形式:単行本
出版社:二見書房
徴兵不合格で仕事もほとんどしておらず、経済的な困窮や親族間の複雑な関係、狭いコミュニティでの疎外など、「引きこもり」から「無敵の人」への要素がある。石川氏がこの事件をライフワークとしたのもその辺りが理由の一つかもと想像した。
タイトルのインパクトが素晴らしい。語呂が良い。先行調査の不備の追求、いまだに残る謎の提示、事件報告書の解説…「最終報告書」の名に相応しい。
対して本書は、長らく行方がわからなくなっていた「津山事件報告書」(事件の翌年に司法省検察局がまとめたもの)を探し出し、詳細に調べ、かつ現地にも赴き、かろうじて存命だった事件関係者にも会っていたりと、説得力がある。また、長期ひきこもりの取材と支援を長年行っていた著者らしく、睦雄のメンタリティーをそのような視点から読み解こうとしている。ともあれ、それでも謎はいくつか残る。それを無理やり自らの推理に結び付けるのではなく、わからないと正直に書いているのも、本書の好感となっている。
これに関しては、これまでの著書があくまでも調査結果を第三者的に綴っていたことに対して。自身の都井睦雄像を語り始めたようにおもったんだよね。だからこそ、と忸怩たる思いも渦を巻いたな。やれやれ。複数犯説というより、協力者がいたかもしれないという件は納得してしまう。そして、そこには廃藩置県や一揆というその土地に纏わる歴史と、そこから生まれた村社会の閉塞感が横たわるんだろうことを、種明かしのように織り込んでいるんだよね。
僕は常々、読み物としては筑波本、記録、調査結果なら石川本だと思っていたけれど。ここまで、彼を描き始めたのならば、或いは次の一冊こそ何もかも石川清作品が占めていったのではないか。そんな、しても仕方のない期待と、その行き先が永遠にないことが、寂しいし悲しくなるんだよね。やれやれ。
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