野村ヤクルトがイチロー選手がいたオリックスと対戦した1995年の日本シリーズで、アソボウズ(現データスタジアム)は ヤクルト の依頼を受けイチローの打撃データを徹底的に分析し、ヤクルトのスコアラーがこれに情報を加えて野村監督に報告しました。 「正確な情報、的確な分析力、単純化したプレゼンテーションでイチロー攻略法を確立させた野村ヤクルトは、このシリーズでイチローを5試合19打数5安打1本塁打2打点0盗塁、打率 .263 と封じ込め、4勝1敗で快勝した」
この本によると、打撃、走塁、守備、投球の総合指標であり打者も投手も同じ基準で評価できるWARはMLBで選手評価の最重要な指標になっていて「早打ちの安打製造機だった」イチローのような選手はWARの数値があまり高くならないため相対的に評価は低くなっているそうです。 「WARはその選手が代替可能な控え選手に比べてどれだけ勝利数を増やすかという指標でありWARの指標に単位をつけるとすれば「勝」ということになる」 イチロー氏のような選手がWARがあまり高くならないということは、野村克也さんのイチロー論と合致します。
この回は次のような文で終わっています。「1年目は「つくる」をテーマにしている。人づくり、チームづくり……。何事も段階を踏まなければ頂点には座れない。そう肝に銘じて、一体感を作り出しながら戦っていく。」
楽天の監督1年目、開幕から8試合で1勝7敗だった時点での野村克也監督の「まだつぼみの硬い仙台の桜のように、花開くまでもう少し時間がほしい」という言葉… 2009年、花開きかけた時の解任発表にどうしても疑問を感じてしまいます。
野村さんの現役の引退試合はありませんでした。引退セレモニーが行われたファンの集いの紅白戦で野村さんは左中間を真っ二つに破り、わざと外野がモタつく間に3塁も回りプロ初のランニングホームラン。ジャンプしながらホームインし、通算658号?とスポーツニュースや新聞で小さく報じられたそうです。
先日亡くなった読売新聞の渡邊恒雄氏は、2012年にマリナーズが日本で開幕戦を行った時の歓迎レセプションで「イチロー君の哲学、美学、心理学、経営学、政治学。すべて理論的なことをイチロー君に教えられたよ。巨人の監督になってくれって頼んだんだ。」と述べたそうです。引退会見で「貫いたこと」を聞かれ「野球を愛したことです」と答えたイチロー氏が監督になってご自分の哲学や美学などを野球で具現化して示すことは、野村さんがいうように「世のため人のため」ではないでしょうか。
また、「つまらない野球が嫌なので、フォアボールを選ぶことは自分に合わない。ゲームに勝つにはそういうことも必要だと思いますけど」 「自分が打てなくてもチームが勝ってうれしいなんてありえない。そういうことを言うのはアマチュアでしょう」 というイチロー選手の発言も問題視しています。続く
そのようなイチロー選手の姿勢も、2009年のWBCをきっかけに変化してきたと野村さんは語ります。そして、この本が書かれた2017年、44歳でメジャーリーグで現役を続けるイチロー選手の活躍に「大いなる勇気や希望や誇り」を得ている人たちは多く、イチロー選手は日本人の「希望の光」なので、通算最多安打記録を伸ばしていってほしいと述べて、この本は終わっています。
この本で何度も示されるのは、野村さんがスコアラーたちにこんなデータが欲しいと要望し、データを分析し、簡潔な言葉に言語化して選手に示す能力の高さです。当時、野村さんが解任されたのは年齢が原因という報道がありましたが、この本を読んで、私は野村さんの能力には問題はなかったと確信しました。続く
この本の最後は、最後の試合で、敵地であるにもかかわらず、敗れたにもかかわらず、両軍の選手たちに胴上げされたことが嬉しかったと語っておられて、あまり三木谷氏たちを恨む感じはありません。そして、「最後に、これまで私を支えていただいたすべての人に感謝の気持ちを表して、ペンを措くことにしたい。五五年間、ありがとうございました。」という文で終わっています。野球へのこれ以上ない「愛」としか呼べないものを見せてくださり、本当にありがとうございました。
そして「私は、人生と文学において、渡辺一夫の弟子です。」と述べて、自分が渡辺一夫氏からどのような影響を受けたかを語ります。大江さんは、ノーベル賞受賞は自分ひとりの達成ではなく、渡辺一夫氏の達成でもあると言っているのではないでしょう。
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