おれのことか?ーおれは、何もかもうしなった読書家くずれだ。うしなうことのできるものは、もう命しか、のこっていない。…惡い読書というのが、名前だ。以前をいえば、関西でも指折りの、こわもてのする読書家だった。だが、おれの女房は尻軽で、おれの親友は恥知らずだった。ふたりが、いっしょにいちゃついているのを見つけたとき、おれは万創の飛び出す絵本で、ふたりを驚かせようとした。けれど、だれかが巡査をよんだ。おれは持兇器暴行罪で告訴され、図書館の貸出許可証を取り上げられた。…いまは、大阪の裏町☓☓で暮らしている。だが、この裏町でさえ、人は本を読みたがる。この裏町でさえ、人はおれのところへ借りに来る。その人々には、図書貸出証など、問題ではないのだろう。おれは、いまでも読書家なのだ。関西でも指折りの、こわもてのする読書家なのだ。
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