形式:単行本(ソフトカバー)
出版社:岩波書店
むろん昭和天皇の戦争責任を解き明かす事だけが、本書の関心事ではない。副題にある「『憲法・安保体制』にいたる道」を語る戦後史である。著者豊下氏が岩波新書で出した『安保条約の成立』や福永文夫著の中公新書『日本占領史』より、テーマが絞られていて、遥かに明晰だ。外交・政治に関心も広げる「豊下史学」なるものの入門書として、新書で出すべきではなかったか。もちろん装丁の出来は荘重でいいのだけど、定価が2400円(+税)というのは、まあ、おじちゃんおじいちゃん世代に妥当、というべき?
そうまでして守ろうとした天皇制が、まさか共産主義ではなく、男子が産まれない、ということで系統が途絶えようとしているなんて、なんという皮肉だろうか。。。
沖縄は米軍管理ではなく、国連の信託管理という手法もあったことを踏まえると、当時の選択肢の可能性と問題点は検証しなければいけない問題ですね。未だに禍根があるわけだし。沖縄は中国やソ連に占領されるよりは米軍の方がましという冷徹な判断があったんだろうけれど。
天皇退位問題。東京裁判前に退位すると訴追される可能性があった。また、退位しても皇太子が若いため摂政をつけなければいけないが、そうすると弟の高松宮となるものの高松宮は軍との関係も強く、当初開戦派であったのに途中で反戦派に翻って戦後はそれを主張していたわけで、昭和天皇の責任に厳しく論争してるわけで、昭和天皇としては絶対辞められなかった。
天皇のブラックな側面。東条が自殺を図ったとき、生死の確認に行っている。これは、死んでいたら責任を負うべき最高責任者がいなくなるわけで、自分に責任が及ぶのではないかと気が気ではなかったのでは。もちろん、東京裁判の判決をきいて、天皇は泣き腫らしてるわけで、彼らを思う気持ちはあるだろう。だけれど、天皇制を自分の代で終わらすことは許されない、その一念で様々な矛盾を呑み込んで、生き残るための戦術をとっている。
第Ⅰ部昭和天皇の〈第一の危機〉ー天皇制の廃止と戦犯訴追、第Ⅱ部昭和天皇の〈第二の危機〉ー共産主義の脅威、第Ⅲ部〈憲法・安保体制〉のゆくえー戦後日本の岐路に立って
2015年刊行のこの本は、安倍政権の歴史認識や安保関連法案への危機意識が強いわけだが、第二部までの綿密な議論に対して、第三部はやや拙速な面もあり残念。批判は冷静に。第二部までの結果を踏まえれば、もっと効果的に批判ができるだろう。こんな批判は一国民としては気が引けるが、安倍ちゃんや日本会議らに伝わる言葉として語るには「昭和天皇はそのような認識ではない」とどや顔で言ってやればよいと思うの(笑)。それが一番ショックなんじゃないでしょうか。
読書メモは http://tu-ta.at.webry.info/201512/article_2.html
@「自主憲法」「独立憲法」と占領期の遺産としての植民地的な日米地位協定が併存するというこの歪なナショナリズムはどこから来るのだろうか。おそらくは、日米関係を「騎士と馬の関係」として捉え、「立派な馬」に成り切らんとするところに「自主性」を見出そうとする。(中略)「占領時代の基本的な仕組み」そのものである日米地位協定の撤廃や抜本改正を提起することなく、「自主憲法」の制定で日本の「独立」を果たすなどということは、文字通り絵に描いた餅と言う以外にない。
@昭和天皇にあっては、沖縄の主権の問題や「沖縄の安全」よりも、日本本土の防衛に主眼があったと見るべきであろう。
右派は東京裁判を「勝者の裁判」と批判する。ところでヴェルサイユ条約227条は、カイザー(ドイツ皇帝)訴追条項を規定していたのだが、日本はこれに署名したため「勝者の裁判」で裁判官としてドイツ皇帝を裁いていた可能性があったと言う。ドイツ皇帝は亡命したため「勝者の裁判」は開かれなかった。しかし「勝者の裁判」の裁判席に日本が名を連ねていたのは事実であり、戦争に勝利した場合は「勝者の裁判」に与しながら、敗北した場合はそれを非難するのか、という問いかけの答えが用意されていなければならない、という筆者の主張に納得がいく
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