形式:単行本
出版社:平凡社
興味深かったのは刈部直のエッセイ。尾辻克彦(赤瀬川原平)の指摘の引用は非常に説得力がある。尾辻は批判的であったようだが、安部公房の初期作品の「ナンセンスの力」から「『生きた言葉の表現』から離れ、その代わりに『思想と表現をつなぐ回路を意識してしつらえる、『文学の力』がこめられるようになってしまった」(243頁)という指摘だ。「文学の力」の力とはおそらくねじ伏せる暴力性ではないだろうか。安部公房のロジカルで暴力的なイメージを感じていたが、一方、彼の作品は晩年にまた初期に戻るようなナンセンスな世界に入っていく。
たくさんの写真が掲載されているが、手紙は生々しい。この時代の人はいろんな人とのつながりがあったことを強く思わせる。また安部公房は総合芸術家であった。演劇・ラジオドラマなど。シンセサイザーに関心があったというのも面白い。
唯一、残念なのは編集委員の三浦雅志による27ページにも及ぶ展覧会とも安倍公房とも関係が希薄な寄稿文。全体で264ページの本書の10分の一を占める無用の文章であり、三浦の文章がなかったら、よりコンパクトなサイズになったはずであり惜しい。
文学館で開かれた公的な展覧会のカタログなので、山口果林との20年に及ぶ愛人関係や山口の自宅で倒れたことなどは一切載っていませんよね。そのあたりを知った上で読むと、人間の複雑さが改めて感じられます。
パトラッシュさん、コメントありがとうございます。たしかにそれらについては全く載ってはいなかったですね。まだ山口果林の著作を読んでいないので近々読んでみたいと思います。
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興味深かったのは刈部直のエッセイ。尾辻克彦(赤瀬川原平)の指摘の引用は非常に説得力がある。尾辻は批判的であったようだが、安部公房の初期作品の「ナンセンスの力」から「『生きた言葉の表現』から離れ、その代わりに『思想と表現をつなぐ回路を意識してしつらえる、『文学の力』がこめられるようになってしまった」(243頁)という指摘だ。「文学の力」の力とはおそらくねじ伏せる暴力性ではないだろうか。安部公房のロジカルで暴力的なイメージを感じていたが、一方、彼の作品は晩年にまた初期に戻るようなナンセンスな世界に入っていく。
たくさんの写真が掲載されているが、手紙は生々しい。この時代の人はいろんな人とのつながりがあったことを強く思わせる。また安部公房は総合芸術家であった。演劇・ラジオドラマなど。シンセサイザーに関心があったというのも面白い。