伏線だけ張った助走という感じで話は進んでいないのだが、最後まで面白く読んでしまった。小説上手だなあ。

20年近く前の本なためか、「読み解く」といってもどこかで見たようなデータの羅列で、著者が発掘したり新たな視点のようなものがない。新書だとしても物足りなかった。巻末に参考文献が並んでいるので、直接そっちにあたるのがいいと思われる。

分厚さのほとんどは技術的な話で、サスペンスやアクションに貢献していない。こういうネタは真保裕一の方が上手なのが良く分かる。

冒頭の遺書のシーンがとてもいい。一発で感情移入し、のめり込んでしまった。内容は陰鬱なのにこういう妙技を見せられると脱帽するしかない。

歴史改変ハードボイルド。アラスカにユダヤ居住区ができているが、アメリカへの返還が迫っている。そんな中殺人事件がという話。コミュニティ崩壊とタイムリミットは「地上最後の刑事」に似ている（あっちは人類滅亡の危機だが）。歴史改変ネタとしては、まずイスラエルが第一次中東戦争で負けたらしい。ソ連はナチスに降伏。しかしベルリンには原子爆弾が落ち、満洲国は存続しているようだ。どういう世界情勢になっているのか想像するのも楽しい。

フリードリヒ大王の魅力を描こうとしているわりにはちょくちょく悪口が挿入され、酷薄な父王への高評価が隠せないのはなんなのだろうか。いずれにせよ、ハプスブルクびいきがすぎる余り意味不明な文が出てくる江村洋よりはマシ。

最後は感動風にまとめているけど、人の道から外れた連中の話だよなと思いながら読んでいた。面白いのは間違いない。

伏線だけ張った助走という感じで話は進んでいないのだが、最後まで面白く読んでしまった。小説上手だなあ。