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2024年3月の読書メーターまとめ

練りようかん
読んだ本
66
読んだページ
20862ページ
感想・レビュー
66
ナイス
1279ナイス

2024年3月に読んだ本
66

2024年3月のお気に入られ登録
5

  • Koichiro Minematsu
  • Koji Eguchi
  • 轟直人
  • 山豹 ぽえぽえ。。と交際中
  • 碓氷優佳💓

2024年3月にナイスが最も多かった感想・レビュー

練りようかん
公園にある動物の形をした遊具。新築マンションの人も団地の人も引き付けちゃうんだ、と既に惹かれていた。懐かしさと脱力と救いの神に違いない信頼感。青山さんテッパンだよ、カバヒコ〜って叫びたいと思いながらページを捲った。全五話の二話目で“ごまかしのない自分”が共通テーマに思えて、最も感情を動かされたのは第三話「ちはるの耳」。ブライダル業界に務める主人公が身近な人の幸せを祝福できないなんてと心が苦しく、新郎さんの手紙に涙。クリーニング屋の常連客つながりの連作が最適な表現で終わる上手さにゆるゆると笑顔。最高です。
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2024年3月にナイスが最も多かったつぶやき

練りようかん

2024年2月の読書まとめ 読んだ本:59冊 読んだページ:19160ページ ナイス:1018ナイス #読書メーター https://bookmeter.com/users/843304/summary/monthly/2024/2

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2024年3月の感想・レビュー一覧
66

練りようかん
人気シリーズと知り読み始めた一作目。死体の傷から犯人の頑なな性格が窺えて、浴槽の氷漬けが象徴的に感じられ、序盤から早くも興味を引かれた。主人公の立ち位置が面白い、被害者は昔の親友。なんで疎遠になったんだっけ?事件の鍵はおそらく過去にあるのに、子供だったがゆえにわからないもどかしさが良い。幼馴染の刑事と恋仲になり長年の思いが今!というのと事件も同じ様相な気がして、複数のシンクロニシティがジワジワと楽しさとスリルを高めた。舞台は何十年も殺人事件が起こらぬ小さな町、そこで生きる難しさが一番胸に残った。
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練りようかん
ほんの一字か二字で訳文は変わると書かれていて、原文を読めないのに不思議だが本当にそうだと思う。鴻巣さん訳は文章に纏う空気までのせてくれる印象だ。顔見知りのあ・うんの呼吸の訳を考えてたり、翻訳過程の実況中継を読むとやはり何かしらの空間に対して取り組まれているように思えて、“全身”の意味と裏付けに嬉しくも慄きに近い感情を抱いた。子供時代から大人の横のお付き合いまでが綴られ「体験」の日々が興味深い。エッセイとしては「味噌の解禁日」と「ヤマダさんの煙草」が面白かった。『風と共に〜』読むぞ!意欲が湧いてきた。
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練りようかん
第二弾。悪魔が森に戻ってきた。人形遣いは山羊ひげをたくわえ森の名前は絞首台森で首吊り男児の過去があり、グリム童話をイメージさせる要素が沢山だ。さらに丘から見える亜麻の青が鮮烈で頭に焼き付いていたのだが、化学好き少女の実験で秘密がわかり、物語が進むとあの清廉な青がと勝手に裏切られた気持ちになってくるから面白い。舞台中の衝撃もすぐさま死因を言い当てる主人公の賢いことよ、警部が目を細める描写がきらりと光る。犯人の決定打は母亡き主人公の喪失と重なり悲しみと腑に落ちが同時にやってきた。次も読もうと思わせる余韻。
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練りようかん
甥のヘイトクライム容疑に事態を悪化させる弟、キレる兄、その姿に愕然と幻滅する妻。ああ壊れていくと思った。中心は曖昧に外側からくっきりさせる描き方、人物の心を拡大する順番や配置が上手い。バージェス家の人々は間の悪い人たちだ!呆れ悩ましい展開。子育てのきょいだい格差と地域社会のカラー、加えてあの出来事がこういう自分を作ってきたのにどうしてくれようと思う、根底にあるわだかまりが顕在意識に上る流れがとても面白く、誰も傷つけた相手に謝罪しない、不合理の合理がミシミシいう家鳴りのようだった。たっぷり没入して良かった。
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練りようかん
ひきこもり探偵シリーズ第二弾。優先順位のトップは鳥井。主人公の献身は相変わらずだが、残酷なエゴも交じってるのではと突きつける滝本、フォローする小宮、皆が必要としてる年上の男をやってくれる栄三郎さん、巣田さん含め人物の輪が本当に良くて、興味を引く謎も天を仰ぎたくなる真相&吐露も全ては彼等が居てこそ胸にグッとくるのだなと強く思った。鳥井そっくりの少年に対する近親憎悪、からの客体化で巣立つ日が来るのか気になる。三編の中では被害者と加害者の構図が一向に見えなかった同期の編が最も面白かった。吉成の頑張りはどうなる?
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練りようかん
ブックスタジオ大阪きっかけ。始めは奈良のことかと思ったが、県をまたぐ一帯らしい。オカルトや怪談ライターの友人が行方不、情報を呼びかけるていで、約三十年にわたる記事・ネット情報がならべられ、スクラップ謎解きのような感覚で進むと山という、まさにまたぐ存在に行き着いた。きいさんち、なのか?山の神様は女性と言う、若い女が消える理由を考えると怖い。これでおしまいです、と繰り返しながらも続くのがまた気味悪かった。特に面白かったのは短編「浮気」、彼は守ろうとしたのかなぁ。モキュメンタリーという言葉を知れて良かった。
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練りようかん
単身赴任中の夫に呼ばれコロナ禍の中国へ。実地でしか感じることのできない事情観察は興味深く、朝食のバター代用や頭の痛くならない牛乳など細かなエピソードが面白くてぐんぐん進む。ごちゃ混ぜの対応力で高級ブランドから危険や路地裏まで行けちゃう主人公と、三年もいてまだ馴染めない夫。心の持ちようがテーマに感じられる後半、メダル獲得選手もコスパ最悪周りは辛いとぶった斬るのが気持ちいい。辛辣じゃなくて本質だと思った。歳の差夫婦のWin-Win設定だったり、冒頭のミニスカートの伏線が効いていて、疾走感と納得感が良かった。
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練りようかん
四国の田舎町で暮らす16才男子が主人公。伯母達との同居をきっかけに、亡き祖父母について知りたいという欲求を高めていく。ルーツの興味と将来職業の手探り感が思春期らしい、従姉妹の振舞いで精神発達の男女差を意識し、自分なりのペースで片方の性を慮る主人公の等身大の姿が清いイメージだ。しかし物語は濁りのある気配が漂い、子供同士の喧嘩が心中事件の経緯を思わせゾワゾワが楽しい。やっぱりな真相の後にひょっとしてと考えが及んだこに悔やむ気持ちすら感じさせる闇を用意してるのが近藤さんだよと膝を叩いた。重い、けれど良かった。
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練りようかん
タイトルきっかけ。覚えのある意識、すぐさま浮かぶ光景。歌を詠むことで近しい現実が寓話の1頁に思えてくる面白さがあった。“日曜から土曜にわたる階段で僕は平たいアメーバになる”、“雪の日のわたしの椅子の本の山大きな猫みたいに座ってる”はほわわんと胸に広がり、“『日々蝶々』3巻までは読んでいる13巻を本屋で見つける”はくらくら遠く切なく、“「ヤギばか」で検索すると崖にいるヤギの画像がたくさん出てくる”は、まんまとググった己の痛々しさと仕掛けの深さが心に残った。良いと思うのは“る”で終わる歌が多いのも発見だった。
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練りようかん
誘拐後犯人の要求が興味深い。自白を迫られる議員の経歴を知るとそれだけでもう黒い、どれのこと?と咄嗟に思ったのだが家族の話し合いであのこと、とひとつに絞られたことにびっくりツッコミ。序盤から強い引きの連続で、特に展開を面白く感じさせたのは内輪の後継者状況。現在鑑賞中の大河、藤原兼家親子と通ずるところがあり家の政治基盤を守り抜くための蛇っぷりが楽しい、賭けに出たな!とか完全にお父さん読みだった。物語も単純にVS犯人にならず、漁夫の利を探る方々の緊迫感が良かった。折衝の腕が物言う世界なんだなと痛感した。
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練りようかん
六名のアンソロジー。ひとり住まいは楽しいけれどリスクもチラつく。緊急通報システムかぶりの大崎さんと岸本さんは、読み手のあやしむ心を見透かしたようなハラハラの山場から、ホっとするのを越えて頼もしく終われたのが共通して良かった。初読み作家の坂井さんは湿度の高い文体で、主人公の視界と内実に引き込む力があった。短いけれど来し方は深く、濃い業が十全に感じられ印象に残った。そして最も面白かったのは松村さん。歳上の、しかもお金持ってる女の人に交渉するサスペンスがたまらん、持っていき方も上手いなぁ。長編も読みたくなった。
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練りようかん
人気作家の創作アトリエに集まった参加者たち。見えないつながりがあるのか、島の彫像はどれが誰に当たるのかなど期待が膨らんだ。序盤こそクリスティの名作を思い浮かべながら読み進めたけれど、中盤以降は参加者たちの“死ぬまでにしたいこと”が流れに沿うようで沿わず、迷宮に入り込んだ感覚になりオリジナル単体の意識が強くなった。肝心の作家は途中で行方不明になり、あやしいと思った人物はことごとく容疑から外れていく。そんな中突然存在感を増す荘のオーナーがラスボスに思えて最後まで怖かった。総じて語りの力を感じた作品だった。
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練りようかん
四編収録。表題作はぬいぐるみと喋る人はやさしい理由を知り、だんだんやさしいって何だろうと思えてくる運びだった。恋愛感情がわからない主人公にとって性の薄いぬいサーは居心地の良いコミュニティ。しかし異性のソウルメイトが大学に来なくなり胸が苦しくなった。あなたが一番やさしいよと思う“あなた”が順繰りに、そしてラストに浮上する“あなた”にハッとして瓦解の幕引きが良かった。また「たのしいことに水と気づく」も家族&恋人の距離感がゾワゾワときて面白かった。共感力の高い人の回路が少しわかったのが発見だった。
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練りようかん
第二弾。正式入社後手応えのない毎日に派手なトラブルを望む雅也。不貞腐れなくても十分厄介事に絡むよと肩を叩きたいくらい余裕だったのだが、いざその段になると本気でヤバいと焦った。アクションシーンはメンバーの戦闘能力が未知な上、直ぐ側の抗争は人数多すぎてハラハラが続いた。その中で美紀ちゃんのバックドロップがカッコよかった、素敵。修羅場では存在感の薄かった人妻が完全に蚊帳の外なわけがなく、予想通りカワを剥がす舞台裏披露は愉快。立木さんの良いキャラと、交渉オバケな社長が世界観を楽しくしてくれて面白かった。次も期待。
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練りようかん
依存の分岐点は集中すべき時間が細切れになってないか。一番の敵はフィードバック制、ランダムなタイミングで少しずつ増えるって読メもだよと苦笑いした。FBのCEOの発言を皮肉をこめてヒントにする展開がユニークで、便利と必須を混同しないなど具体例から置き換えイメージがし易く、自分なりのミニマリズムを見つければよいのだと学べた。印象に残ったのはデジタルネイティブの不安障害増加と孤独の定義。孤独は他者のインプットから切り離した意識の状態とあり面白い、新しいテクノロジーは孤独の価値を蔑ろにするという警鐘が発見だった。
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練りようかん
ミステリだと思って読み始めたが、恋愛にサスペンスを感じてしまいとても惹き込まれた。秘かな恋心が言葉一つ一つに反応して葛藤する呟きにドキドキしっぱなし。フィギュアスケートの氷の外で繰り広げられるシビアな世界は怖く、元ネタがありそうと思えるドキドキと、何度も持ち上がるいわくつきの転落死の真相をめぐってこっちのドキドキも混じり大変な状態になった。ⅠとⅡで視点を交代させるのも上手い、ファンと現実の恋情は好みのタイプと実際好きになった人くらいの違いに思えたり、感情論理の深掘りが収穫。展開の転がり様が面白かった。
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練りようかん
懺悔の内容と古書に対する拒否反応が興味深くするすると進んだ。老舗旅館名物の蔵書から、若女将が宿泊客と引き合わせた本の内容と内実がリンクする安定の展開。お茶菓子が魅力的なのも良い、のりタマクロワッサンサンドとダージリンティの意外な組み合わせが面白く、レモンケーキのじゃりじゃり感にたまらず空腹を感じて一旦中断。曽祖父の告白は『こころ』のエゴイズムとオーバーラップして恐ろしさに絶句、引き込まれた。庭園から想像する佇まいや横のつながりが楽しくなる一方で、家族の縦は気持ちが曇りタペストリーの締め具合がお上手だった。
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練りようかん
実話怪談集。屋敷の間取りをイメージさせる各章タイトル、目次から雰囲気が灯っていて、扉の二重丸がこっちからあっち側へ行ってしまうのを想像させて怖い。49篇もあるのでとても短く、次々読めるのと1行目から熟読させるタイプがありその違いに興味深いものを感じた。特に面白かったのは地縛霊の動けぬ苦しみを思わせた「相部屋ゆうれい」と、伊達に5千年も!と叫び走る姿が閃光を放ち笑えた「怪談未満の人々」。そして怪談収集が趣味の著者実体験、記憶のないラーメンが刺さる、千日前のローソンで何したら6000円なのか知りたい、すごく。
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練りようかん
表紙やタイトルに既読作とのギャップを感じて興味を抱いた。年子の兄弟がよく知らないと言いつつ観察はしていて、それでいて相手の心を汲み取れてるわけでもなく、結局全然違うじゃんというところに落ち着くのが何ともわかる。“気取った”兄は上京し、庶民的中華屋そのまんま衒いのない弟の両者視点で展開。弟は自分が店を継ぐと思っているが、兄の方が根っから家業向き人間に思えてくるのが面白い。特にポカリのシーンよ!また脇役の古嶋くんが貴重な存在に印象を変えていくのと親父の言葉に胸を掴まれて、ズシンと残る物語だった。楽しかった。
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練りようかん
低空飛行の51才刑事と北欧王室の16才のバディもの。予想通り推理にキレを見せるのは王子の方だが、なぜ捜査に参加するのかが気になり、物語が進むとだんだん建前と本音が見えてくる寸法で事件そのものよりも王室兄弟の経緯に関心が向いた。日本人の国民性を利用された犯罪と彼等のそれから相手の罪悪感がひとつのテーマに感じられ、国は違えど最終的にはボーダーレスだなという印象が残った。刑事のだらんとしたお世話ぶりや分かりやすい反発もないのが属性を裏付けて良い、しかし注釈が少なくてさみしかった。もっともっとを希望、次作に託す。
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練りようかん
かなり前に朝井リョウ氏が激推ししていて、読みたいと思ったままになっていた。人々は彼女の何をそんなに怖れていたのかに興味を抱いた。まず約束を守らない、馬力と我儘っぷりが凄い。栗原氏の平仮名を多用し悲惨や豪快さを文字通り飛散する文体が魅力を増幅させていると思う。煽り煽られ没入、面白い。人は自分の生き方の肯定を守る為に彼女を忌避したのではないかと思った。一番驚いたのはこの時代に自己決定権を訴えていたことで、本書タイトルもひいてはそれだと気付かされ、あとがきの“私達にも普通にできること”に涙が。いやー、くらった。
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練りようかん
シリーズ9作目。タイトルの警視はジェマかと思える週末旅行の殺人事件。行き先はスコットランド、料理場面ではWalker社はすぐそこなのにショートブレッドを手作りするの?と声があがり、蒸留所もすぐそこ、ウイスキー入りのクリームを添えるのか、舞台が楽しい!とテンション上がった。いち関係者としてしか動けないジェマとロンドンに残ったキンケイドが連携し、家族はくっつくも分かれるも難しいと思えるプライベートの動きで引き込む、とりまく人々のラブビジネスファミリーどの側面もとってももどかしく、それが面白かった。次へ。
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練りようかん
地味や微妙と評される架空の県が舞台の連作集。設備投資して勢いのある市とかつて中心地だった不変が売りの市は仲が悪く、和菓子の派閥は確立していてバレないよう敵方のを買う等、肉付けの上手さがありありと舞台を浮かばせて設定が楽しかった。地図や辞書ページの遊び心もにじむ可笑しみも、“どこにでもある”の形を崩さないのがすごい、誠実な書き手だなと思った。人間として過ごす神は少し抜けていて「忸怩たる神」が特に面白かった。素朴な景色にここだけ補助金かけたね!という物体が混じるのが地方都市を如実に感じてツボだった。良かった。
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練りようかん
シリーズ第七弾。死体に施された細工は何を意味するのか。今回も発見現場に興味を引かれ、連続殺人事件になるのを前提に、実行者とは別にささやき女将的な人物がいるのではないかと想像。裏の裏ばかり考えていたら、なんと鷹野が!面白い展開だとワクワクした。如月と尾留川のコンビもこれはこれで楽しく、十一係メンバーの意外とやるんだぜシーンをもっと見たいと思えたのが収穫だった。エースと組む自分はお荷物だった、なんとか役に立ちたい。如月の思いが犯人の動機と重なるように感じたのが切なかった。手代木さん良い人だったな、次に期待。
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練りようかん
観光大国のイメージが強いタイが舞台の7短篇。訪れる側にある差別意識、迎える側の反発と受け入れの捻れた情況が描かれていて、知らなかったこと考えたことがなかったことが沢山あると気付かされた。表紙の豚は気持ち良さそうに見えたのだけど、「ガイジン」を読むとプラスαが余韻を浮かせる。表題作は失明間近の母と息子が旅に出て、いまかいまかと光を失う緊張感に引き込まれた。ラストの砂州と海もまた視線は宙で留まる。通読して尊厳と蔑みの対象が通奏低音に感じられ、上でも下でもない終幕の目線が意味深いと思った。
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練りようかん
SF、ミステリ、純文などが詰まった13編。独立しているがつながるところや重なるところがあり、勝手にあの人はあの学校にいたのか?などと考える余白が嬉しい。テクノロジーと憧れと自分だけ取り残されてるんじゃないかという寂寥感が、温かさに変わっていくのがじわっと胸にきて良かった。初出は2016年からなので既読作もあり。特に面白かったのは犯行内容がユニークな「料理魔事件」、細かなエピソードが際立って感じられた「コドモクロニクルⅠ」。表題作は虚実混交を高みにもってく筆の勢いが素晴らしく没入。「ラウル〜」楽しみだな。
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練りようかん
彼が設計した家は住む人間の心を狂わせるのか。屋敷で人が消失?同級生の殺人疑惑まで。彼を外側からしか知らぬ者は謎を深めるだけだが内側に触れた者は別次元の謎を感じ取り、その二重構造がミステリアス度を高めて良かった。彼の見る夢は秘密の暴露であり予知夢であり、明治から昭和にかけての西洋建築ラッシュの中で、彼の建物は相手の意図を万全に汲み取ったオートクチュールに思えた。天井画の内側に絵は広がり、地球=球体の外側に我々は住むという場面が印象的。建築において内と外の観点はやっぱり大切なんだと改めて思えたのが収穫だった。
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練りようかん
主人公の名前は内面の可視化を思わせて心の中は絶えず波打っている、気付かなければ何ともないのに、鋭敏ゆえの生きづらさや不幸を思った。さらに鈍感を装う術も持ち合わせ、そうせざるを得なかった生育環境に心が軋む。サワリサワリゾクリとさせる出来事と邂逅が続き、生家はもうホラー!日本橋三越でみたシールのけろっぴーと秋田のドッペルゲンガーが、音の響きが似てるのと脳内映像がクロスして強風のような興奮を覚えた。何を取り残したのか、何を回収したいのかに興味がわき没入。そこからの疾走感が凄かった。ラストもまた良い、面白かった。
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練りようかん
避けられたかもしれない死に疑問を抱く主人公。亡き彼女と出会い交流を深めた過去と、潜入捜査のような形で楽団オーディションを受ける現在で展開。芸術やクラッシック演奏に必須と言える解釈と理解がミステリーへ引き込む要素になっているのが面白い、模倣が得意な主人公と自由な気風の彼女の真逆なスタイルがとても効いていて、二人の関係性や楽団でのやり取りに緊張をもたらす。イケるんじゃないかとドキドキ、カリスマの弁の強さも闇を感じて魅力的だった。そしてステーキの例えは秀逸、文学も同じだと思った。ラストの昇華にホッとできた。
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練りようかん
タイトルきっかけ。長年パリに恋焦がれてる人、かつて猛烈にハマった人、全く関わりのなかった人など10人の女性を描く12編。どれもとても短く、トントン進む歯切れの良さと日常のキレの悪さが独特のリズムを生み出していて引き込まれた。妄想から抜け出せないのは悪いこと?心の中に在るパリは理想のパリと現実のパリとは別の、第3のポジションを獲得しているのが強烈に上手いと思った。固有名詞や小道具がまた的確にいい仕事するんだ。リモアのスーツケースのミスマッチのマッチがツボだった。特に好きなのは「雨ばっかり」と「ワコちゃん」。
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練りようかん
今作は同僚のエリンボルクが主人公。事件の根っこと主人公の私的な問題が重なり、進めると失踪した人の不在感が立ちのぼるシリーズらしさはそのままに、エーレンデュルもそっち側に行ってしまったのか第三幕を思わせる内容だった。発見された遺体状況は興味を引く出発点で、捜査が煮詰まると立ち返る点に、そして終盤の沸点にもなって上手い。殺されたと明確にカウントされるのは一人だけだが、背景にある沢山の殺された“死”、心の死を思うと胸を抉られた。アイスランドの年間殺人件数に触れた訳者あとがきも感慨深かった。次も楽しみに待つ。
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練りようかん
公園にある動物の形をした遊具。新築マンションの人も団地の人も引き付けちゃうんだ、と既に惹かれていた。懐かしさと脱力と救いの神に違いない信頼感。青山さんテッパンだよ、カバヒコ〜って叫びたいと思いながらページを捲った。全五話の二話目で“ごまかしのない自分”が共通テーマに思えて、最も感情を動かされたのは第三話「ちはるの耳」。ブライダル業界に務める主人公が身近な人の幸せを祝福できないなんてと心が苦しく、新郎さんの手紙に涙。クリーニング屋の常連客つながりの連作が最適な表現で終わる上手さにゆるゆると笑顔。最高です。
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練りようかん
暇と退屈は一括りに出来るけれど、倫理学とどうつながるのかに興味を引かれた。まず暇と退屈をきっちり分け、暇は客観的な条件で退屈は主観的な状態と書かれていて、前者は幸福で後者は不幸と置き換えられると思った。そう考えるとそれ以降がすんなり入ってきた。退屈は近代社会が生み出したものではなく、暇を生きる術を知らずに暇を与えられた人が大量発生した問題は、現代の暇つぶしという言葉が人を退屈に陥れるのと似ていると感じた。通読するとそうかもポイントが幾つもあって面白かった。没頭できることが沢山あって良かったと改めて思った。
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練りようかん
殺された妹に生前保険金殺人の疑いがかかり、独自調査に乗り出すのだがその前に姉の落ち込み方に引っ掛かかりを覚えた。妹思いとか無念とはちと違う。後半過ぎると姉の昏い喜びにきたきたーという感じで、終盤にかけて皆接点を持つ動機が明かされると既読の前二作が蘇り、くわがきワールドに全身浸かってるよと楽しくなった。二転三転する展開と、それ以上についてこれるかと言わんばかりの登場人物のヤバい部分が物語に疾走感を持たせて良い。面白いけれど幕引きが難しいのではと少し心配したのだが膝打ちの爽快。伏線回収巧いなぁ。次も期待だ。
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練りようかん
視覚情報の乏しい時代、薫りに敏感であれば人生の恩恵を受けられその反対も。逃げられた空蝉と逃げられなかった浮舟を思い恐ろしく感じると同時に、登場人物が嗅覚能力の有無で運命を分けたという読み方が面白かった。他の文学作品と比較した用法やイメージの醸成は勉強になり、「移り香」は殆どが男性で女性からの描写があまりないのは今更気付いて興味深い。匂宮の智と鋭の特異性が以前に増して感じられ、事典編で薫りと匂ひの違いを立ちこめると色・威光にまとめると、不義の子と光源氏の血筋と成る程くっきりして『源氏物語』の深みに嘆息した。
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練りようかん
三作目。映画撮影に招待された三つ子。教授もくっついて行くことになり、予見通り事件は起こる。面白いのはクリスティや横溝、綾辻氏などを思い浮かべる小ネタが満載で笑えるのと、ミステリ&映画愛の強さを実感したこと。クローズドサークルでどえらいものが消失するのだが、トリックは何となく予測がつく。それでも真相に次ぐ真相にああ~となる楽しさは薄れず、伝説の幸せになれる角の“幸せ”はそこに繋がるんかと二重の意味で深かった。一番のツボは軽々しく解いていいのかと立ち止まること。ティーン向けの意義を感じる大事な心構えだ。
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練りようかん
禍々しさが光る七編。見るな見るな、でも見てしまう魔の疼きが表紙の漢字をよく見て意識がぴたっと止まった感じと見事に重なった。一編読んで表紙を見てまた一編進んでを繰り返した。鈴木成一デザイン室流石です。痩せた女性が好みの主人公が豊満の魅力に憑かれた「柔らかなところに帰る」は、笑いの怖さと命の還りを思わせて良かった。人の髪の毛を飲めるか、「髪禍」は宗教儀式や小道具の気持ち悪さが際立っていた。そして最も面白かったのは「耳もぐり」。他の人生を疑似体験できるのが読書の良いところ。似て非なる彼の主張が気づきになった。
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練りようかん
八つの連作。木山が意識する人生の折り返し地点。寂しさ悲しみ、命が消えゆくこと。陽が闌けて人家の屋根と自然が一つの連なりに、単色に見えるという描写が沁み入った。強い言葉は使っていないのだけど重量があり、まるで水を含んだ葉の繁る枝のよう。木山のフィルターを通して見る世界はくすんでいて、それでいて透明感を思わせる文体。小旅行や都内での出来事は思いがけないことに溢れ、実体の実態と現実感の浮遊に人生は幻の日の連続だとふと思った。音に視線を導かれ、上から下に移動、その底に現れる漠を受け容れる流れがとても素敵だった。
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練りようかん
目が覚めると隣に知らぬ男が寝てる。違和感だらけの中、自分の手から長い年月の欠落を察せられるのが理に適って且つ恐怖を煽り面白いと感じた。我が身に起こったらと主人公に気持ちが乗る導入部だ。特殊な記憶障害の状況を知る第一部は「きょう」というタイトルで、手掛かりになる日誌が第二部、第三部は再び「きょう」。二つのきょうが様変わりする予感と興奮でページを捲らせる、三部構成とタイトル付けが上手いと思った。男に対し献身の感謝と捏造の怒りに挟まれながらの展開、真実の過去は誰にとって不都合なのかが読みどころで良かった。
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練りようかん
幼い頃からある時突然左目の視力を二日間失う主人公。十年前に何かあったらしい、けれど暫くわからぬまま物語は進む。半分しか見えてない、考えるだけで見ていないなど比喩表現の責めが脳に堆積する感覚で、悲運と業を重ねながら人物の動きを追ってしまう。また、周りは知っていて、主人公が知ろうとしてるという単純な図式じゃないのもゾクゾクさせて、仕掛けの効果を強く感じながら引き込まれた。印象に残ったのは自由意志と因果律の組み合わせ。そして既読作品の中でダメ男選手権やったらかなり上位の御人だった。まだまだ上はいそうなのが怖い。
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練りようかん
遠く離れた場所で死体となって発見された女性を近所で見た覚えが。不確か確か、早い段階で混乱に陥いる展開だった。同じマンションの人との会話で浮かび上がるテーマは明確で、矛盾するけど実際生活には合理的である振る舞いや心理抵抗に頷けた。連続事件だと結びつける証拠が興味深く、杜撰とスマートな印象のズレが気になる。面白いのは刑事の妻で、一挙手一投足に意識は集中。未解決事件の犯人とのつながりがそうだったのか!という嬉しい裏切られ方で、社会の弱さを皮肉に考じたり、一番肝心なことは隠されたままなのが織守らしくて良かった。
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練りようかん
一匹の犬が南へ進む間に出会った人々を描く七つの短篇集。痩せ細り汚れていて思わず手を差し伸べたくなる犬の立ち姿。介抱する人がほっとけないのは、自分も抜き差しならぬ情況にあるからだとわかってくる。助ける側が助けられるというわかりやすさと、言葉を持たぬもののわからなさが心を動かす推進力に。自立独立、人生のケリをつける意思固めが勇ましく感じられて良かった。東日本の震災から熊本へ。事前情報を知らぬままページを開いたが、奇しくも今日は三月十一日。読書には時々こういう事が起こる。
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練りようかん
三部作の前日譚。マーダーミステリーゲームに招待された主人公。孤島の屋敷かわ舞台で約百年前の設定のため情報は主が用意した手がかりのみ。ネットやSNSなしで主人公らしい探求をどう描くのかに注目、割り振られた役が犯人か知らずに嘘をつかねばならぬ状況にドキドキワクワク。キャロットケーキから紐解く?クラシカルな匂いと趣向が良い、推理に気持ちが乗っていくのが手に取るようにわかり、そこに危うさは感じられなかった。しかしえっと驚く答えのズレ、終盤の展開は三部作既読だから感じることがあり、著者の計算が上手いな思った。
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練りようかん
人に譲れないつまらない拘りは意外と根強い。他者から見ればそれがあの人をあの人たらしめてるのだろうなと思う、おかしみに溢れた40篇。夫婦の不可侵領域は互いのやっちまった過去の今。1篇目の「2LDK」から心を掴まれた。曲げないよねーという褒めか貶しか分からん、喉のここにある異物感がわかる!の嵐。特に面白かったのは、仕事が忙しかった休日に非効率非生産に走った過去が蘇った「甘納豆ラプソディ」、“なにこの職場、中学校?”に吹き出した「タクシードライバー」はオチも最高だった。名作もじりのタイトルも楽しかった。
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練りようかん
実業団選手が事故に遭い、加害者が殺されるミステリーの部分は入り口で、メインは中途障害者の環境の再設定に思えた。デスクワークで集中力が長時間継続できない場面が興味深い、暗喩や象徴など色々考えさせられ巧みなシーン作りだ。パラ転向で進化する技術にかかる費用は大きく、容疑者視も強くなりそれが社会に理解されない生き方と重なった。ひたむきさは讃えられることが多いけれど、そう書かないのが中山氏らしい。元々犬養と御子柴の初対峙が目当て。終盤の“贖罪”は単作とシリーズ両者にハマる言葉で、筋が通ってるなと唸った。
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練りようかん
表紙のホットケーキがうんまそうで思わず手に取った。タイトルの縦書きといい、名久井さん素敵。食べ物を吐いていた中学生の主人公が出会った女性と蜂蜜。甘いものは心を癒す、そして粘膜を守る効能が偶然と必然のマリアージュを思わせて上手い。30才の転機はどん底に近いのだが気分はウキウキ。だって養蜂家だし!とミッションをどう転化させるのかに期待した。蜂雲は羽音が聞こえるよう、採りたての蜜はあたたかく、心が広がるシーンが沢山。モヤッとゾワっと縮む言動も多いのだけど。三吉さん好きだな、展開的にも重要人物だった。面白かった。
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第四弾。芝居好きのおたみと一緒に人気の演目を観にきたお美羽。目の前でこけら落としの桟敷席が崩れ、手抜き工事かスポンサーの金絡みか、まさか怨恨?と原因が次々浮かんだ。現場に居た。これが何の権限もない娘に応じてもらう魔法のような言葉になり、はじめの設定が効いてるなとしみじみ。また、材木の発注詐欺や贔屓筋の形勢などそれらしい疑いがくるくると移り変わるのが面白い、どれもアリだなと思ってるうちに終盤までとダレることがなかった。回り舞台。ああそれか!と合点がいった締めくくりが良い、ほのぼのした気持ちで終えられた。
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練りようかん
よるべない恋をした、している人々を描いた12篇。行った食べた言ったなど言葉はストレートなのに、そこに流れている感情が押したり引いたりする複雑さが匂う。この二人の二人でない時間を想像して、刹那の幸福がじわっと胸に迫るのが味わい深かった。あいしてると言われてむつむつと蛸を噛む彼女の飲み込んだ言葉は何?、“一緒にいたいね、いつも”の倒置法のすごさよ。何度も本を閉じて目を瞑った。川の水はそこにあるだけのよう見えて流れてる、人生の中の恋もそうなのかなと思った。特に好きなのは「どうにもこうにも」と「天上大風」。
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練りようかん
牛頭人身の怪物が現れ、中途半端な弱さで対応に困る世界の現状が描かれる。主人公は若くして市長の座に就いた女性で、優秀すぎる秘書の以前支えていた議員が実は主人公に地位を与えたのかなど要らん想像を逞しくしていた。しかし事態は急変、怪物の出現をコントロールする手段に問題の焦点は移り仮説と実験が繰り広げられる。面白いのは神話と建築学の絡み。素人のお絵描きみたいのがちゃんとした進化図になったり、迷宮の作用は脳に刺激が走る感じで楽しい、博士の長広舌もぐいぐい読ませる力があった。いい意味で角川っぽいなという印象を抱いた。
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練りようかん
テーマ競作死様きっかけ。危篤になり延命措置の傍らで母から渡された原稿用紙。自伝か創作かわからぬままなのが興味を引いた。どちらか判別つかぬのは、主人公が父をよく知らず父も語らない族だったから。軍隊の日々や戦争の重荷に対し主人公は自然と自分の来し方と重ね合わせるのが、物語への没入感を高めた。似た者親子じゃん、主人公も子供がいて父親の部分とそうじゃない人間の部分の両者でそう思わせるのが上手い。分量は少ないけれど起伏がしっかりと感じられる良作だった。父の短歌、あったかもしれないもう一つの違う人生が、胸を打つ。
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練りようかん
タイトルきっかけ。あとからシリーズ二作目と知った。一作目の事件と濃く絡んでいるのだけど書かれている情報で補いながら読み進めた。ネット上で誰かが元夫を亡き者にする動きが。シンママ主人公と同居人が殺害の依頼人と請負人を探し出すため奮闘。二人が行動を共にする時子供の預け先をどうするか。候補にあがる人物が実は絡んでるのかと思うと、もう一組のシスターフッドが見えてきてこちらの現状は胸が痛い。マフィアと交渉、警察の人間とのラブライン、イラストのテイストも含め『ワニ町シリーズ』を想起。テンポとキレの良さが印象に残った。
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練りようかん
ただの御伽噺ではない物語の本当の相貌を見る手助けをしますという本書。弘徽殿女御は悪い人間か、葵上は感情を解さない人間か、明石の入道は脂ぎったオッサンか痩せた老人かなど、主人公フィルターを外してみることで人物理解を深める内容だ。葵上を不幸が約束されてる登場人物とばさっと書かれてるのが面白い、感情を持ってるからこそ冷淡な態度をとったと解釈すると定型のラベリングが可哀想に思えた。また緩急自在の筆運びを絶賛する林氏自身の文章から熱意が強く感じられたのも印象的。より多くの人に読まれるといいなと改めて思った。
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練りようかん
お久しぶりの第三弾。ワトソンの幻婚、そんな謎あったなと懐かしい。ジョーの記憶欠落の解明と相談者の依頼に乗っかってマッチングキャンプに潜入。実際にありそうと思える真の活動目的への肉迫が楽しい、間をつなぐ起業家のエピソードも興味深く、シャーリーの言葉がいちいち切なくていそいそとページを捲った。男女逆転のパスティーシュだが、話題の人物はどちらの性でも通ることがある男性を惹きつける設定で、センス・オブ・ジェンダー賞がちらりと過ったり。英国と世界の関係等今回は高殿作品感が強かった印象、面白かった。
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練りようかん
七篇収録。今回は主に進化について考えたり感じたりすることが多く、アイデンティティは置き去りにされたそれという問題意識が残る印象だった。特に面白かったのはトラックでも船でもなく空港を必要としない「長距離貨物輸送飛行船」。空気力学、シン・シティ、太平洋横断。頭の中の世界地図は二次元で、空想世界が透明のガラス箱のように乗っかるイメージ。文章を目で追うだけでも高揚感を味わえた一篇だった。そして引き込まれ反転の衝撃からなかなか抜け出せなかった「シミュラクラ」も好い。あとで星雲賞海外短篇賞受賞と知り大納得だった。
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練りようかん
フェルトのぷくぷくっとした立体感がかわいいカバーイラストに惹かれた童話見立て殺人。腹に石を詰められた死体。未解決の類似事件との関係は?キャラ立ちしてる警部補のおさばきに期待した。連続事件に発展し、ミッシングリンクを考えると実行犯とは別に司令塔がいる気がして、被害者の関わっていた特殊詐欺のバイアスかと悩ませて面白い。また名古屋の土地描写や『青髭』、人物の動物呼びからアレが出てくる童話あったっけ?と記憶の引き出しを開け閉めするのも楽しかった。『ヘンゼルとグレーテル』の意味は完全にやられた。良かった。
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練りようかん
10短篇。品があって繊細で、描かれる人も感情も頭にひそやかなと付けたいような動き方。静かな調べに身を任せていると瞬間的に沸騰するような意識の目覚めがある読み心地。本タイトルの蜜が密に重なって見えたけれど、だんだん山じゃなくて虫の方がフィットしてると思い、日本語の漢字までぴたりとはまってしまう物語と世界観に著者が何かを超越した能力の持ち主に感じた。訳者の古屋さんはどう感じられたのだろう。特に面白かったのは3篇。設定の引きに加え「初心」と「お城4号」の水と死から渡す生、表題作の生命と自律が興味深かった。
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練りようかん
二十年前の迷宮入り事件を金田一に話す磯川警部。識別のつかない死体、娘四人親の仇と同じクラスで引っ掛かるのも当然。おまけに金田一自身も騙されたのかと疑心暗鬼になるのが面白くて、相関図がややこしい!と喘ぎながらも進む。犯人当ては放置、有名な推理作品だが気持ちはドキュメンタリーで、村人に対する疑問が大きくなるばかり。同一人物説は予測がつき、終盤金田一が主張した血縁関係の根拠も頷ける。するとなぜ気づかないに戻るのだ。県境のため警察が本腰を入れず、惨劇の根底には差別待遇があった。節穴の目にリアルを感じて上手い怖い。
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練りようかん
ネタバレ主人公に送られてきた昭和前期の家計簿。これをつけた人は自分の何に当たるのか。魅力的な導入で引き込まれた。そこに沢山の謎があり謎をとく鍵がある、家計簿をパンドラの箱のように思わせるのが上手い、ミステリアスで一貫した緊張感がとても良かった。戦中の食糧事情に加え生活全般が記され、現代の主人公の状況や気持ちとリンクするのもニクイ仕掛け。女性支援のNPO代表、経理の女性、駆け込む元女優、私達に足りないものは何だろう。問いの答えは出てるけど端的に表せずもどかしかった。それが最後の一行で回収される爽快さよ!面白かった。
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練りようかん
5つの短編集。違和感の正体に興味を引かれ、人物の裏の顔や関係の秘匿などを想像して楽しんだ。展開はある程度読めるためドキドキ感はないけれど、後味の悪さは思ったよりも強く其の手の趣向が好みなのでそれに救われた感があった。家庭教師斡旋のバイトである家を訪問する「惨者面談」とマッチングアプリで見つけた娘に似た女性と実際に会う「ヤリモク」は、どちらも短編らしいスピード感と読み手に与える緊張の詰め方がいいなと思った。また、リモート飲み会が緊急事態に発展する「三角奸計」はコロナミステリの教科書といえる作品だなと思った。
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練りようかん
吹奏楽部の再結成話が持ち上がり、コントラバス担当の主人公視点で四半世紀前の回想と人員集めに動く今が綴られる。登場人物の「じつはほとんど吹けない」「おしゃれすぎておしゃれに見えない」という紹介文で一笑い。大所帯の個人的交錯、パート間の距離感や合宿の思い出が良い、亡き友の追想がじわりじわりと何とも言えぬ感情をわかせた。特に面白かったのは楽器投げ事件。美しさと衝撃が同居する落下描写に魅了され、マウスピースだけの日々に救いの手が、笠井さーん!と半泣き。“今”の彼の行動はわかるよー。たっぷり浸った青春組曲だった。
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練りようかん
失恋旅行で出会った女性は強烈な個性を持つ顔をしていた。舞台はエジプト、女性は第18王朝の美女の再来のような生き方だが、本家の入り組み方が凄くてまずそこに心奪われた。姦通のお誘いを受ける主人公が心配、日本の再現も予感させるのだよ。するとピラミッドの中の殺人事件に巻き込まれ、犯人と死体が消えるという予想外のおまけに盛り上がった。ピラミッドの断面図や執事が犯人パターンを想起する容疑者など推理のわくわくと、お祭りの喧騒に紛れ急転する事態に心臓が早鐘を打つ。その土地を見事に活用したストーリーと場面作りで面白かった。
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練りようかん
『美しい本屋さんの間取り』が楽しかったのでエクスナレッジつながり。内部の俯瞰イラストが安定の良さ、設計と仕掛けに加え開店までの準備にどれだけの人が関わってるかがわかり、有線放送屋さんどこから聞きつけるのか等謎のままな部分もまた楽しい。お茶屋バーのカウンター挟んで椅子と畳で向き合うのも面白く、各所の寸法を異なるジャンルで見比べられると個性の住み分けができ、客とスタッフのスペース配分はかなり興味深かった。印象に残ったのは「カフェー」のつくりが贅沢であることとトイレの今後考察だ。小便器個室が一番合理的だと思う。
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練りようかん
シリーズ第五弾。取引交渉役の依頼を断ったから孫娘が攫われた、そんなむちゃくちゃな展開ある?と前のめりになった。現場で人が殺され終わりの始まりを思わせる事の運び。何が起こっているのか矢能だけが場数の勘で読み解けるのがすごい。栞ちゃん何鍋作るのか、美容師さんのいい立ち位置と、四ツ谷のおばあちゃんの助け合いも胸にくる。最も面白かったのは監禁脱出場面、構造理解とあてがう道具探しの臨場感が楽しく、単行本と文庫の表紙もだからかと納得。真実の隠蔽より真実以外が伝わるのを防ぐ方が難しい。確かに。学ばさせていただきました。
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練りようかん
東京の世田谷から北海道の村に移住した女性主人公。村人がなぜ?と好奇心を抱くのも致し方ない。だが開墾も同じだったのではないかと主人公が考えるのが面白く、遠慮・戸惑い・畏れ、そして物語が内包する寄る方のなさが気になって引き込まれていった。情景描写や人を招く交流場面から感じる静かで穏やかな世界が音の無い荒ぶりを見せる、前半と後半の様変わりが大地の自然を思わせて深い。フランシスが運ぶ上流の電気が上質な音の鳴りに、六角形のゴンドラが雪の結晶に。有形と無形の残るものと消えゆくもののコントラストが素敵で残酷で良かった。
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練りようかん
拾い猫をきっかけに誰かに言いたかった話を打ち明ける画家の女性。重すぎる秘密を抱えていたのかなと想像させる導入部だ。過去の物語がスタートすると面影を重ねた猫の目の色が違うことに気付く。心がさわさわ言い始め、猫は亡き母に娘に、形代のような役割を果たす抽象と少女が麦畑の畦道で猫と遊ぶ絵のような美しい光景が、掛け替えのないものの喪失を思わせ心はもうざわざわに発展していた。予兆を煽る文句以上に事後の方が慄く描写が巧みだ。9才と20才の女と子どもの部分がうねる心理の綾に没入した。小池作品の中でかなり好きな一作。
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練りようかん
12短篇。滞留する空気を常に意識しながら、包まれるでもなく座視ともちょっと違う、何だろうこの感じと思いながら読み進めると、表題作で主人公が抱える空白に出会い、輪郭がない、まさにそれだとハッとした。空襲の強烈な体験、少年から老年まで肌身で感じる肉親の死、何度も交わる女。繰り返される描写やモチーフが幻想小説を思わせた。文章を理解できてないのに文脈に呑み込まれる勢いが古井的世界だなと痛感。“踏切りを渡る時、人は失踪してるのかもしれない”という言葉が非常に印象的。つゆ知らず暮らしてる。踏切りが淵に見えてきた。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2018/02/26(2281日経過)
記録初日
2018/03/01(2278日経過)
読んだ本
4526冊(1日平均1.99冊)
読んだページ
1475096ページ(1日平均647ページ)
感想・レビュー
3772件(投稿率83.3%)
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