“徒”討ち、う～む成程。にしてもご家老殿は御用商人に“桐屋、お前もワルよのう”と言う場面が目に浮かぶ。それに輪を掛けてワルが、父の仇討ちの旅に出た菊之助の叔父。“兄上は堅物でいけない、上手いことやっていきましょう。兄上が此度の御役を賜ったのは、私の兄だからなのですよ“…何が美味くやっていきましょうじゃ。そりゃ世渡りは上手くやらなきゃいかんし、堅物でもいかんが、程度というものがあろう。確かにお前が弟だからこそのお役目であった。しかしのう、ふ～む、やはり上手くやる他ないか。じゃやろうってことにならんか兄上は。

「斬られ権左」から続く、あさみ・お蘭・お紺、女三代の物語、と解説にあって、その旨堪能した。さて第2編「養生所の桜草」で、北島町岡っ引き金蔵がなでしこお紺に“小石川養生所の自害した患者、奴らは手前のふんどしを樹の枝に引掛けていたわな。おなごはふんどしを締めねえからよ。もっともおなごがふんどしを締めても喰い込むだけだが…”って台詞がある。宇江佐真理氏には時折こういうフレーズが出てきてフッ・ホォとなる次第。第4編「吾亦紅さみし」で、8割がた出来上がっていた絵に包丁で瑕つけた妻の悋気。夫の出奔も理解できる話じゃ。

確かに毛充狼こと杉本茂十郎には感心した。しかし先の老中松平定信公の元、棄捐令で大商人を相手に大鉈を揮った堤弥三郎こそ、偉大であると思うのだ。毛充狼にはない堅実な方ではなかったか。こういう人がいるからこそ杉本は活躍できたと思う。砂糖問屋河内屋孫左衛門“砂糖を樽廻船でこっそり運んでも、奉公人達には後ろめたい思いをさせている。堂々と大手を振って商いをし、奉公人達が誇りをもって勤められなければならぬ…”これは、安倍総理の憲法改正と同じ思いだ。誰しも自分の仕事には誇りを持てる環境でないと。十組問屋と憲法九条の縛り。

作家梅林賢 “落ちこぼれの生徒を弁護士の先生が東大に入学させるというドラマがありましたが、実際にはあんなことはあり得ませんよね”に竜崎刑事部長は“あり得ません”ときっぱり。多分中学時代に猟奇殺人を犯すも少年院で改心、勉強し弁護士資格を取得した御子柴弁護士もまずあり得ん。あり得んから楽しい。“夕食の習慣で350mlの缶ビールを一本だけ飲む”竜崎。よく一本で済ませられるなあ。これも東大法卒のハンモック№3番だからか。その点、竜崎と同期の八島圭介警務部長は同№1位を誇示し、二人の人間性の違いが緊張と愉快を齎す。

赤縄の章、南町奉行所与力菊井数馬が、以前から思い人である権左の妻あさみに言い寄るのは許せねえ。“数馬は宿命だの赤縄だの世の中の不思議を全く信じない男である…ただ己の気持ちに正直に従うだけだ…今更どうにもならないことに固執するのはある意味で数馬の宿命のようにも…”しかし己の気持ちに正直に従ったから人妻を手籠めにしようとしても仕方ないで済むのか。世の中の不思議を全く信じないからそういう男になる。所詮数馬には赤縄などないのだ。さて温の章。母と知らぬとはいえ、音松の母親殺し。心がホッとなるってことで“温”なのか。

東大理学部数学科大学院修了し東邦信託銀行で年収8百万の大林梨香子33歳と、ほぼＦランで年収2百万の翻訳家岸田真一30歳。岸田は低偏差値低収入低身長の三低男。あら不思議、二人は結婚。さてどっこい、妻梨香子はパンツと書類を一緒に段ボール箱に突っ込むような女で、饐えた様な煽情的な匂いが立上ぼろうとも無頓着。銀行の人には彼女の体臭は感じない？カメラマンの峰村が“女なんて…下品で可愛げがなく育ってしまったらどうしようもない”と。ならば、おっとり優しく育ち、頭が良くて何でもできる、そんな女性がまさしく私の連れ合いだ。

“徒”討ち、う～む成程。にしてもご家老殿は御用商人に“桐屋、お前もワルよのう”と言う場面が目に浮かぶ。それに輪を掛けてワルが、父の仇討ちの旅に出た菊之助の叔父。“兄上は堅物でいけない、上手いことやっていきましょう。兄上が此度の御役を賜ったのは、私の兄だからなのですよ“…何が美味くやっていきましょうじゃ。そりゃ世渡りは上手くやらなきゃいかんし、堅物でもいかんが、程度というものがあろう。確かにお前が弟だからこそのお役目であった。しかしのう、ふ～む、やはり上手くやる他ないか。じゃやろうってことにならんか兄上は。