だって、気づいた時にはもうこんなだったのよぉ。
何でも出来たの。小さな世界だったからね。
努力や苦労なんて言葉があるのは知ってたけれど、私には「なに、それ。」だったの。
もう少し広い世界の中でも特に困りはしなかったのよ。
本当だって。
そりゃあ、肩を並べる人もいたわ。
ふーん。そう思ったくらい。
又、少し大きな世界でも私は私だったの。
たまには泣いたり叫んだりもしたわ。
叶わない事があるってわかったのはその頃かな。
上には上があるって気付いたのもその頃ね。
それでも然したる問題もなく、恋われるままに紙切れ一枚で元の名前もおさらばしたのよ。
その方が楽だったから。
内なる声なんてなかったわ。燃える想いなんかなかったけれど、これでいいって。
私が親になるなんて不思議な気持ちだったわよ。
孕んで産んだ子は我が子だけれど、私とは別の生命体だわね。
子どもの成長は嬉しかったわ。
こうして人は育って学んで大人になるんだって、自分も親を生きることを学んだのね。
んーん、でも、何処かまるで他人事のようでもあったわ。
え?周りの親の視線なんて気にならなかったわよ。
どうして?だって他人は他人であって私じゃないもの。
子供は1人だけ。
ふふ、夫も一人よ。
夫はどう思っていたかなんて知らないわ。
夫には夫の顔があるのでしょ。
いいのよ、それで。
なんとなく生きてきた?
そうかしら。
いつからか私の中にもほんの少しの『誇り』みたいなのがあるのに気付いたの。
コツンと響く時があるのよ。
不思議よね。そんなこと感じたことなどなかったのに。
尊厳?そんなたいそうなことじゃないわ。
人のことはわからないわ。
私の、私だけのことだもの。
いいんじゃない、それで。
そのまま終わりまで持って行くのよ。
先に逝った親の足跡をなぞるような今かしらね。
それきり彼女は黙った。
それきり彼女はいなくなった。
私の前から姿を消した。
声高に叫ぶのではなく、ささやくように、風で揺れるカーテンに今、気付いたような・・
その存在すら幻のかのように、いたひと。
そんな人を誰か知りませんか。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます