P261。「もっと近くに来ても大丈夫。彼女は人を傷つけるようなことはしないから。」この看護師は別に悪い人ではないだろうけどブラックジョークのように思えてしまった。何故最も傷つけられた人間と言っても良い人間がこんなこと言われなきゃならないんだろう。 P275〜280。希望のない物語だけど、人の痛みを忘れずに世界をせめて今より良くしていこうと思う人間がいることは希望だと思いたい。こんな考えすら甘いセンチメンタルな気もするけど。
解説で小川たまか氏が「性暴力の実態とは、フィクションの中でしか表すことができないのではないかと考えてしまうことがたびたびある」と述べていたのも非常に納得させられた。自分はノンフィクション作品が好きだけど、現実を描くためにはフィクションが必要になることはままあると思う。現実をそのまま書くと社会の規範にあまりにがんじがらめになってしまって書けないことがあるから。「法は現実をすくいきれない」という言葉はその点でもその通りだと思う。
著者の本は何冊か読んだことあるがファンかというとちょっと違っていた。精力的にミュージシャンへのインタビューを行うことには敬意を評する一方、ミュージシャンを立てるあまり文章にキレや毒が無いと思っていたので。なのでディスクレビューや評論ではなくインタビューものを読んでいたのだけど、この本はとても良い。こんなものまでというようなレコードまで紹介していて目から鱗。前代未聞の規格を成し遂げた自信もあってか、良くないと思うアルバムにはちゃんとそう書いてあるので文章に緩急が出てる。素晴らしいだけでなく信頼できる本。
ライヴアンダーザスカイの豪雨の中でのVSOPが伝説的なライヴだったという話が詳しく買いてたのも良かった。個人的にはVSOPは好きじゃないし70年代はジャズが神話でも伝説でもなくなった時代だと思ってる(身近にはなったが)。でもこの話は胸が熱くなるパワーがあった。著者は本当にたくさんレコードを買ってるしライヴに行ってる。これはそういう人にしか書けない類の本だと思う。はっきり言って今までの非礼を詫びたいくらいだ。70代も半ばになり残りの時間を意識するようになったと仰っているがこの人の書く日本ジャズ史を読みたい。
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