形式:単行本
出版社:作品社
今日ではイーロン・マスクが火星への移住計画を掲げ、ジェフ・ベゾスは宇宙でのコロニー建設を探る。宇宙への欲望を多面的に描いた一冊。アーサー・クラークに一章を割くのに、それ以外のSFを論じないことには物足りなさを感じる。しかし宇宙思想史の本格的な研究はこれからなのだろう。宇宙開発競争が熾烈になった現在だからこそ、宇宙は人類の共有地であるとの訴えが光っている。
そしてその思想は当然、ロシアの宇宙開発から多大な影響を受けているであろう、中国の宇宙開発にも如実に表れているだろう。「三体」では異なる宇宙文明がお互いを認知したときにあるのは殲滅戦であり、宇宙は「黒暗森林」であるということが徹底されたが、それはまさに、現在の宇宙開発が、根底の思想を変えない限り、避けられない結末だということだ。しかし本書でも引用されているが、そのような拡張的な宇宙開発を行い、指数関数的に地球文明を増やした場合、わずか5世紀で食いつぶすという。それじゃあ、その先は? (つづく)
誰が言ったのかは忘れたが、「例えば自動車が発明される前に、渋滞の発生を予想するのがSF」だそうで、ぼくもその通りと思うけど、SFに影響を受けたイーロン・マスクは、ひたすら自動運転の車を増やして、さらに最短ルートの都市間トンネルを無数に掘りまくればその問題はないのだと、「渋滞」の予想を頑なに拒む。そして自分の押し付ける未来のビジョンによって起きる予想外の破綻すら、思想の隅から押しのける。それでいいのか?オルタナティブな宇宙開発は存在しないのか? ぼくはそのオルタナティブを、想像できるのか?
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