形式:文庫
出版社:東京創元社
形式:Kindle版
くせになる鈍痛のように見過ごせない(「トーランド家の長老」はちょっと皮肉がききすぎていたかな)。②の中では、狂気と紙一重の、あるいは、狂気の方に大きくぶれているにもかかわらず、ニューヨークという近代的な都会のより大きな狂気に紛れている主人公の妄想を扱った「虎」が印象に残った(内田百閒の「虎」を思い出した)。「小さな幽霊」は『英国怪談珠玉集』にもおさめられていたので、途中で既視感を覚えつつ読んだ。
が、前半で語り手が友人を亡くしたことと、その亡くなった友人とは関係のない家で語り手が何百年も前の子どもの幽霊に心を慰められる後半とは、つながっているようでつながっていなくて、かえってそれがとても現実的で、奇妙な怪談だと感じた。③は「ターンヘルム」と「奇術師」の二編だけだが、どちらも孤絶した人間が変身する者に最も接近する。孤絶した人間は孤独というものの危険性をも十分に知っており、それが変身の危険性にも通じるからではないだろうか。
覚書4)「雪」落語「三年目」の先妻幽霊ならまだ愛嬌もあるが、亭主も先妻の肩を持つんだもの、私ならもう離婚離婚!「小さな幽霊」親友の死から立ち直ろうと滞在した家は野蛮人のような子供らが割拠する戦場のような場所だった。そこにひっそりと震える小さな存在が…「ターンヘルム」両親の留守に独身の伯父二人に預けられた僕。その一人はどう見ても好きになれないし、家の中で恐ろしい目に…茴香の臭い。「奇術師」変わり者の少年が得た友情。心温まるお話。
「ルビー色のグラス」「雪」「小さな幽霊」に出てきたポルチェスターと言う町は、どうやら作者の創造らしい。「黒僧正の墓」が気になる。「ターンヘルム」「奇術師」「海辺の不気味な出来事」にも出てくるシースケールなど、コーンウォールの風景描写も緻密で、行ったことないけど行った気にさせてくれる。あと、匂いの描写ね。
ぜひ〜
『デルフィーヌ…』、同意です〜
…というよりそんなスキャンダラスな二人に例えられる美青年がまともなわけがないのである(笑)。要するにろくでなし。新訳「奇術師」は風変わりな老人と友情を育む暖かいクリスマスストーリー。児童文学も書いていたというから、なかなか振り幅が大きい作家だ。
それにしてもこの短編集に出てくる男のほとんどが独身か男やもめで(主要登場人物だけならまだしも召し使いや執事まで!)、夫婦は一部の例外を除いて関係が最悪とは…。しかし「中国の馬」の家や本、美術品に愛着を抱くあまりプロポーズを断る独身女性、他人事とは思えない(苦笑)。だが互いに愛情と尊敬を抱けないうえ興味の対象が違う夫婦関係はいずれ破綻する。プロポーズを断ったのは賢明だろう。
まろやかな毒、などと書いたが結局、奇妙な味ってことなんだろう。ただ、その味に気付いても呑み込んだ後では手遅れという事だ。やれやれ。
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