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村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」読解
トピック

ブルーツ・リー
2019/04/27 22:39

【注意】村田沙耶香さんが性的な描写も含んだ作品を書かれるために、私も表現は工夫しますが、しかし性的な事柄も読解として、扱わざるを得ません。
性的な表現を読みたくない方は、これ以上読まず、スルーしていただいた方がいいと思います。
(ただし、純文学とは、人間のあらゆる感情全てを扱うものである性質上、人間に性的な事象が含まれる限り、どうしても性的な事柄も扱わないと、人間を語った事にはならず、純文学作品として、成立しません。そういう意味に置いて、表現は気を付けますが、どうしても性的なないようも含まれる事については、純文学の特性を踏まえ、ご容赦いただければと思います)

以下読解です。
しろいろの街、とは、何でしょうか。
この作品の主人公、結佳にとっては、「子供時代」であったか。
結佳は、内向的で、常に自分の内側ばかりを見ている少女。
「観察という脆い鎧で身を守る」しかできない女の子だ。
しろいろの街、清潔だけれど、完璧に設計され、出口が無い街。
しろいろの街が嫌いで、夜の暗闇の中、書道教室(墨汁は真っ黒だ)に通っている。

結佳には「伊吹」という同級生が居る。
伊吹は、内面的な部分しか見ない結佳とは対照的に、人間や、学校集団の表面的な部分しか見ない。
言わば、綺麗な、しろいろの街にあって、パステルカラーばかり見ている少年だ。

どちらも、完全な存在ではない。
完成された人間ではない、という意味で、ふたりとも、子供時代を生きている。

完全ではない、どこかを欠いた存在たちが、清潔に、守られた世界で関わる中で、変化が生まれる。

結佳はスクールカーストに置いて、下から2番目の「大人しい子」のグループにおり、伊吹は、「上の方のグループ」に存在する。内側のどろどろした面ばかり見る結佳に対して、伊吹は、表面的に、楽しくやっている事ばかり重視し、内面のどろどろした関係を、見ようともしない。

伊吹にとっては、世界は、「自分から楽しんでいる奴」と、「何もしない奴」のふたつしかなく、
結佳にとっては、世界は「見下す奴」と「見下される奴」しか居ない。

しかし、ある日、大きな変化が訪れる。
結佳の小学校時代の友達で、今はスクールカーストで、下になってしまっている「信子」が、「見下される」立場でありながらも「自ら動く」事によって、解決を図ろうとする。
「地位」を壊しにかかるのだ。
信子は、何度「上」の存在に馬鹿にされても、立ち向かっていく。

その姿を見た結佳は信子の事を「美しい」と感じるのだ。

世界に変化が訪れる。夜の闇の中で、伊吹を脅迫してはキスするような関係から解き放たれ、昼のしろいろの世界で、昼の光を浴びて、それでもただ観察するだけの状態から、他者に触れる関係を求め始める。

内面だけではない、他者とぶつかるという事は、痛みもある。恐怖もある。
それでも、結佳は、スクールカーストの上の存在にぶつかっていく。
当然馬鹿にされる。それでも、身を守る鎧の外に出た時、結佳の世界は、変わる。
馬鹿にされようが、上履きを投げつけられようが、それでも、他者とぶつかる事は、美しいのだ。

伊吹との関係も、夜中に強引なキスを迫るだけの関係から、変わる。
日中の、光を浴びながら、伊吹と結佳は、肌を重ねる。
結佳は、音楽みたいだ、という。
性は、汚いものじゃない。
スクールカーストの「上」がやるみたいな、人を貶める事で自尊心を愛撫するような行為は、汚らしい、オナニーとも呼ぶべき存在。
結佳は、しろいろの街の、光の中に生まれ変わった時、性は、美しいものだと気づく。
それは、自分の中から湧き上がる、演奏のような。

伊吹と結ばれる。
互いに欠けている所があるふたりがひとつになって、それは美しい、音楽を奏でる。
世界に触れる事は、世界に波紋を広げる、音楽みたいな行為。
伊吹の中に、結佳の音楽が、流れ込んで行く。
それは、街を作って行く、工事の音みたいに。

結佳は、世界に触れる事を覚えた。しろいろの街の、光の中を歩く事を覚えた。
人と関わる事は波紋で、人と交わる事は、音楽みたいだ。
内側にだけ向かっていた世界は、外側に開かれる。

何年も、開通しなかった「開かずのトンネル」は、結佳が大人になった事を象徴するみたいに、開通する。
春、始業式。
大人になった結佳は、はじめて、大嫌いなしろいろの街の外に向かい、開通したトンネルの外に、少しもスピードを緩めることなく、走り出す。
結佳の大人としての人生が、始まった。
ずっと蕾だった桜の花びらが、まるで結佳の未来を祝福するみたいに、そっと、舞う。

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