私はふわふわと漂っていた。そこは青い空間だった。
水の中にいるようだった。宇宙にいるようだった。どこか別の場所にいるようだった。
――つまり、私はここがどこかわからなかった。
とにかく漂っていた。
学校に行って、つまらない授業を受けて、友達とぺちゃくちゃお喋りして……。
そんな日々の繰り返しから逸脱して、突然こんなわけのわからない場所に来てしまった。意味がわからない。
でも、どうでもいい。なにもかもがどうでもいい。こんなこと。
――なにも、考える気になれない。
ぼんやりとした、空白で虚ろで筒抜けで乾いた、そんな時間が機械的に流れてゆくだけだ。それだけ、なんだ。その延長線上にここはある。いちいち動揺する気力は私にはなかった。
ゆーつだ。
ゆーつ、ゆーつ、ゆーつ。
正確には、ゆううつ。
あれ、そういえばゆーつの漢字がわからない。こんなにも慣れ親しんだ、まるで口癖のようなこの言葉。それなのに漢字で書けないなんて。これには羞恥。
漠然と、ごちゃごちゃぐちゃぐちゃした感じの漢字だとは覚えているんだけど。漢字テストに出されてもとても答えられない。マークシート式ならいけるけど。マークシート万歳。あいらぶマークシート。結婚したい。マークシートってイケメンなのかな。もしそうなら小躍りしそう。あはは。
そういや、ここ、酸素あるのかな。
それ以前に空気あるのかな。
酸素でいっぱいいっぱいな気もするし、二酸化炭素ワールドな気もするし、真空って気もする。さっきから呼吸してる感じはないし……。どれもありえる。じゃあ、ここ死後の世界?
んな馬鹿な。
勝手に殺すな。
泳ぎの苦手な私は三途の川は渡れません。
いや、まぁ、別に死後だろうが現世だろうがいいけどね。
どっちも似たようなもの。私から見れば、生きるも死んだもニアリーイコールだし。道徳の時間にそんなこと言ったら先生に怒られそうだけど。でも、好きで生きてるわけじゃないもん。
自分勝手かもな意見だけど、素直な気持ちだし。どうしようもない。
こんな感情。こんな私。
何十年後の成長した私からそれを見たらどうなんだろう。可笑しいかな。否定の対象かな。もしそうなら、嬉しい。ちょっとだけだけど。
青い空間の上のほう、そこがいきなり炸裂した。捩れるように、歪むように。白い光を纏って。
ぐにゃりと。音もなく。静かに。ぐにゃぐにゃ。ぐにゃり。
ぼんやりと眺めた。
今頃、どこかの大統領は戦争とか環境問題とかについて真面目に議論してるのかな。なら私はここで何してるんだろうな。私って無意味だな。わはは。
なんて考えながら。
ぼんやり。ぼやぼや。ぐひゃぐひゃ。だばばばばばばば。なーなーなー。ぴょぴー。ふへ。きよっちー。らるらりるー。ううううううううううう。がぶはっ。どばぁぁぁぁぁ。ぬっ。りらなる。ぐぎゃりごー。ずへへー。どばすっ。だべるばー。うひゃうひゃ。おほほほほ。はっは。はっはっは。はっはっはっはっはっはっはっは。
亀裂が入る。光で溢れる。視界が潰れる。世界が塗り替えられる。
なんて目に悪そうな空間だ。白。白。白。無。
ゆーつ。
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