形式:単行本
出版社:KADOKAWA
形式:Kindle版
サールの中国語の部屋の話題にも一瞬触れられはするものの、哲学的要素はほぼ皆無と言ってよく、主人公=俺のおっさん的な主観をフィルターとして美少女アイドルの生態の意外性を楽しむべきラノベだろう。主人公の脳裏で矢継ぎ早に繰り出されるおっさん・リーマン的視点からの言葉には、ルノアールだの五反田だの各階案内表示が空欄になっている雑居ビルだのと言った、東京近辺に馴染みがないと伝わりにくいネタも多数散りばめられているので、そのすべてを拾い上げることのできる層は限られているかもしれない。
惜しむらくは、せっかく哲学ナビゲーターを自称する著者なのだから、もうちょっと設定を哲学的な観点から詰めてほしかった。頭の中だけは別人に入れ替わるという設定は哲学的な思考実験の定番だろうが、はたして本当にそれで心身二元論的な設定が厳格に維持されるのか。歌やダンスを覚えている美少女の身体におっさんの心が注入された場合、その主観的経験も変容を被らざるを得ないのではないか。「われ能う」(メルロ=ポンティ)を意識の原初的経験として捉えた場合、美少女転生したおっさんの意識は、もはやおっさん的意識ではなくなるのでは。
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サールの中国語の部屋の話題にも一瞬触れられはするものの、哲学的要素はほぼ皆無と言ってよく、主人公=俺のおっさん的な主観をフィルターとして美少女アイドルの生態の意外性を楽しむべきラノベだろう。主人公の脳裏で矢継ぎ早に繰り出されるおっさん・リーマン的視点からの言葉には、ルノアールだの五反田だの各階案内表示が空欄になっている雑居ビルだのと言った、東京近辺に馴染みがないと伝わりにくいネタも多数散りばめられているので、そのすべてを拾い上げることのできる層は限られているかもしれない。
惜しむらくは、せっかく哲学ナビゲーターを自称する著者なのだから、もうちょっと設定を哲学的な観点から詰めてほしかった。頭の中だけは別人に入れ替わるという設定は哲学的な思考実験の定番だろうが、はたして本当にそれで心身二元論的な設定が厳格に維持されるのか。歌やダンスを覚えている美少女の身体におっさんの心が注入された場合、その主観的経験も変容を被らざるを得ないのではないか。「われ能う」(メルロ=ポンティ)を意識の原初的経験として捉えた場合、美少女転生したおっさんの意識は、もはやおっさん的意識ではなくなるのでは。