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2024年4月の読書メーターまとめ

練りようかん
読んだ本
67
読んだページ
23677ページ
感想・レビュー
65
ナイス
1055ナイス

2024年4月に読んだ本
67

2024年4月のお気に入られ登録
1

  • ののたま

2024年4月にナイスが最も多かった感想・レビュー

練りようかん
シリーズ一作目。職業意識の高さや矜持がわかる主人公の言動はすっきりして気持ちいいと思った。妻には散々な言われようで序盤はユーモア小説の感触が強かったが、不十分な法律のもとにある厳しさをキリキリと感じる読み味の変化に引き込まれた。幼なじみの同期と正反対な設定が面白い、期待した良コンビから腹を探ることになる展開が楽しかった。警察刑事ではなく官僚と書かれている物珍しさもいい、情報が上がってこないことに怒り、都合の良い情報しか上がってこない不信感がある。主人公の異動先は当然の流れで一冊かけてのプロローグに感じた。
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2024年4月にナイスが最も多かったつぶやき

練りようかん

2024年3月の読書メーター 読んだ本の数:66冊 読んだページ数:20862ページ ナイス数:1279ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/843304/summary/monthly/2024/3

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2024年4月の感想・レビュー一覧
65

練りようかん
『週刊碁』の連載をベースにしたエッセイ。四十過ぎて始めた囲碁の勉強。初心者本が初心者じゃない?パソコンの取説を例にしていて凄くわかる、素朴な疑問が業界の生態をありありとさせて、素人読者に対する新井さんの教える技術の高さをひしひしと感じた。オシやブツカリ等の囲碁用語は相撲を連想させ、コラムの棋譜コメントに笑ったり理解を深めたり、聞き違いのコウダンシャは勿論変換おそろで楽しかった。ご夫婦共通の趣味なのにお家で対局しないのが面白く、それが一番囲碁の性質をよく表してるとも思えた。推理作家同好会のメンバー気になる。
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練りようかん
探偵を始めた麻生に風変わりな依頼が舞い込む連作。各編他作の登場人物が出てきて懐かしいやら嫌な予感的中やらで楽しい、出所した練が当然のように麻生のところに来るのも、依頼のオチと二人の関係もちゃんと絡まって何重にも頷けてしまうのも良かった。幼いから残酷になれる。トラブルの共通点が苦く可哀想にも感じ、手の込んだ状況作りはどんなからくりを用意してるのだろうと期待させる、滑らかな文体とじっとりした味わいが安定していた。最も没入したのは「CARRY ON」。高殿さんの解説も面白かった。エピローグがもどかしくて後引く。
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練りようかん
現在の恋人とは愛情というより共感で繋がっているようだ。そろそろと過去がわかってくる前半に意識は引き込まれていった。白石作品ではよく社内政治の浮き沈みが描かれるが、今作は国政とストレート。重荷、ギャップ、罪悪感を抱える主人公が記憶といい働きを取り戻していく展開だが心は複雑。過去の恋人はどうするのか。“失ったものが解放”の意味がわからないのが面白い、とどんどん読んでいった。そして終点前に振り返ると道が見える、理解の瞬間の深いため息。たった一文のための四百頁がなんて素敵な表現者、懸命さだろうと独りごちた。
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練りようかん
入念な拷問を感じさせる死体が発見され、老夫婦の身辺から筋を想像。しかし物語は捜査に一点集中することなく主人公の過去から現在までをぐぐぐっと描いていて、主題はこっちかと思わせられる個性がムンムン。刑務所に入った人間が刑事になれることに驚き、前科の抹消証明書や仕組みが興味深く、悪側から正義への転向があるなら逆も然り、事件の底から包括してる気がして、ミステリーのゾクゾクとは少し違う這い上がってくる黒の怖さがあった。主人公に大きな影響を与える『レ・ミゼラブル』、やっぱ名作は読んでおかないといけないと痛感した。
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練りようかん
『BAILA』連載エッセイ第2弾。ペレストロイカ!何度も見た映像がすぐさま甦りしみじみした。と同時に共通認識が通用しなくなってきた購読年代層との開きを思い、長期連載が迎える1つの壁ともう中堅とは呼べない作家として三浦さん自身が迎える過渡期を連続締め切り云々から、そして本編にあるコロナの社会変革がリンクしていて感慨深かった。今回もわかる!と盛り上がるのが楽しい、元アルバイト先の店長さんのワクチン量、雰囲気を“ふいんき”と覚えてたこと等々。相変わらずエンタメ摂取半端なく脳内活性描写が面白かった。第三弾も期待。
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練りようかん
どん詰まり四十男二人が事業として宗教を立ち上げ多くの信者を獲得していく上巻は、互いの長所が補う造形の良さと後に主人公のトラウマを予感させる少年や足裏の米粒的な存在によって色彩を感じる社会ドラマに思えた。しかし転落の下巻は鈍色、マスコミ世間家族の波状攻撃と事態悪化は読ませる推進力になり、集団の恐るべき行為に向かわせる実体のない中枢が興味深くてどっぷり没入。面白いのは小規模だと女が大規模になると男が彼等の足を引っ張ることで何か法則があるように思えた。読了は疲労感を覚えるハードさ、さすが柴田錬三郎賞の傑作だ。
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練りようかん
不可能犯罪ミステリー。新たな館主に立ち去れと脅迫状が届くのだが文面の誤字が面白い、1930年代のフランスの古さが良い意味で漂っていてポンポン進んだ。悲劇の前例があり、館が空の状態は誰得かを考えるも犯人の想定は直ぐにでき、死体発見の段になってさらに強固なものになった。犯人消失の謎は解けるか。警部、警視、判事による犯行状況の洗い直し、素人探偵も加わってそれぞれの論理を楽しむ展開だ。ポイントは絞られているためあれこれ仮説を立てるのが好きかどうかで分かれるかもしれないと思った。良かった。
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練りようかん
高校生に人気のアプリを活用したから出会えた、使ってないから直接会いに行った。人と人を繋ぐ過程でアプリ名からオルタナティブという言葉を連想し、SNSはあくまでも代替手段なんだと改めて感じた青春物語。主要三人の中で最も引き込まれたのは料理に熱中する蓉のパート。沢山のメニューは脳内の舌を楽しませてくれて、交際を番組のネタにされたやりとりには吐き気がして、今っぽさと定番のミックスが上手かった。また解説の資料集めに驚き、かけた仕事量と導き出し書かれていることに感動。重松氏の凄さの余韻の方が勝ってるかもしれない。
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練りようかん
サイコサスペンス三篇。25年ぶりに再会した友人は様変わりしていて本当に本人なのかと疑問を抱いた。短篇らしい恐怖のスピード感が印象的な表題作。続く篇も読み進めるほど愛情表現の歪みを感じる怖気が腰から首筋に這い上がってきて、あっちがおかしいのか自分がおかしいのかコーヒーカップ状態のめまいが面白かった。特に好きなのは「倒錯の庭」。美しい描写に気を取られ異常を感知するまでに時間がかかった。しかしその美の前に異がつき始める違和感とズレの気持ち悪さが楽しくて、ラストの気づきが闇でよかった。
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練りようかん
素敵快適生活を目指して『ku:nel』や『クロワッサン』を読み悟ったことにクスリ。ロハスからコンビニ飯、からの外食ちゃんでクスクス笑った。家をリフォームし自炊出来なくなった著者の経巡りは、『リフォームの爆発』の姉妹編に思えた時系列。憧れ続けた店に入ってからの描写でエンジンかかり、餃子がどんな料理かであーきた町田節!と大歓迎。コロッケ定食600円で気分上げてる場合じゃない、とろろがぁ、考え過ぎの捏ねくり回した答えに爆笑。また「東京の深い町〜」の詩、濃度は脳度、温度は恩度が刺さった。平松さんの解説も良かった。
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練りようかん
小さな郊外署でつながる連作。年齢も立場も違う六編の主人公。事件が起こって捜査してという物語のために用意されたいかにもな疑惑でなく、日常業務を進めていたら現れた疑わしさで、咄嗟に体勢取れる人間とそうでない人間がいると思わせられる展開が面白かった。監査も交通事故もちょっと逸れたことが人生を一変させる、警察の人も一般人も生活する心が見えてるくる描き方が情を深め、タイミングの悪さに何度頭を上下しただろう、最も引き込まれたのはレッカーした車の「罅」だった。この署を言い表した中盤のセリフが上手かったー。良かった。
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練りようかん
俳句は情景が立ち上がる瞬間の鮮やかさが好きなのだが、この句集はふわふわと漂うような情景の存在感が素敵だった。じわっときた「身の奥に湯のぬくみある藤月夜」、過去に抱いた感覚がよみがえった「天上にある水かげも鮎の味」、響きをかすかに聞き取った気がした「岸暮れて鴨着水の音幽か」がいいなと思った。最も面白く感じたのは「ヒヤシンススイスステルススケルトン」。しりとりになっていて、ススとスの二文字が三回入っていたり、ステル〜スケルの母音のエ+ルのリズムの遊び、トンのおさまりの良さ、色んな切り方ができて楽しかった。
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練りようかん
一家殺害事件の生存者がノンフィクションを出版。舞台はアイルランドの小さな町で事件は生々しく人々の記憶に残っており本は話題に、かつての犯人の耳にも入る。犯人側から描いたのが面白い、どこまで知られてるのか疑心暗鬼になり動揺する姿が普通なら愉快なはずなのに、下手に動いたら飛んで火に入るだよと心配のハラハラを感じる、サスペンスの構図が定石ではないのが良くて没入。再捜査に協力する人は知り合いで狭い町ならではと思えばよいのか、意味ありげな視線がどっち?とたまらん。細部の盛り上げと顛末の上手さが印象的。他作も読みたい!
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練りようかん
七つの短篇集。地図にあの家がない。主人公の違和感は強くなり悲鳴に近い声に大丈夫?と思った一篇目。ジェットコースターの気流に飲み込まれたような没入感、真相に吐き気がしてもう一声の真相に戸惑い、決着はカタルシス。なんていう引き込み方なんだろう、唖然としながら二篇目に入ると最後の衝撃にガツンとやられた。直木賞選評で評価が高かったのも納得。しかし最も面白く読んだのは次の「言えない記憶」で恐怖度はMAXだった。思い出した酷い記憶は誰かの罪を暴く、信頼できぬ記憶が三十年後の今も機能美をみせて蠢くのが凄いと思った。
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練りようかん
共助課という名が珍しく感じて興味を抱いた。メイン二人の課と班の違いがはじめにきちっと説明されているのだが、指名手配犯を“見当てて”逮捕してを繰り返してるうちにはぁぁとわかってくるのが楽しい、仕事はバリバリなのに家庭はモヤモヤ、夫なんだから嫌いじゃないが効力ゼロの呪文に思えてさかなさかなさかな~が明と暗の印象を棚引かせる、リズム作りが上手いなと思いながらするする進んだ。逃げる気満々の人、逃亡疲れの人と様々だが、“人生を変える”は共通してそれが捜査人にもかかる連なりが魅力的だった。面白かった、シリーズ化希望。
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練りようかん
宇宙船の群れがやってきて世界各国の大都市上空で停まった。何々?と戦々恐々。名作だが事前情報をまっさらな状態にしてたため、船を降りるのが50年後は長い!とツッコミ驚きながら興奮と期待が高まるのを楽しんだ。第1部は2度目のチャレンジだとわかったのが面白く、第2部の地球が自滅しそうになった原因が興味深い、第3部は彼らが真に見守っていた対象に愕然とした。地球外知性体との対峙で侵略でも戦いでもない展開が新鮮だった。そして自分たちは助産師で子は産めないという言葉がその後の想像を逞しくさせる。池田さんの新訳で良かった。
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練りようかん
『ミステリースクール』きっかけ。誰かに殺されたがっている女。被害者の意図を探るミステリーで始めから興味を引かれた。女がターゲットにした7人の誰か達がその後の章で視点を担い、警察の逮捕や殺害を告白する遺書を横目に彼らの真実のストーリーが展開。面白くさせたのは犯行時刻に幅を持たせたことで、誰もが可能性を持ち『オリエント急行〜』を一瞬想起した。しかしそれとは事件の奥行きが違うのも感覚的にわかり、3Wより気になるのは複数の犯人が単独犯であり得るなぜ、で好奇心が疼いた。毒のグラスが上手い伏線で唸った。楽しかった。
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練りようかん
頭寒足熱は日本独特の信仰、東欧と呼ばれるのを嫌う国のメンタリティは明治以降西洋化した日本人と近い等、はじめはピンとこなかったことが要所の汲み取る上手さと理解を深める伝え方でわかるを実感できる楽しさが続いた。「ドラゴン・アレクサンドラの尋問」で一段落朗読したあと掻い摘んで話させられるとあり、教室風景が浮かび大変だと思うと同時に日本のアウトプット教育について考えさせられた。語彙力とは言葉をつなぐ力なのだなと痛感。また、謎が残るサフランで貧血から回復した話、「黒パンの力」や「物不足の効用」が面白かった。
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練りようかん
著者自身を思わせる主人公だが、小説家ではなく探偵やってたってその他諸々設定が可笑しい、取り敢えず騙されちゃってくださいとあったので飲み込む。このノリがいいなとワクワクした。コンセプチュアル・アートの図がかわいい。昭和58年1月の出来事を4月に書くという形式で殺人事件が展開、しかし推理の対象は僕が書こうとしてることで犯人じゃないことにえー!っとなる。遊びと真面目の同居、横溝ミステリと橋本ワールドの融合、特に“殺人事件に於ける都市と記号論”が面白かった。探偵側の都市に丸ノ内線の大学街を絡めたのが流石の着想だ。
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練りようかん
連作四編。一編目では遠く離れた地に想いを届ける方法として選択した“ピア動”が、どんなイノベーションを起こすのかに期待。二編目はコンビニのチャイムアレンジに火がつくくだりが面白く、地方発の全国区が月と同じくらいのハイジャンプに感じ、ラブの着地も良くて短編として一番好きだった。また、バーチャルアイドルの名前はコスミックレイをベースにしてるのか等元を考えるのも楽しく、専門用語の殆どを理解していないのだけど、文体に勢いがあってつるりと完読できた。ドワンゴ会長の解説が興味深い、転換点本として価値があると思った。
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練りようかん
第二作。いとこの死に疑問を抱いた主人公が自分で自分に依頼。この動機だけで物語を引っ張れるのかなと思っていたら、主人公の一言が死を招いたとも言える事件が起こり黒人ゆえ警察もろくに捜査しない。残された妻にかける言葉から主人公のアイデンティティと生き方を思わせ、物語が立った手応えがあった。あとはもう絡まった糸を解すだけ、秘密の隠蔽で何度も危険な目に遭うのだが、主人公が乗る六万トンの船が爆破されるシーンは視界が揺れる感覚でもはや恐怖を感じる余裕もなく、とりわけ迫力があって良かった。苦さ残る読後感で面白かった。
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練りようかん
大好きなショートストーリー+短歌形式で嬉しい。プルースト効果の逆で、きっとこの食べ物が今この瞬間の記憶と強く結びつくだろうという予感が、言葉にできない哀しさとともに襲ってくる。失われるものに対してどうしようもない自分、頭が追いつかない展開が多く「うまく驚いたりうまく求めたりするのをみんなどこで習うの」は加藤さんらしさを強烈に感じた一首だ。掌編として好きなのは「カスタードクリーム」と「さつま揚げの煮物」。フード系は美味しさが仔細に描かれるものが多いがそこをサラッと書くのも良い。とっても楽しかった。
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練りようかん
中堅の飲料メーカーの御曹司が監禁された。誰が見ても異母兄はあやしく、くってかかる弟。社内政治が絡むポジション争いのサスペンス感覚で読み進めたが、どうも異母兄っぽくないと思い始め、気づけば営業ノルマや新商品開発のお仕事小説として没入していた。仕事は作るか奪うかだ。先の要素に恋愛や家族のドラマ全部くるめる一言は大きな釘だった。獅子谷父の思惑通りかと思うと異母兄を応援したくなる、だってチョコの一件がかわいいのだ。人物配置や展開の安定感が良く勝負の駆け引きでも澱みが感じられなかったのも特長的。最後まで面白かった!
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練りようかん
祝四十周年『週刊文春』の連載エッセイ。「大人の桜」ではハタケヤマさんのエピソードが久々に登場で嬉しい!歌舞伎にオペラに会食会食会食。相変わらず色んな方と会ってるなぁとバイタリティの凄さを感じ、「パリはやっぱり」なんて脱コロナだけでなくバブル再来の文字が一瞬過ぎってしまった。読んでるだけで参加してる気分になれる喜び。また長らく不明だった誕生日がわかったり、一人きりの夜に小池真理子さんの新刊効果で眠れないが夫に変換された話が面白かった。お茶の水の山の上ホテルの再開が気になる。文化人達は何もしないのだろうか。
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練りようかん
治安警察と反政府組織のたたかい。公開処刑場の設定や殺人教唆で死刑執行がやりすぎに思えたり興味を引かれること多く、何段階もの攻撃に臨場感があってぐいぐい引き込まれた。人命と国のルール、互いが守る者であり奪う者であるからどちらか一方に肩入れすることなくフラットにみれて、それが特殊な緊張感を生んで楽しかった。この国の在り方は日本と重なるのだが、行き過ぎた管理が既視の現実も思わせて怖い、一時的に左遷された番匠の階級の変化が刻々と決戦に近づいてる感じがしてどきどきした。策士の繰り出した最後の手にくうぅ、面白かった。
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練りようかん
はしがきで著者自身が修道士のように感じられ、愛はゆだねることとタイトルの泣くがどう繋がるのかが気になった。修道士から自分の冒険についてきて欲しいと言われた女性主人公。付き合わされ傷つき彼が前を行くきっかけを与える役なのかなと思い結果はその通りなのだが、惨めさに苦しみ泣くに至った場面は新鮮にショックを受けた。迷いや愛の再発見など主人公の内面が描かれる中で、特に面白かったのは愛する人を待つ難しさ、心の持ちようだ。そして神の女性性に興味を持つ彼の言動展開が、宗教は“男のものである”に収まり非常に納得した。
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練りようかん
原子力研究所を辞め、諜報の業界からも離れたはずなのに世界のパワーゲームの道具にされてしまうのか。だがそれでは終わらない反旗の計画にヒヤヒヤと諦念が入り混じる展開で、印象に残ったのは三つ。まずは髙村さんどれだけ勉強したんだろという畏怖。次に世界の四者関係がメイン四人に重なるつながり方の面白さ。特に消しゴムを買うシーンの可愛い切なさと目玉話が、この男二人の関係はなんなんだと言葉が見つからず悶えた。そして原発がどれほど矛盾に満ちてるかを見つめるべき、という一文は胸に訴えかけるものがあり、強いメッセージに感じた。
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練りようかん
オビきっかけ。コアラが降ってきて、彼女はほとんどが毛で覆われるようになり、思ってもみなかった未来がやってきた物語世界。コアラがコロナに変換され想像しえない未来がやってくる状況が不思議ではなくスッと入ってきた。考えてみれば人生も世の中もその連続かもしれない。蚊に刺されたところを吸いたくなる理由も納得で、思ってもみなかったことで溢れてるとつくづく思った。文体から抱く浮遊感が独特で、五編のこことあそこがつながるのだけど連作というよりループという言葉の方がしっくりくる感覚が印象に残った。
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練りようかん
上杉の分室に配属された新メンバーは織田にとってもゆかりある人。冤罪事件と時同じくして経緯が描かれるのも、一方が知らぬまにもう一方が関係性を深めた過去の三人関係を想像させるニクイ設定だ。初陣は裏がありそうな匂いがぷんぷんする事件で、彼女の断片的な呟きが気になり面白くなってきたぞと気持ちが高まった。捜査の動機固めとともに彼女のキャラもかたまってきて、上杉の新しい顔までついてくるオマケが楽しい。鑑識つながりで小川と何かあるかなと期待したらアリシアとか!有効活用が良い手だった。シリーズがまだまだ続きそうで嬉しい。
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練りようかん
ウルフの「壁の染み」目当て。染みは何によって生じたのか?以前の住人を思い出したり主人公の思考は空想を飛び越え自由に羽ばたく。たとえわかったとしても、誰も本当を知ることはできない。深い一文と軽やかに連なる固有名詞、人間の脳と眼がみる幻視に宇宙的広さを思い、ラストがすこぶる良かった。また尾崎翠「途上にて」もわかるようなわからぬような心情と情景描写が胸を静々と動かした。チェーホフ型の可愛い女がいないことはない。この言葉に込められたものが引っ掛かり続け、いつか再読して魅力の一端を掴みたいと思った。楽しかった。
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練りようかん
特に込み入った物件はこの人に頼めばいい。心理的瑕疵を回復させる彼の能力が気になった連作ミステリ。まずは経緯が描かれるのだが、そこに至る視点人物との遠くて近い、又は反対もある関係性が面白くドラマとして引き込まれた。そしてそれが瑕疵と言われてしまうのかという衝撃や怒りがあり、低温度のスペシャリストが登場。激してるところに冷めてる彼の配置が良い、思ってもみない可能性をするりと差し出し引き出すアプローチが達者。特に心を持っていかれたのは二編目。また、瑕疵の有無は世間の風潮で決まると強く思ったのが学びでもあった。
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練りようかん
日常の観察と思考に触れることができるエッセイ。表紙のあおみが素敵だ。何色が好きか問題で書かれていたじゃない方を持ってくるのが天邪鬼っぷりを発揮してて良い、文字の配置含め鈴木成一デザイン室とのコンビネーションにしばし浸る愉悦。載せられた写真は毎回一服の清涼剤、機関車はもう四十号機かぁ!樹の葉が木陰をつくりモノクロなのに光を感じる清と、枝に氷が咲く見上げた構図が素敵だった。また、支配欲の薄れと出世や結婚の意欲を結びつけた「働くことは「偉い」のか?」がとっても面白かった。働けるって平和が前提、確かにだなと深々。
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練りようかん
第三作。舞台はシェトランド署の青年刑事が帰省した島。何十年も事件とは無縁の地で立て続けに人が死に人骨が見つかり、それが接点のないものと言うのは無理がある、土と草からしみ出る水が足元を湿らせるイメージで、陰鬱と冷えが緊張をもたらす筆力が安定して良かった。面白いのは撃った男の妻は余所者でこれからどうやって生きていこうと思うのに、被害者の義理の娘は土地の人間でこうやって生きていこうと声高らかになる二人のギャップで、怖いコミュニティミステリをギュッと感じる対比だった。そして真相は重くああと顔を覆った。次も読む。
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練りようかん
親婚活。ストレートなパワーワード、主人公より夫の方がやる気で面白い、実際参加してみれば怒りを抑えるのに必死、子だけでなく自分達のスペックまで査定される厳しさに混乱と屈辱の心情描写が楽しかった。特に印象的なのはバスの場面。年代の壁にガーンとくる世情とは別の船に乗ってる人達をよく表していて、具体例のチョイスが上手いなと膝打ちだった。また断る難しさも同様で本音を言うべきかの逡巡に、主催者側が五択ぐらい用意してくれればいいのにと思った。成婚するケースの要所がわかる家族の在り方で、市場調査の好奇心を満たされた。
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練りようかん
文士と呼ばれた父に対する怒りと嘆きが伝わる序幕。葬儀後に届いた原稿を読み始めると時は遡り、もしかしてと思ったことが物語の中で展開した。母の死の真相と父の作品を書いたのは誰か、二つの謎が謎めく描き方にとても引力を感じてのめり込んだ。弟が書いた私小説を現実にする兄。この順番がキモだったと気付かされゾクッとして、それまでがひっくり返されてもどこまで本当なのかと信頼できぬ不安定さが楽しかった。書く人間の家族親族にまで降りかかる業を思うと解説が井上荒野さんなのが頷けた。岩井氏はいつか直木賞を獲る作家だと思う。
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練りようかん
著者名とタイトルだけで既に魅力的なのに表紙の力強く大地の香しさがまた良い。究極の餃子に取りつかれた男に触発されて、周りが人生を変えていく群像劇のような戦中戦後の二部構成。男の名前がグンゾーなのはシャレか?大陸の蒸し餃子やモンゴルのバンシーを初めて食べた時に打ちのめされる男の内側が鮮烈。餃子を食べれば世界の大きさを知り戦争なんてしないのにと思ったり、東京大森の家庭で持ち帰り餃子が広まるのが実話っぽいと感じる面白さもあった。日本に餃子を広める彼ら、究極と一言で言っても其々の究極が違うのがとってもドラマだった。
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練りようかん
煮売屋という商売を初めて知ったので仕入れや食事の取り方が面白く呑める定食屋をはじめは想像していたのだが、客を待つだけでなく売りに行ったりもしていて興味深いお仕事だった。店は神田紺屋町にあり、主が旅に出たため14才の主人公が何とか切り盛りしている。甘い物好きの魚屋さんや機転のきくおくまさんが良い、人情と連帯感が心に響いた。食と謎解きの組み合わせだが、客の悩みに合った料理をただ出すだけじゃない、特に残された粕汁の真意を探る三話は考えが凝り固まっていた!と刺激がピリピリくる脱出感が美味。楽しかった。
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練りようかん
13名の書評家が13ジャンルに分かれて国内外の名作を紹介。本格や警察小説などこの手のガイド本では必ず見かける定番のテーマは順当という印象。特に目を引いたのは瀧井朝世さんの〈一般文芸〉で、純文はニアミステリーなのだと証明してくれる解説が嬉しいし流石。青山さんなんかはこれをきっかけに広く読まれると良いなと思った。そしてセレクトも感情の沸点もドンピシャだった吉田伸子さんの〈恋愛〉も面白かった。こういう人を好きになるのはこんな人。それが人物の闇を感じさせたりするよなと浸った。読みたい本がまた増えた。楽しみだ。
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練りようかん
『〜サンドリヨン』の続編。両想いで完結せずまだ遅々と進む主人公のドキドキが伝播して、心臓をだいぶ酷使、ほんっと太腿好きだなと笑えて感傷的でもあってと楽しかった。主人公の視点に加えてグループ内と居場所確保云々で悩む女子の視点があり、各編の解決と1冊通しての解決が期待できる構成。日常の中で苦しんでる人に気づくのは難しく、手助けできるかはもっと難しいと強く思った内容で、10代らしい自意識と幼稚な残酷さが痛々しく映った。特に好きなのは曲がり角ごつんの「ひとりよがりのデリュージョン」、王道からの意外性が良かった。
が「ナイス!」と言っています。
練りようかん
せっかくなので土曜日を選んで読んだ。明け方に主人公が見た彗星は燃え上がる機体だった。1日の始まりが丹念に書かれていて、じわじわと感じる不穏、9.11とその後がロンドンでも起こるのかと思う不安、それが個人にどんな形で降りかかるのかという好奇心。序盤が肉厚なのが著者らしくて嬉しいけれど、主人公を2つの名で表記していてやや混乱し慣れるのに時間が要った。特に面白かったのはイラク戦争で父娘の意見が対立するシーン。そして詩の力、文学が暴力を抑えたシーン。脳外科医である主人公の死生観が物語に齎すものかわ旨味だった。
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練りようかん
測定機能の全部のせみたいのが次々発売されてるが、そんなに知りたいものかね。まえがきの“高齢者の本質を的確に射貫く”とはこれだ!と一発目から調子良い、恒例のエッセイ集。時事ネタと高齢者の生態を表現する現状提示から肯定修正の活用形が面白い、その対話力を身につけたいといつも思う。特に好きなのは「女性専用車両に乗ったら」。やり取りは勿論、おじいちゃんにもイヤイヤ期があるんかと目を開かれた。そして今回の解説は荻野アンナさん。チャットGPTの再現か、文体の踏襲が素晴らしい、取り上げる本文もツボ押さえてて秀逸だった。
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練りようかん
連続して危険物を渡されたのは恋人たちとのデート中。日頃の行いを咎める者が現れたのか、主人公と犯人の悪と正義が反転した世界が楽しくグイグイ進んだ。わりと早めに思い当たる存在が浮上したため、二転三転するのかと思いきや単なるダミーというわけでもないらしい。AがわかるとBがわからなくなるという嬉しい設計で、警戒の集中力が切れることなく真相解明まで。探偵役の謎解きは鮮やかで、すっきりしたいはずがどす黒くくすんでいくイメージ。小学生時代の主人公が空恐ろしかった。そして犯人の捻れ具合が突き抜けてて面白かった。
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練りようかん
引きこもりの男の子がメインの第一章。サンリンボーに興味津々、本当にあるんだと驚きつつ不幸な出来事は予想通りで平常心でいられた。しかし第二章からつながりを見失い、時系列やあの人がこの人なのかと整理に忙しい、読めば読むほどわからなくなり焦った。またサンリンボー!呪いと呪い返しの背後で中心点となるもののニオイを感じるのだけど、やり方間違ってる?汎用性高い?と心はサンリンボーが独占状態。最終章に入り住所の偏りでゾクゾクしたが、符号の爽快と女子二人の片恋っぽい爽やかさで終われて余韻は軽かった。
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練りようかん
埼玉の郊外で中古品店を営む五郎。効率の良い仕入れ方はナルホドで閉店前に下見するのが面白い、次第にわかるほっとけない事情に情けなさ悔しさ弱さを感じて唇を噛み、円満な解決策を願った。閉めたい父と阻止したい娘の定食屋など連作六編。特に興味深かったのはライブハウスの「ティーズガレージ」。少子化や世界成長まで絡むのが意外で、専門業界と中古業界の今昔が合致する気づきが楽しい、ロケーションのマッチングがさすがでどうやって取材してるんだろと思った。清々しい終わりでもエロ親父のときめきを欠かさないのが良い、続編も読みたい。
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練りようかん
戯曲。舞台配置図が興味を引いた。カクカクとした窓際は今後角度がトリックに関係するのかなと想像した。しかし物語が少し進むと殺された男にとってフランス窓は社会との接点であり断絶であり復讐の舞台だったんだと思えて、通読するとその窓から侵入してくる男というはじまりが如何にうまいかに唸った。真犯人は別にいるとうすうすわかってはいたけれど、角度を変えて見ると登場人物の誰もがあやしく思えてフーダニットのスリルが急速に盛り上がる、やっぱりなあと窓と角度に終始した。タイトルの暗喩を知ったことで他作品がより楽しめそうだ。
が「ナイス!」と言っています。
練りようかん
夫の死後自分が死ぬまで21年間も喪服を着続けた女性。強烈さに目がチカチカした。島を守るためにきた男と巫女のような少女の出会い。名作の見方を決定づける論や解説に違和感を抱いていたため、異を唱えたことが面白いと思った。島尾作品の検証から納得させられる素地、資料やインタビューから窺えるミホの願望が丁寧に綴られていて面白い。ミホの意見で原稿を直したりと『死の棘』は殆ど共同作業だった発見は大きく、生い立ちから想像する家族観や島民や養父を裏切った罪悪感を知ると、この男を選んだ悔恨と闘い向き合い続けた人生に思えた。
が「ナイス!」と言っています。
練りようかん
長野で副知事を狙った爆弾事件が起こり、スカイマーシャル時代に叩き込まれた知識が役に立つのか、外部アドバイザーとして捜査に参加。だが神谷に謎の一言を残した男は何者か、犯人当てより男の捜索へ軸は移り、ここら辺まではドキドキしていたのだけど、貝田とセットで行動し真田家の話が深まると紀行ものを読んでいる印象が強まり、切迫感は薄めだった。さらに貝田のアニメ好きはしゃぎと玲奈の“角がとれてきた”行動がY字ポイントのレールを思わせ、天丼コンビで逸されたもやもやと大きな山場なくするっと終わったのがいかにも政治っぽかった。
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練りようかん
若い二人の結婚。派手な女性関係は有名なのにプロポーズに“シュア”と答えた女の真意が気になった。第一部は男の人間形成がよくわかる一方女は空白の部分が多く、そのせいか裏の顔を勘ぐって怖いとまで思っていた。だが第二部でその空白が埋められていく様がスリリングで、意外な本心に気付かされる混乱に引き込まれた。男の死に女が怒りをたぎらせる感情構造が興味深く思っていたのだが、男と男性性に対し物語を読みながらずっと強い怒りを感じていたんだと自覚する瞬間が訪れふっと融解した。邦題の先入観がいいミスリードとなって面白かった。
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練りようかん
シリーズ一作目。職業意識の高さや矜持がわかる主人公の言動はすっきりして気持ちいいと思った。妻には散々な言われようで序盤はユーモア小説の感触が強かったが、不十分な法律のもとにある厳しさをキリキリと感じる読み味の変化に引き込まれた。幼なじみの同期と正反対な設定が面白い、期待した良コンビから腹を探ることになる展開が楽しかった。警察刑事ではなく官僚と書かれている物珍しさもいい、情報が上がってこないことに怒り、都合の良い情報しか上がってこない不信感がある。主人公の異動先は当然の流れで一冊かけてのプロローグに感じた。
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練りようかん
主人公の身体に起こるはじめの三行でこれはまずいと思った。焦燥感でいっぱい、早く病院へ行って欲しい。だが治らないと診断されてしまい、自責の念にかられるママの辛さ、学校生活の苦しさに呼吸がどんどん浅くなった。友人に告白できず、手話サークルではできた理由が、今まで胸の底にたまっていた水を掬い上げるような軽さと重みで読む手が止まった。中途失聴で困ること、何でもない会話が一番難しいことは覚えておこうと思った。主人公のチャレンジ、第一歩が描かれ読後も胸が一杯になりなかなかおさまらなかった。良書、出合えて良かった。
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練りようかん
シリーズ第17弾。織田に殺人容疑がかかり、わかりやすい疑惑に杜撰な動機設定で、彼等を見くびってやしないかい?と言いたくなった組織対組織の勝負。加藤さん山中さんと飲むんかい、織田のピンチを黒田が救う手助けをするのか、と嬉しい組み合わせに盛り上がる中、特に気になったのは防犯カメラのディープフェイクと証拠能力の取り扱い。現実問題解析はいたちごっこ、しかも警察が後追いなのではという危機感が拭えず怖いなと思った。加藤さんくる?サイバー課の引き抜きに浮足立ったが残念、今作は完全に加藤のおっさん読みだった。楽しかった!
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練りようかん
婚約者が失踪し鎌倉や京都のお寺をまわリながら、彼と過ごした記憶をめぐる主人公。次第に二人の関係性と内包しているものが見えてくると、なぜだか深層巡りという言葉が浮かんだ。あらすじに恋愛抒情詩と書かれているのだが、物語のうたの声がきこえる浮遊感がずっとあった。誰かの不在によって在るということが問い質されてる気持ち。愛・性別・所属の在不在が興味深く描かれていた。特に出会いの場面で彼が持っていたカミュの『異邦人』と、ヨーロッパをまわった叔父を指す“異邦人”が印象的。裏切りからの解放、最後の脱した感覚が良かった。
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練りようかん
首なし死体にのこされたメッセージは読まれるかどうか確実性に頭を傾げるもの。二人目の死体も発見され、主人公刑事が書き込む時間をさっくり割り出すことに驚く、有能なのだ。しかし主人公が名を挙げた事件解決にはB面があるようで、相棒刑事が主人公をバックアップしてるのか脅してるのかはじめはわからず妙にドキドキして、常に側面が気になるつくりが面白かった。被害者たちに加え、過去の事件など複数のミッシングリンクを同時進行で追う展開。真相は、犯人の意図はわからんよ!と叫びたくなるウルトラCで終盤は唖然、あっという間だった。
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練りようかん
日本エッセイスト・クラブ賞きっかけ。杉並区のご自宅近くや文化外交活動で滞在したヨーロッパ、とりわけドイツと若かりし頃過ごした長野の木々が、季節や見ている景色に絡めて語られる。まろやかな表現力と体感の濃度の高さが魅力的、冷気と清々しさを伝える写真が想像を膨らませた。ドイツの花々がきりりと咲くあり方に、信州のそれと共通点を感じるのが興味深い。最も印象的なのはアウシュビッツからの帰り道、特有の香りで目線を上げ落葉松のやさしい明るさに癒される場面だ。梢や枝の間を抜ける風と光が心も通るよう、生命の救いが美しかった。
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練りようかん
飛行機に心奪われた透。操縦したい、それだけの理由で航空自衛隊へ。エピグラフに『豊饒の海』が使われているのだが、盲目的に邁進しひどくエゴイスティックなのに崇高さも感じ、つるりとした肌をイメージさせる透は三島作品の主人公だと言われても違和感が無いと思った。大きな蛇がついてまわるのも世界観構築に効果大。輪廻輪廻と呟きながら、タイやバングラディシュに拠点を移す透を見守った。ミシマカラー強めだが、フェアな印象が読感として残るのは著者のカラーだとも思った。“あなたにとって国旗の日の丸は何だ?”三島の答えを知りたい。
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練りようかん
他人のなれなれしい態度に苛つく40代の俺と、NYに行った恋人を待つ私の視点で交互に展開。しょうもない仕事場のどんだけしょうもないかや、脇役のキャラエピソードが立っててジワジワ心をくすぐった。1日1日を過ごすことに全集中、彼等の腐してる描写にものすごく“生”を感じた。後ろ向きと闘う中、通天閣の灯りが無条件に前へ押し出す。言葉も言わず動きもしない物体に、ああ今日も立ってる、えらいな自分も頑張ろとなんで思わせられるのだろう。自分にとっての心のシンボルを思い浮かべながら読み進めた。津村さんの解説が良かった。
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練りようかん
便利屋高校生の続巻。いじめを告発し身投げした男子高校生の意図を探る展開。依頼者の交際相手と彼の母親も両方の言動が違和感だらけで楽しい、しかし人間の裏の顔が見えてきて深刻な過去が浮かび上がるとヒリつく感触に変わった。いじめが起こったのは同級生界隈かと予測していたが、行方不明の人物の年齢から突然別の景色が広がるのが面白い。真性の悪に慄えるのは前作と共通しているけれど、今作は真相の箱の中の箱が明らかになる過程が工夫されていて、グレードアップした印象で没入。心は重いが使命感の強さも抱かせる、物語の厚みが良かった。
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練りようかん
タイトルが不穏で興味を引かれた12の短編集。見えないはずの存在や過去と繋がりのある、もういない存在に対してどう反応するかは人それぞれ。ゴシック・ホラーを基調としているが、生後3ヶ月のしつこい性格や脱毛処理が中途半端で浅黒い大根足など、ディティールのおかしみがただ暗い感じにさせず良い。しかし趣味の悪い冗談、心底ぎょっとさせられる悪意はパンチがあって、集合体恐怖症の人に蜂の巣を顔の上に乗せる図に近い。そのイメージは、社会政治の罪をしばしば感じたことも起因している。特に惹かれたのは「戻ってくる子供たち」。
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練りようかん
第八弾。事件を匂わせる届け物から如月のひらめきでひとつの成果は得たものの、真のSOSがわからない!保護した九歳の男の子は何に利用されているのかが最大の関心事だった。父親が犯罪者だったら可哀想という余計な思いやりが話を鈍らせ、またアンタかと言いたい公安・上条の絡みがあり、その関係性を知ると脱力。背景にある事件はほんとうに背景でしかないのが面白い。シリーズが長く続くとちょっとした変化球回が欲しくなるのだが、そのちょっとを突いた作品に思えた。手代木さんに娘いたんだ。周りの反応が愉快。次も手代木さんに期待だ。
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練りようかん
タイトルきっかけ。通学路を走るぼくは一心不乱、スニーカーから蹴り出される小石の躍動感、鉛筆と絵の具を使っているのか見開きページの力強さがとても良い。7時47分から1ページに1分ずつ進む。いつもと違う景色が現れるのは、心理的負担のあらわれなのか?最もツボだったのは踏切り。長いよー!ゴンゴンゴンゴンゴン72!わかるよ、こういう時に限ってねぇと心の中で話しかけていた。人間と犬のサイズ比率もおかしいのだけど、こんくらいの意識だよねと思う。立ちはだかる感じが頷ける。1分1秒を争ってたのに。ラストの浄化が素敵だった。
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練りようかん
血まみれの体の上にのった塊から、ヘイトクライムを想像した。クラブの青い電球、照らされた肌の色、交じりあった香り。匂いと色が描写していてもしていなくても、常に脳内に強く存在していた。いつ攻撃の対象になるかわからぬ鬱憤、肌の色や性的指向を記号化する世間に対する嘲笑。主人公と他者のやり取りは、ジュッと焼きつけられてる感じがして胸が痛かった。怒りは屈折する。光を受けたナイフとラストのポジションずらしが良かった。早くも自分の文体が完成している、なんて言うけれど、著者はムードが完成されていると思った。次作も読みたい。
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練りようかん
こんなにもあっさりと拐えるのか。唖然とし、慣れた手口が過去の被害者を思わせて足元が揺らいだ。10歳の少女が監禁生活で感じた恐怖、絶望、空腹、そしてまた絶望に吐き気を覚え、精神的にもハードだった。しかし夢見た自由の複雑さと想像力の異常発達が少女の武器に、救いに、自身そのものになってく展開に圧倒されて読まされてしまう。特に視線の扱いが面白く、部屋の覗き穴、犯人の視姦、周囲の好奇な辱め、絵画教室のモデル、見られる側が見せる側になる職業設定と小説内小説の機能、必然性がとても巧みで痺れた。作品に宿る力を感じた傑作。
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練りようかん
SF作品集。一編目の「サンクチュアリ」は誰もが言葉を正しく綴れる世界の実現に、人間の脳の躍進か対人工知能も考え少しもやもやしていたのだが、最後の編「色のない緑」で不完全な人間しか理解できない、のせられない文脈と言葉が背負う文化が先の編の解に思えて、通読の愉しみを味わえた。また、主人公に与えられた課題にワクワクした「開かれた世界から有限宇宙へ」と表題作も面白かった。特に後者は香川県条例にピンときて設定が興味深く、『ブレードランナー』と重ねるシーンも魅力的。そこオチか!と心が跳ねるのも共通して良かった。
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練りようかん
茶色か鈍いバーガンディに見えるタイトル文字と白黒のコントラストが素敵な表紙に惹かれた。何者か問われても全く答えず、驚くことに性別も外見から判断できないピュウ。しつこく知ろうとする周囲の方が異質に思えてくるのが面白い。誰にも話せない事を打ち明けたり、嫌悪の言葉を投げつけたり、反応の強要がひどくなると何なのアンタらと言いたくなる。偽善、欺瞞、差別。彼等のすごい論理と祭りが怖かった。舞台はアメリカ南部の保守的な町。コミュニティは肌の色で分かれてると知ると、タイトル字が脳で点滅。恐ろしい心理を炙り出す寓話だった。
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練りようかん
敵討ち計画の巻き添えになった父。長編の序章にあたる小料理屋の場面、刻々と険しさが増し一気に悲劇へ突き進む緩急に引き込まれた。誰かの因縁で人生が変わってしまった人間を描く。侍ではなくなったが商人にもなりきれぬのか。主人公の煩悶と疑心に近い不安を抱く妻の間に流れるものが読みどころのひとつで、商いの世界の計略は武士も商人もと思わせる展開の面白さがあり、ほんの一文がスリリングで深々と頷かせる言い回しを噛み締めた。挿し込むタイミングが上手いんだな、全体の構成と細部の抑揚、どうやって考えて作られているのだろうか。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2018/02/26(2267日経過)
記録初日
2018/03/01(2264日経過)
読んだ本
4493冊(1日平均1.98冊)
読んだページ
1464563ページ(1日平均646ページ)
感想・レビュー
3739件(投稿率83.2%)
本棚
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