形式:単行本
出版社:国書刊行会
多くの作家が創作意欲を刺激される妖怪「件(くだん)」でさえも、百閒にかかれば、どこか滑稽さが滲み出る(とはいえ、その結末は、様々な暗示に満ちている)。豊島与志雄は未読の作家だったが、女性がとても魅力的に描かれている。しかし、どこか空虚な存在であり(だからこそ魅惑的なのだろうが)、堀切直人の解説によれば、戦争体験により、何かが崩壊したあとの空虚さの中からこそ、新しいものに立ち向かえる構えが生まれるといった考えが、豊島にはあったらしい。なるほど。創作論のようにも読める「猫性」が印象的。(つづく)
ラストの島尾敏雄は『死の棘』があまりに有名だが、幻想味のある小説をこんなにも書いていたのかという驚きがある。けれど、どの小説も島尾の心理と直結しているように読めてしまう。「むかで」の中には、こんな一文がある。「むかでの足の一本一本が、意志のあるもののように(或いはこれでぼくは審かれているのか)動き出してぼくのからだに這い上がって来たことは、むしろ祝福すべきことではないか。」島尾にとって幻想とは、外部にあるのではなく、あくまで内部にあると言うことか。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます