山深い建物に集められた面識のない役者たち。彼らは演出家である神内匠の合宿に参加するのだ。台本は、インターネットで知り合った若者達がオフ会で島に渡るという話だが、舞台の合宿は雪崩で、台本は迎えの船が現れず、孤立した中で殺人事件が起こるというクローズドサークルである。
合宿の様子と彼らが演じる台本を交互に描写しながら進むという特殊な構成で、頭の中がこんがらがるのを防ぐために、役者と役との関係とを栞にメモしながら読み進める。犯人と動機の双方が最後まで明かされず、画期的な試みが面白さに繋がっていないのが惜しかった。
近藤史恵さんの作品には「主人公が語る一人称小説である」という特徴がある。『サクリファイス~サヴァイブ』のチカと『天使はモップを持って』大介は、ぼく。『キアズマ』の正樹と『砂漠の悪魔』の広太は、俺。『演じられた白い夜』の麻子と『アンハッピードッグズ』の真緒は、わたし…
読者は得る情報は、すべて主人公というフィルターを通ったものになる。そこに、近藤史恵さんという作家の魅力があるのだと思う。
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