本書では、西アジア・南アジア・モンゴル・ヨーロッパとそれぞれの乳利用の特徴や、乳製品の具体的なつくり方が、人類学的に報告されているのであるが、それが私には少し詳しすぎた。ただ、フィールドワーカーとしての著者が、それぞれの乳文化やそれぞれの地域で暮らす人々へ払う敬意はよくテキストから伝わり、乳文化の発展・伝播の歴史を理解する楽しさと一緒に、それも味わうといった読書体験になった。
出会う人物は、見世物小屋に居場所を見つけた貧しい移民や、戦争で主人公に殺されたフィリピンの少女や、主人公と長年連れ添った妻まで様々で、それぞれ単に善人でもなければ、どうしようもない悪人という訳でもなく、それぞれの社会的立場でそれぞれなりに懸命に生きた人々でもある。アメリカの労働者階級のラフさや、アメリカ軍人のマッチョさから逃れられず、そう生きるしかなかった主人公の悲しみと、それでもその限界の中で、自分に与えられた仕事を忠実にすることで少女の命を救うという本書のプロットは、切なく愛おしいものだった。
ちなみに本書は古本で買って読んだのだが、以前の所有者の書き込みがみっちりあって、その書き込みを楽しむというおまけ付きだった。以前の所有者も本書をしっかり読んでいたようで、私も本書に引き込まれたので、同じ本を愛した者通しの時間軸のずれた交流をしたような読書体験になった。
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本書では、西アジア・南アジア・モンゴル・ヨーロッパとそれぞれの乳利用の特徴や、乳製品の具体的なつくり方が、人類学的に報告されているのであるが、それが私には少し詳しすぎた。ただ、フィールドワーカーとしての著者が、それぞれの乳文化やそれぞれの地域で暮らす人々へ払う敬意はよくテキストから伝わり、乳文化の発展・伝播の歴史を理解する楽しさと一緒に、それも味わうといった読書体験になった。