日本経済史の権威、中村隆英・東大名誉教授は、日本近代史にも豊かな知識をもつ研究者でした。『昭和史Ⅰ』のなかに、民政党の井上準之助がおこなった金解禁政策について、以下のような記述があります。満州事変が勃発した直後、イギリスは金解禁制度を廃止していたのです。
若槻首相は動揺していたのである。しかし、井上蔵相はあくまで金本位制度の維持を企図し、ドル買い筋に対抗する方針をとった。井上は横浜正金銀行に命じて、需要のままにドル買いに売り応じさせる一方、日本銀行の公定歩合を二厘ずつ二度引き上げさせ、金融を逼迫させて、ドル買い筋を資金面で圧迫し、ドルの買い戻しを求めさせようとした。(中略)金利の引き上げは、不景気をいっそうはなはだしくした。しかし井上は、民政党内内閣のもとにおいて金本位を持続することに自己の政治生命を賭けていたかのように思われる。
井上準之助は、昭和恐慌のさなかに公定歩合を二度にわたって上げさせたのです。自分のプライドを守るため、国民の犠牲などお構いなしといった調子だったのです。
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