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楽書帳

トピック

Mμ
2021/01/11 11:36

まず、右目を描いた。
目は小さく、眉毛は長く。切れ目を強調する。
「よしっ、次は左目」
均等に描くために、意識を集中させる。
もう片方の目を描く方が難しい。
少し長く描き過ぎた眉毛を消して、調整したものの納得のいく出来栄えだ。
瞳にペンを入れ、透明感のある眼に仕上げる。

集中力が切れうたた寝をして目を覚ますと、紙の上の瞳がこっちを見ていた。
瞬きをし、興味深そうにこちらを伺っている。
驚いたものの、怖くはなかった。
ヒゲを描き入れ、耳を描き足す。
片方だけ少し垂れ気味にした。
気に入ったのか、反抗なのか“ぴこぴこ”と耳を動かす。
「可愛い」
ノッてきた。

鼻は丸く。
その下の上唇溝はキュートに。
少し楕円形の丸を左右非対象に描き込んでいく。
口を描くと、「にゃー」と鳴いた。
カスを取り除く柔らかい刷毛で触ると、くすぐったそうに目を細める。

「可愛く描こう」
改めて誓う。
この子は美人さんに仕上げるんだ。

身体には在り来たりだが虎模様にした。
左脇腹付近に模様に見せかけて、ハートにした。
小さな小さなハート。
ますます親しみが湧いてくる。

尻尾は先端を少し丸く。
くるっとカーブしているのがいい。
「にゃー」とまた鳴く。
そうかそうか。

しばらく尻尾やヒゲにいたずらをして反応を楽しんだ。
描いた以上の感情に満ちた表情、くねるしなやかな身体、ふりふりと動く尻尾。
どの仕草も私の心を捉えて離さない。

おもちゃを描いた。
丸いボール。
必死になって追いかけて、上に乗っては態勢を崩し、こける。
猫じゃらしは噛み付いてボロボロにする。
どうやら活発な性格らしい。

耳元で目覚まし時計が鳴って目が覚めた。
紙の中には、丸い猫の糞が落ちていた。
姿はない。
「にゃー」と外で猫の鳴き声が聞こえる。
また会えるだろうか。

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