エレベーターの最上階で降りるとそこは透きガラスに囲まれたホールになっていた。雑に植えられた芝の広場に出る。芝には砂が混じっている。目を遠くに向けると、海がゆっくりと流れていた。広い河のように、あるいは狭い湾のように海がある。静かに横たわる海。わたしは出てきたエレベーターホールを見る。ここは最上階で一階は確かにマンションのエントランスだった。また、知らない場所に来てしまった。初めてではない。マンションのエレベーターはどこかに繋がっている。海に目を戻す。対面の山並みは房総半島だと頭が理解している。広場を少し歩くとバレーボールをしている男女がいた。 スーラの「アニエールの水浴」の絵をアニメーションにしたようである。「その荷物を下ろしたらどうですか」後ろから声がした。誰もいない。わたしは荷物のことを知らなかった。背中に重みを感じる。夢違観音を背負っていた。いつからなのだろう。その後で観音を下ろしたかどうかは記憶にない。
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