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作り話をつぶやきました。

『NO ONE KNOWS』 
トピック

リント (戊乱 凛斗)/MMM団さすらいの諜報担当兼専属上級皿洗い
2018/05/05 22:17

特に記録していないので分からないが、ここに来てからどれほどの時間が経っただろうか…?
いや、正確には来たというより、置き去りにされたようだ。
ある日自分の乗っていた飛行機が悪天候に巻き込まれ墜落し、気が付くとライフジャケットを身に着けたまま私はこの浜辺へ漂着していた。
その後何日か時間を掛けて探索したところ、どうやらここは『島』のようだが、地図にも載っていないような、いわゆる『絶海の孤島』ということらしい。
当然ながらこの島には人間の痕跡らしきものが全く無いばかりか、周囲を見渡しても船や飛行機を見かけることはこれまで一度も無かった。
普通なら絶望して半狂乱になりそうな状況だが、自分でも意外なほど私は平静を保ち続けている、いやむしろこの状況を楽しんでいると言っても良いかもしれない。
というのもこの島には飲み水となり得る良好な水源があり、食料となる動植物・魚の類も非常に豊富なのだ。
以前軍にいた経験のある私は、一通りのサバイバル技術は身につけており、この島に私と一緒に流れ着いた道具を利用して即座に火をおこし、雨風をしのげる快適な寝場所も確保した。
「それでも一人きりでは孤独に耐えられない」…と言う人もいるだろうが、実際のところ私に関してはそうでもないのだ。
元々孤児だった私は子供の頃から家族と言うべき人達の存在も無く、ほとんど一人で生きてきたのだから当然かもしれない。
テレビやラジオ、ましてやインターネットなどにも興味が無く、それらが無くとも特に苦痛には感じないし、本が読めないのは少し寂しいけれど、それだって生きる為なら我慢できる。
それよりも都会の暮らしでは味わえなかった、自然と一体となり己の力と知恵だけで逞しく生き抜く事の快感に私は夢中になった…。
だから私は、このままこの島にいようと思うのだ。
他の人は知らないが、私の場合はもといた場所に帰ったところで待っている人は誰もいないのだから…。
そしていつか何かの病気になるとか、大きな災害に遭ってこの島で命を落とす。そう、誰にも知られずに… 考えてみれば、きっとそれが私の運命なのだろう…
私は一人微笑むと、夕食の支度に取り掛かった。今日の献立は先程森で仕留めたイノシシの肉がメインディッシュで、デザートは種類は知らないがとても甘いフルーツの実だ…

「…いかがですか、教授?」
「…ううむ、これは非常に珍しいタイプの被検体だね、興味深い…」
「かれこれ3年にもなりますが、彼がこの島を脱出しようとしたことは一度も有りません」
「な、なんと!それは事実かね!? いやこれは益々興味深い。 大袈裟かもしれんが、彼のような人間こそが未知の惑星でも我々人類の種を存続させ得る存在なのかもしれんな…」
「それで教授、如何しましょう…そろそろ救助隊を派遣しますか?」
「いや、必要ないだろう。 今日でこの施設も閉鎖になり、我々のモニターリングも終了だ。これで彼は完全に『文明社会の誰にも知られていない存在』になるわけだが、彼にとってそれは取るに足らない事なんじゃないかな?」
「…そうでしょうか、誰にも知られずに生きるなんて、私にはとても耐えられませんが…」
「まぁ、彼は特別だよ、こういう人間もいると言う事さ」
「…分かりました、それではモニターカメラの電源を落とします…」
                              <カチッ>

END

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