イギリス人の哲学者(現在は米国在住)による、歌詞の分析を中心にしたボウイ論。とりあげられる歌詞は断片的で、主に80年頃までと90年代以降の作品(105曲)に限定されている。自分語りは控えめながら、熱心なファンであることが伝わってくる真摯で誠実な文章。Heroesの一節「We are nothing and nothing can help us.」を「わたしたちは無(ナシング)であり、無(ナシング)がわたしたちを救える〔何ものもわたしたちを救えない〕のである」と訳す訳者田中純さんの力技もなかなかに刺激的。
彼が常にDavid Jonesではなく、David Bowieであったこと、そしてファン達がそれがファンタジーであることを知りながらも(というか不断に変わり続ける仮面のせいで知覚せざるを得なかったと言った方が正しいのだろうが)愛したことに理由があるのではないかと思った。ボウイを知るのにあまりにも”too late”であった我が身を呪いながら、遅すぎたからこそ、これから私にとってのブラックスターが永遠に失われることはないことに正直少しほっとしている自分がいる。彼の死に立ち会ってしまった本書の
著者を筆頭に全てのボウイファンの先輩方に頭が上がらない。