｢人のためにもならず、学問の進歩に役立つわけでもなく、真実をきわめることもなく、記録を作るためのものでもなく、血湧き肉躍る冒険大活劇でもなく、まるで何の意味もなく、誰にでも可能で、しかし、およそ酔狂な奴でなくてはしそうにないことを、やりたかったのだ。｣ したい、こういうことをしたい。価値など生まず、意味など成さず、俺だけが何処かで冷めた快感を得られればそれでいい。人生の1冊になりそうだ。

日々働く中で、胸臆に生まれては言語化できずに沈んでしまう働くこと、生きていくことの苦しさを解像度高く語っていて一気に惹き込まれた。ただ、中島義道が思う理想の生き方が既に固定化されているからその生き方に賛同出来なければ対象外なので現実的な処方箋にはなり得ないかもしれない。何らかの答えを求めて哲学界隈の本を読むと、答えなどない、自分の脳みそで問い続けることが肝要だと耳の痛い真理を突きつけられることが多い。そんな体力は無いのだ。酒を飲んで誤魔化すだけの日々。

これまでのその街に村に土地にどっぷりと浸かるような旅の仕方とはうってかわり欧州を目指して先へ先へ焦る作者 それはインドの退廃に沈みきってしまう事への抵抗でもあったが、何処かで旅の終わりを望んでるようにも見えなくもなかった。旅も終盤。熱が冷めていく。寂しい。

こう生きていいんだ こう生きていたい 自分は勝手に苦しんでいる 実際に確かめに行きたい 読めば読むほど想いは強くなる 深夜特急から40年経ったカルカッタやカトマンズはどうなっているのだろうか

目的を持たぬ放浪の中で作者の求めるものが自分と重なっていく事が凄く嬉しい。観光など興味はない。欲しいのは刺激と熱狂と怪しさと。そういう意味で香港以上の何かを得られなかったマレーシア半島縦断は確かに退屈だったかもしれない。それでも十分以上に魅力的な旅模様。ひたすらに羨ましい。

｢人のためにもならず、学問の進歩に役立つわけでもなく、真実をきわめることもなく、記録を作るためのものでもなく、血湧き肉躍る冒険大活劇でもなく、まるで何の意味もなく、誰にでも可能で、しかし、およそ酔狂な奴でなくてはしそうにないことを、やりたかったのだ。｣ したい、こういうことをしたい。価値など生まず、意味など成さず、俺だけが何処かで冷めた快感を得られればそれでいい。人生の1冊になりそうだ。