形式:文庫
出版社:講談社
各章の冒頭にヴィトゲンシュタインの論理哲学論考の文章が引用されていて、最終章の冒頭は有名な「語り得ないものについては、沈黙せねばならない」だったんだけど、このセリフは本作を端的に表していると感じた。論理空間内のものについては、作中で言及するけれど、それ以外、つまり登場人物の心情や動機については語らない、みたいな。ある意味人間味というのを極限まで排除した小説なのかな。
◎そもそも、謎だと思うこと自体が主観であり、基のデータには、客観的な謎が存在しているわけではない。多くの場合、それは単なる勘違い、すなわち、記憶間違い、あるいは見込み違いによって見かけ上生じる。 一方、謎が解消するという概念もまた、単なる思い込み、あるいは推論による納得、それとも、最適な解釈による妥協でしかない。自分の中で、なにかが歩み寄った結果だ。現実というものを相手にする場合、どんなものであれ、多かれ少なかれ、歩み寄りが必要だろう。自分が摑んだ、と思える真実とは、自分が作り上げた都合の良い真実である。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます