泥棒は顔を伏せる。詐欺師は顔を晒す。己をさらす林蔵は、そして糾弾の声が上がらないということから判るようにこの男は、人から掠めるだけの悪党ではないのだ。人生最大の修羅場に追い詰めておいて、ここが思案のしどころぞ正念場ぞと最後の機会を与える。靄船に乗せられた者の了見は、ややもすると全うに思われるのだが、だからといって彼や家女に寄り添おうとすると突き放される。違う。自分と似ていたり共感できたりするけれど、決定的に違うところがある。一線を踏み越えたところに彼らは居る。それが哀しい。

実際に起こったこと、見聞きしたこと、信じたいこと。事実と真相と真実とが絶妙に配置されて、謎解きの牽引力をもって提示される。「妖怪」は人の生み出したるモノだから、人の都合に左右される。そして人の在り方は、己を含む人の事情によって多く左右される。遠野は妖怪処ということなのか、様々な状況下でその姿が目撃される。だから拵え物の仲蔵の再登場だ。時代が下って、視えないモノの実在が容易く信じられなくなったのか。信じたいコトを信じやすくするための野暮な仕掛けと自嘲の長耳。迷家、マレビト、マージナル。いずれ立ち去る運命さ。

泥棒は顔を伏せる。詐欺師は顔を晒す。己をさらす林蔵は、そして糾弾の声が上がらないということから判るようにこの男は、人から掠めるだけの悪党ではないのだ。人生最大の修羅場に追い詰めておいて、ここが思案のしどころぞ正念場ぞと最後の機会を与える。靄船に乗せられた者の了見は、ややもすると全うに思われるのだが、だからといって彼や家女に寄り添おうとすると突き放される。違う。自分と似ていたり共感できたりするけれど、決定的に違うところがある。一線を踏み越えたところに彼らは居る。それが哀しい。