陽炎 (ハルキ文庫―東京湾臨海署安積班 >> 村雨が行った。「速水さん、安積係長をデカチョウと呼ぶのはどうかと思いますよ。安積係長はもう、部長刑事じゃない」
速水は、にやにやと笑った「須田はチョウさんと呼んでいる。どういうわけだ?」村雨が「須田は特別です。須田が刑事になったとき、最初に組んだのが部長刑事だった係長でした」「それなら、俺だってデカチョウが巡査の頃から知っている。初任科が同期なんだ」村雨は何も言わない。速水が相変わらずにやにやしたまま「わかったよ、村雨。おおまえさんの気に障るなら今後は改めようじゃないか。敬意を表してハンチョウ殿とお呼びしようか?それならいいだろう?」
『陽炎』は、ベイエリア分署復活後の2作目で安積と部下達や速水らを丁寧に描いた短編集。安積班シリーズを読み始めるのなら、この作品からが良いかもしれない。と思う作品だ。そして、この短編集の最後には表題作『陽炎』という心暖まる作品が据えられている。この作品が刊行された2003年がどんな年だったかは忘れてしまったが、今野さんは、若者達にとって夢や希望が持てない社会になってしまっている。と感じていたのだろう。自暴自棄になってしまいそうな若者に、懸命に職務を全うしようとする安積警部補の姿はどのように映ったのだろうか?
安積班シリーズを7作読んで来たが、この『陽炎』が一番好きだ!今野敏さんが、いわゆる刑事モノと言われているカテゴリーの文法に捉われず、書きたい物語を表現しているような気がする。お互いに信頼し合っている仲間達の間で交わされる気の利いた台詞が心地よく、自分もこんな人間関係の職場で働きたいとすら思ってしまった。安積班と速水の活躍を見ていると現場で懸命に働く警察官の皆さんに感謝したくなる。
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