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作り話をつぶやきました。

変わらぬものは
トピック

いつでも母さん
2017/10/18 09:20

意識が鮮明なうちに「すまなかった。ありがとう。」そう言わせたかった。
そんなこと、今更・・と内心では思うものの、一切おくびにも出さずただできる事をして、静かにその時を待った様に見えた。
七回忌の法要の席で叔母は僕に、あの時の数時間の病室の様子をぽつりぽつりと語った。
僕は母や祖母、叔母たちの思いなど知る由もないほど、幼かったのだ。
ただ、幼いながら時折母がこっそりと泣いていたのを覚えている。
僕が母の悲しむ様なことをしたのだろうか?その時はそんな風に思いながら、問いただすことも出来ず、今日まで来たのだ。
いや、聞くことで微妙に均衡を保っているものを壊したくは無かったというのが正しいかもしれない。
母と父の関係、古い嫁姑関係、鬼千匹とも言う小姑たち、僕と妹の世話、うっとうしい世間の目・・
今ならわかる。
母は耐えることで、自分の存在を確認していたのだろう。
操業ん十年の屋台骨を支えていたのは間違いなく母だ。
後ろに目があるのか?いつ寝ているのだろう?
母を思うとき、忙しいながら僕にはいつも優しかった母の姿しかない。
が、これからはどうだろう。
僕が継ぐと宣言した時から、母は母ではなく、師匠になり、今また姑になるのだ。
漠然とした畏怖、根拠のない確信、きっと僕の選んだ彼女は逃げ出すだろう。
この家はおかしい!と。
僕の家の当たり前は彼女には異星人との遭遇になるはずだ。
時代は変わってるのに、変わらない、変えないのだ。
誰も異を唱えない。
そうか、父も怖かったのだろう。
変化は母の生きた証しをガラガラと否定するのだから。
母は祖母の感謝の言葉など求めてはいない。
自分を取り囲むすべてに呪詛を込め接して来たのだろう。
息子だけは我が子だけは同じ道を行かせないと思っていたはずなのに。
どこで違ってしまったのか、そう悔やんでるに違いない。
そこまで分かりつつも、僕は、僕もまた修羅の道を進むのだ。
知らない世界は怖ろしいのだ。
僕は臆病だ。新しい道を行くより、安寧の敷かれたレールに乗るだけなのだから。
僕の妹もいつか言うだろうかー
「義姉さん、ごめんなさい」と。

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