形式:単行本
出版社:恒文社
「このようにカピヤ、つまり天と水の間で、古い世代も新しい世代も、濁った水にさらわれたものを嘆きすぎるなよという教訓を得ていった。そこで人々はこの町の無意識の哲学を体得したのである。つまり、人生はとらえ所のない奇妙なもの、なんとなればそれは絶え間なく消耗し流れ去るから、だがそれでも人生は存続し、≪ドリナの橋のように≫確固としたものである、という哲学を」
どうでもいいのですが、最初の橋の建設のあたりで串刺しの刑の描写があったのですが、朝の通勤電車で読んでしまって一日中恐ろしい気分に……。美貌のファタが橋から飛び降りる話と、橋の上で夜中に悪魔とかけ事をする話、橋の歩哨に立っていたシュヴァーベン兵の若者が青春のために破滅する挿話が大変好き。
ビシェグラードの情景描写や橋建設時のエピソードも良かったが、悲運なイスラム教徒ややり手のホテル経営者など女性を描いた章も印象的だった。基本農業主体ののんびりした街が、独墺ハプスブルグ家支配下で近代化し、鉄道によって衰退化していく過程も興味深い。また終盤に登場する作者と同世代くらいの(その後の旧ユーゴスラビア社会を担ったであろう)若者達の会話の内容も今読むと感慨深いものがあった。
この物語は第一次世界大戦中で終わっているが、第二次世界大戦、ユーゴスラビア時代、その後の過酷な紛争があったことも知っているので、この小説の終章の先の現代に至る歴史も気になった。紛争についてはあまりに過酷すぎて、オシムやストイコビッチなどサッカーを通して+アルファ程度の情報しか持っててないが、これを読んでちゃんと向き合ってみるかと改めて思った。読んで良かった。
先日NHKのトラムの旅でベオグラードが映っていましたが、今も戦禍の跡が残ったビルがありました。何とも言えない瞬間です。 私も五輪の旧ユーゴ各国の行進を見て、行ってみたい気持ちがまた強くなりました。ドリナの橋、良さそうですね。
コメントありがとうございます!ベオグラードでもまだ戦禍の跡が残っているのですね…モスタルの橋もドリナの石橋もぜひ見てみたいです。本書を読んでいても、街の住民達は大国の都合で振り回されてきたことが朧げながら分かり、もっと正しく理解したくなりますし、、やはり行ってみたいです。
私も読みました。橋という建造物に注目することで、人間の歴史が早送りになるような手法が好みでした。エミール・クストリッツァが映画化するって噂、本当だったら見てみたいです。
確かに、早送りのような感じもあって、なのに雑さはなくて、密度が独特ですよね。一見なかなか読み進まないタイプの本に思えるのに、不思議と手が止まらなくなりました。映画化の話があるとは、この雰囲気をどう映像にするのか見てみたいですね〜。
ドイツ語訳からの重訳であるが、日本語訳は恐らく原文の美しさを失っておらず、読みやすい。作者のアンドリッチは1961年にノーベル文学賞受賞。1990年代前半のユーゴ紛争で、橋と町は再び血生臭い争いの舞台となった。1992年にはここで3千人近いヴォシュニャク(ムスリム)人が虐殺されたという。ソコルル・メフメト・パシャ橋は2007年に世界遺産に登録されている。
あれ?コメント書いたのですが消えているのを発見です。ぜひぜひ、行きましょう。ビールも美味しい季節です♪
ええ、ぜひ!またメッセージします。実は、今、腰を傷めていて、歩くのもつらいので(^_^;)
4)東欧の複雑で混沌とした歴史の、救いがなく(挿入されている背景を含めたエピソード、人物のどれにも救いがない。ロッテは狂ってしまう[p336]し、アリホジャは橋に張りつけにされたり[p131-143]、最後は店を壊されて自分も死ぬ[p349]し)陰気でじめじめとした魅力(傍からみれば)は地図をのぞきこむ老人たちが「生物学的に感じとって」[p257]いたような、現地人からにじみ出てくるものであろう。
5)それにしても、イエニチェリとして徴集される(親、母親にとっては誘拐だ)様子[p40-41]や、おそらく冤罪だが見せしめのために杭を体に(肛門から)打ち込まれる様子[p66]や、フェドゥンの自殺の様子[p191]などがみてきたかのようにリアル(ちなみに作者はこの町で育ったが)。この橋は、たとえその上の中央のカピヤが人びとが楽しくすごせる場所だったり、川の増水では、異なった信仰どうしにかかる橋であったり[p95]しても、死や不幸を招く橋のよう。
この長さと人間の生涯との関係は、流れ去る川の表面と、かたい川床の関係と同じで、川床の変化はゆっくりで、人の目にはつかないという信念を説きます。神の決定によって作られた存続していく偉大なるものの象徴としてドリナの橋が描かれています。
作者の宗教も国(ボスニア人=イスラム教、セルビア人=キリスト教)も超えた同情と理解は感動を呼びます。このドリナの橋で近年になってセルビア人(この小説では被害者)によるボスニア人の民族虐殺(ヴィシェグラードの虐殺)が起こりましたが、こうした悲劇を人類が繰り返さないためにも読みつがれていかなくてはいけない偉大な書といえます。
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