今はもうない >> S&Mシリーズもついに8巻目に突入!このままVシリーズにまで引き込まれるのか、この軌道を外れて他の世界に移れるのか、この作品にかかっている?(2016/3/17)
実は、昨晩〔実は今日の早朝(深夜)2016/3/20〕、『今はもういない』を読み終えたところだ。私はもう、森先生にあらゆる意味でノックアウトされた。笹木という名の男の軽妙な語り口(叙述)に引き込まれ、西之園嬢の無邪気で奔放な行動の描写を楽しみながら120ページまでを駆け足のように読んだ。そこからは、どの事実(フィクションだけどね)を信じてよいのか分からず翻弄され、後半で登場する(まるで加賀恭一郎のような)込山という名の刑事に、読者である自分が愚弄されているような不快感を味わわされた…
プロローグや幕間として挿入される部分を除いては、笹木の軽妙な語り口で叙述され、今までの作品とは全く異なる構成だった。読者は、いつもよりもっと大胆な西之園嬢の行動に翻弄され、決して短くない物語を最後まで読み終えた時、全く別の角度からもう一度味わう特権が与えられる。最後に登場する5歳の萌絵が放つ台詞も気が利いているが、やはり真骨頂は、当時40歳の森先生が笹木の視点を借りて描く若さに対する羨望であり、西之園嬢との出会いで変化する心情である。もちろん犀川の言葉で語る、人生のスイッチバックについても聞き逃せない。
『今はもういない』については、書きたいことがいっぱいあり過ぎて、とても255文字ではまとまらないので、感想・レビューは、この物語を既に読んだ方と一緒に余韻を楽しむつもりで書いた。S&Mシリーズは、森先生ご自身が作家として羽化していくプロセスを楽しむための成長譚であり、『今はもういない』は、40歳になってある意味、人生の先を視てしまった森先生が、スイッチバックすることへの心情を笹木さんや犀川先生に託して語ったエッセイなのだと思う。
今まで読んだ中で最も読みやすい物語でした。ミスリードを誘うための伏線すら、何度も復習していただく機会があり、返す必要が少なかったです。しかし笹木が西之園嬢が慕っているという教授を思い浮かべるシーン、諏訪野が「モエお嬢様が?」とつぶやくシーン、西之園嬢が、両親のことを話すシーンは、読み飛ばしてしまいがちですが、どんなニュアンスで話されたかをしっかり把握しておく必要がありました~
S&Mシリーズに嵌る人と推理小説としては物足らないと感じる人、萌絵が好きな人と嫌いな人、評価はいろいろありますけれども、私はこの『今はもういない』がとても気に入りました。1回目は、萌絵だと思い込んで楽しみ、読み終わった後は、睦子だという設定でもう一度楽しむことができました。これまでの物語の中では、古臭い女性だと思い込んでいた睦子が、実は萌絵以上に自由奔放で好奇心の強い女性であったという事実(フィクションですけど)を知り、親近感を感じました。続く作品が楽しみです。
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