読書メーター KADOKAWA Group

小説置き場...(´ฅω•ฅ`)チラッ

コミュニティの詳細

〖小説記録用コミュニティ〗

私(杏仁)が書いた小説を載せておくコミュニティです。
基本的に短編が多めです(笑)

【小説一覧】
1.『かくれんぼ』(短編)
2.『私と僕』(短編)

*小説の閲覧・このコミュニティへの参加 は自由ですが、メインへのコメントはお控えください。

*アドバイスや感想は、トピック『アドバイス・感想』にお願い致します。
 (褒めて伸びるタイプなので、悪い点のみならず良い点も言っていただけると泣いて喜びます...笑)

トピック一覧

トピック(掲示板)はまだありません

自由にトピック(掲示板)をたててみよう!

コメント
2

データの取得中にエラーが発生しました

このコミュニティに関するコメントはありません

.
新着

『私と僕』(短編)



 昔から私は、みんなと何かが違った。
 私が好きなものを言うだけで気持ち悪がられた。

 お父さんもお母さんも、私のことが嫌いだった。
 でも、お姉ちゃんだけは私の味方でいてくれた。
 よくお洋服を貸してくれたり、可愛いメイクをしてくれた。

 ある日、私が借りたお洋服を着て出掛けようとしたら、お母さんに怒られた。
「貴方が着るのはこれじゃない」
 って。

 なんでなんだろう。あの時の私にはまだ分からなかったんだ。



 ずいぶん時間が経った。
 時間が経つにつれ、僕とみんなの壁が高くなっていった。
 僕はみんなと同じ場所にいたかったから、“同じ”になった。

 “同じ”になって何年か経ったある日、友達に言われた。
「あんたが好きなのって、それじゃないでしょ」
 そう言って、僕が買おうとしていた黒い服を指した。
 ……驚いた。

 なんで分かったのって聞いたら、彼はふっと笑った。
「分かるよ。俺も人とは少し違う人間だから」

 男の子にしては少しふっくらとして華奢な顔と身体。
 そして悲しそうに笑う綺麗な目。
 そこに全てが語られていた。

「あんたが本当に好きなものを好きって言ったら良いんじゃない」
 僕をからかっているのか、それとも真剣に言ってくれているのか。
 分からないけれど、彼は真っ直ぐに僕を見つめていた。

「僕も可愛い服着て良いのかな」
「誰が何を好きだろうと、人の勝手だ」
「お母さんになんて言われるか……」
「言わせておけば良いんだ。親に俺たちの人生を決める権利なんて無い」
「急に変わってしまったら、みんなに嫌われちゃうかも」
「じゃあ、休みの日だけ本当のあんたになればいい」

「私は、私でいて良いのかな」
「良いんだよ」

 お姉ちゃん以外にも私の味方がいてくれた。
 その事実に私は泣きそうになった。
 でも、彼の前で泣くのはちょっぴり恥ずかしくて、必死に堪えた。

 そうか。私は私でいて良いんだ。
 好きなものを好きって言って良いんだ。

「ありがとう」

 そう一言だけ言うと、なぜか彼は顔を赤く染めた。

.
新着

『かくれんぼ』(短編)



「俺、作家になりたい」

 静かな部屋の中。
 突然、親友のシアカがそんなことを言った。
「お前、小説とか書けんのか?  知ってんだぞ、お前が国語のテストで0点とったの」
「あれはもう昔の話だろ。俺は本気だぜ?」
 怒ってみせるかのように頬をぷくっと膨らませ、腕を組む姿を見て思わず笑ってしまう。少し声が大きかったことに気付いて、すぐに黙る。
「あぶない。見つかるところだった」
「かくれんぼの最中だってこと忘れんなよ」

 20も後半に差し掛かろうとしている大の大人がかくれんぼだなんて、馬鹿げた話だと思うだろう。当然いつもならやらないが、今回は別だ。やらなければいけないのだ。
「……まぁ、良いんじゃねぇの? お前の好きなように生きればいい。俺がとやかく言うようなことじゃない」
「ありがとな」
 そこで会話は終了し、沈黙に入る。音を立てないようにコーヒーカップを持ち上げて、すっかり冷めきったコーヒーを口に含む。
 一方シアカは、何やらノートに文字を書いている。きっと、絵本やら小説やらのネタを書いているのだろう。
「……もし本ができたら、一番に俺に見せろよ」
 シアカはほんの少しだけ、表情を暗くした。
「うん。でも、本を出すのは難しいだろうけどね」
「そんな弱音を吐いてたら、作家になんかなれねぇよ。前向いてこうぜ。今はこんなだけど、俺たちが日の光を浴びて外を歩ける未来もそう遠くねぇと思うぞ?」
「……そうだね。鬼には、見つかりたくないなぁ」
 苦笑いでそういうシアカの肩は、少し震えていた。

 俺は、シアカが作家になるのは大賛成だ。さっきはあんなことを言ったが、本当はシアカが小さい頃に描いた絵本を今でも大切に持っている。
 だが、状況が難しいのだ。外に出ることはもちろん、大声で話すことすら出来ない。なんせ“かくれんぼ”をしているのだから。

 ……ガシャンッ!
 突然、玄関から何かが壊される音が聞こえた。
「くっせぇな。埃で鼻がムズムズする」
 そう声を発した者と目が合う。
「まさかこんなところに隠れてるとはねぇ……」
 入ってきた二人の男たちは、二人とも深い緑色のコートを羽織っている。鬼だ。
「我々はナチス兵だ。お前らがユダヤ人だということはもう調べがついている。今から、ヒトラーの命令によりお前らを収容する」
 ……あぁ、かくれんぼの終わりだ。
 “鬼”に見つかったのならば、もう逃げられない。

 一九四三年。この戦争で命を落とした者の中に俺たちが入るのも、時間の問題だろう。