで知らなかったのだと思い知らされている。まだ半ばにも至ってないが、スウェーデンボルグが真剣に取り沙汰されていて、ああこの辺りがバルザックの奥の院なのかと。旧字体やら活字の細かさにもだが、それ以上に彼の神秘思想の奇矯さに圧倒される。
制度としての妾はなくなっても、愛人という名の別形態の現実があるとか。自ら選んだ生き方なのだろうか。社会での分厚い天井に頭を押さえつけられての選択ではないのか。政治の貧困が齎す惨状の一端だとしたら情けない限りである。
田山花袋の耶馬溪紀行。興味深くはあるが……なにせん折々の漢文漢詩に難儀。花袋は明治の文豪で漢文は自家薬籠のものだったろう。当たり前に引用したり興が乗れば漢詩を捻り出す。 漢詩を鑑賞するのは嫌いじゃない。但し字面だけ。内容の理解は、白文じゃ無理で、書き下し文は高望みでも、せめて訓読文くらいには砕いて欲しい。
本書は名勝地や史蹟などのカラー画像は豊富に載っている(注釈も相当数ある)。それだけに、本文の特に漢文漢詩の註釈は皆無なのは残念。知らない人物の紹介とか欲しかった。結構、高価な本。折角の復刊なのだから、読み手に配慮したもう少し丁寧な本であってほしかった。
200頁余りの本書ながら、14篇所収。冒頭の3編を読んだが、少年が書いたとは思えない地に足の着いた生活感が濃厚に。最後の1行にある種の意外性というか巧みな話の切り上げ方が印象的。 カポーティは、吾輩は比較的近年、『ティファニーで朝食を』や『冷血』を読んだ。映画などで有名過ぎて、ただの大衆作家という先入見が手を出すのを阻んでいた。勿体ないことをした。もっと早くから読んでおけばよかった。
(続き)「文献で読んできたことが、現実の目の前で展開すると著者には思えた。各章の冒頭にある、古代から現代に至る、神仏との交渉を語る物語、神歌、端唄などの印象的な引用は、文献と現実の連続性だけでなく、日本の民間信仰が古代・中世・近代、そして現代へと時と場所を問わず地下水脈として継続し、民衆の想像力や生活の生きる智慧として存在してきたことを表現しようとしているのである。」
ともすると、スピリチュアルな流れに堕しそうだが、ギリギリ現実感生活感が保たれているのは、やはり中井シゲノの卓抜な巫女的資質の故なのだろう。 いずれにしても本書を読むのなら、心して、とだけ言っておく。
吾輩としては三度は読んだ『人間の絆』や『月と六ペンス』の切迫感が好みだが、『お菓子とビール』の円熟味が新鮮だった。こういう作風もあることに今更ながらの驚き。医者として、諜報員としての経験や人間観察も生きてるが、モームが唯一愛した女性が巧みに描き込まれていて、忘れられない読書体験となった。
やや古いが著者のデータ: 「1949年富山県生まれ。関西学院大学卒業。富山市内で料亭「川柳」を経営し、料理長も務める。87年和食薬膳を発表。現在、薬膳研究を進めている。」
豊崎由美の解説の言葉を借りると、「「週に3度、他の男とセックスすることを習慣にして」いる主婦・麻美。彼女の不倫相手が、次々と身体全体に瘤のようなものを作って原因不明の死を遂げる。彼女自身の肉体にも異変が起こる。女同士の憎悪や嫉妬、母娘で繰り返される愛憎劇。一見幸せな主婦の誰にも言えない秘密とは……」で、男性作家には描けない女性の生理感覚が感じられるようで興味深かった。この身体全体が瘤だらけってのが、まさにある種の線虫の仕業っぽいわけである。
【著者プロフィール】セブ・フォーク(Seb Falk):歴史学者でケンブリッジ大学の講師。そこで中世史と科学哲学を教える。研究者としては中世の科学機器を中心に研究を行っている。2016年、BBC New Generation Thinker に選ばれた。
小生は、サピエンス全史の簡略版かと勝手に思い込んで予約して入手。 店頭でパラパラ捲っていたら買うのは躊躇したはず。リカル・ザプラナ・ルイズの挿画多数。著名な挿絵画家らしい。何処かで目にしたタッチ。吾輩の好みの画風じゃない。でも、お子様向けで吾輩には相応しかったかもしれない。
世界標準をめざした飛鳥時代 重見 泰(考古学)/ 平安京はブラックな職場か? ―貴族社会を支えた下級官人― 井上 幸治(平安時代史)/ 江戸東京今昔めぐり 第41回 古代東海道と立石③ モリナガ・ヨウ (イラストレーター)/ 歴史地震をまなぶ 第8回 正応六年関東地震の被害 片桐 昭彦(日本中世史)/
歴史のヒーロー・ヒロイン ソフィスト 流動的状況における思考のモデル 安西 洋之(ビジネス+文化のデザイナー)/ 乱世の闇に忍びの行方を探る 岩田 明広(考古学)/ 日本の第一次世界大戦参戦と対独戦を考える 飯倉 章(国際関係史)
本作『タール・ベイビー』は、我輩には一層、理解が難儀だった。「タール・ベイビー」は、白人社会で生きる黒人に伝わってきた口承の話なのだが、それもいつしか本来の筋が見えなくなっている。黒人が黒人である拠って立つ場が見えなくなっていることでもある。あるいはそれぞれがそれぞれにこだわりを持ち、己に誠実であろうとすれば相互に激しく齟齬対立してしまう。
読むこと、書くこと、居眠りすることが好き。生活のために仕事も。家事や庭仕事もなんとか。
読書は雑食系かな。でも、読めるのは月に十数冊なので、実際には幾つかのジャンルに限られてるみたい。
苦手なのは、専門書や法律、マニュアル本など。
小説やエッセイを書いたりしてます。
バイクでのミニツーリングを折々。
グルメ、スポーツ、コンサートも楽しみたいけど、仕事や家事でなかなか実現しない。昨年(23年)末、薪ストーブ設置。庭木の枝葉を焚き火代わりに燃やしてます。薪はなくて柴だけなので、心底寒い時だけ。焔と共に柴の燃えてはぜる音が心地いい。
外部ブログも20年以上になりました:
日々の日記:「壺中山紫庵」 http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/
創作の館:「壺中方丈庵」 http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/
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豊崎由美の解説の言葉を借りると、「「週に3度、他の男とセックスすることを習慣にして」いる主婦・麻美。彼女の不倫相手が、次々と身体全体に瘤のようなものを作って原因不明の死を遂げる。彼女自身の肉体にも異変が起こる。女同士の憎悪や嫉妬、母娘で繰り返される愛憎劇。一見幸せな主婦の誰にも言えない秘密とは……」で、男性作家には描けない女性の生理感覚が感じられるようで興味深かった。この身体全体が瘤だらけってのが、まさにある種の線虫の仕業っぽいわけである。