ベルリンから季節の便りが届いた。支局の女性スタッフが近況とともに「ハルキ・ムラカミを見て、とてもうれしかった」と知らせてくれた。作家は独紙の文学賞を受賞。先月、壁崩壊から25年の地で「世界には民族、宗教、不寛容といった壁」が残ると講演していた。
彼女は日本文学が好きで、大学でも村上春樹を研究していた。親しみを込めて「村上さん」と呼ぶ。そんなファンが世界中にいる作家の長編に、「羊をめぐる冒険」がある。主人公は背中に星形の紋がある1匹の羊を追跡する。羊は人間の中に入り込む不思議な力を持っている。その行方をめぐって、物語は展開してゆく。
この羊は、何かの比喩なのだろう。来年の干支(えと)は、よく例えに使われる。キリスト教では、人間を「迷える羊(ストレイ・シープ)」に見立てた。牧畜が盛んな地域では大切な生活の糧だ。いなくなると困る。村落の存亡にもかかわる。むかしの中国では逃げた羊を見失って嘆く「亡羊の嘆」といった成語も生まれている。
日経新聞 春秋 2014/12/30より
新聞でも春樹さんを楽しんでいます。
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