読書メーター KADOKAWA Group

2024年10月の読書メーターまとめ

月音
読んだ本
8
読んだページ
2280ページ
感想・レビュー
8
ナイス
100ナイス

2024年10月に読んだ本
8

2024年10月にナイスが最も多かった感想・レビュー

月音
「これは──/カステーラのように/明るい夜だ」(明るい夜)を久々に読み返したくなり、ふと目に留まった静かなたたずまいの本書に自然に手が伸びた。尾形のそっけないくらいに短く、飾り気のない詩に、松本竣介の無心に鉛筆を走らせたかのようなスケッチがとてもよく似合う。郊外へ、社会の周縁へとはずれた者の孤独や憂愁。だが、少女の美しさに見入り、服の袖につかまる子の重みを受けとめ、妻が自分を、自分が妻を大切に思うことを確信する、父として夫としてのまなざしが彼の暗く長い夜のような人生に夜明けをもたらしている。⇒続
月音
2024/10/01 12:18

⇒カステーラのような明るさは、こうしたささやかなものから生まれてくるのだろう。最後の我が子への文章は、ずしんと胸に響く。血縁のしがらみに縛られず、親の犠牲にならず、一人で人生を歩めと。男が女に、女が男に性別が変えられるなら変えてもよい、それが可能な世になったら私は嬉しい、と。現代でも親の立場でなかなか言えないことを戦前に言っている人がいたなんて!

が「ナイス!」と言っています。

2024年10月の感想・レビュー一覧
8

月音
先に読んだ吉井勇の歌集に『野ざらし紀行』などの名がみえ、急に再読したくなった。冒頭から荒天で富士山が見えなかったと詠んでいるのに感嘆する。古来より富士の名歌は数あれど、「見えなくて面白い」とは斬新。須磨といえば秋なのに、夏の月を詠むのも同じく。他方、吉野の桜で一句のところ古人の名歌を思い出して口をつぐむばかり…、でも実はちゃんと詠んでたと。あえて定番を外すか、虚構で演出効果を上げるか。私的な旅の記録に見えて読者を想定しているのは、俳句とは別にではなく俳句を含めた総合的な新しい表現を探っていたのだろうか。
が「ナイス!」と言っています。
月音
鴨川の水面に紅燈の光が揺れ、路地からは糸竹の音が流れくる祇園の夜のさざめきをつややかに歌った吉井勇。その歌風から並び立つ与謝野晶子は自らの思いを率直に誇りかに歌い、勇はしめやかに抑制されたものを感じる。つれない女性への恨み、嘆きや、酒への陶酔を歌って自堕落に流れず品格を保っているのは生来の気質からか、華族としての矜持からか。中期は作風・テーマの変化に乏しいが、晩年の閑居のころは枯淡の味わいが出て初期とは違う良さがある。⇒続
月音
2024/10/26 12:24

⇒酔びとよかなしき聲に何うたふ酔ふべき身をば歎けとうたふ/しめやかに降りつもりたる雪となりて君が心は一夜(ひとよ)のこりぬ/かにかくに祇園は恋し寝(ぬ)るときも枕の下を水のながるる/島原の角屋(すみや)の塵はなつかしや元禄の塵享保の塵/はかな言(ごと)云ふ舞姫の手にありて蛍の光いよよ青しも/つつましく障子に貼れば月魄(つきしろ)のほのけさを持つ紙あかりかな

が「ナイス!」と言っています。
月音
少女雑誌の連載物で、夢二の愛らしい少女の挿画がふんだんに入っていたのは嬉しい驚き。生い立ちの語りはじめに、通学の着物が古着のおさがりであるのが嫌だったという思い出からやがて判るように、晶子の衣装や身の回り品に対する愛着、色彩への鋭い感覚は並々ならぬものがある。それで思い出すのは、森茉莉が『貧乏サヴァラン』の冒頭で幼い頃に晶子から極上の和紙に刷られた美しい千代紙をもらったと記していることだ。子供服はドイツで仕立てていたという鴎外鍾愛の娘の美意識を、彼女は甘くもほろ苦い感傷を抱いて見つめていたのだろうか。⇒続
月音
2024/10/22 09:34

⇒情熱の歌人とうたわれた人だが、意外にも遊びに行った先の家にも上がれぬほど内気だったとか。そのせいで級友たちにからかわれ、ゆすりを受けもし、かと思えば、みんなに嘘の生い立ちを話す大胆な面もある(この話、あちこち嘘の皮がはがれていて吹き出してしまう)。後半は思い出の中の少女たちについてと、故郷を思う歌百首。彼女が好印象を持った少女たちは、平塚らいてうのように旧弊な社会と戦うタイプではなく慎ましい野の花の風情だが、荒き風にも折れない強さを秘めていると思われる。

が「ナイス!」と言っています。
月音
読んでいて、次の歌に「あれ?」となった。「めえめえ子やぎ/森の中へかけてった/そしたら石につまずいて/あんよをぶっつけた/そこで子やぎはめえ!となく」──これって、日本の童謡『めえめえこやぎ』だ!調べてみると、日本のはドイツ文学者の方の作詞。…つまり、丸写ししちゃったみたい。夫の雄鶏を亡くした妻が他の動物たちと葬式をするが泥沼にはまって死に、夫は鶏頭(けいとう)、狐は狐尾草(えのころぐさ)、虎は虎杖(いたどり)にと、墓標ならぬ草ぼうぼうに。⇒続
月音
2024/10/19 15:06

⇒誰もいなくなった野原の寂寞は、マザーグース『誰がコマドリ殺したの?』のラスト、空に消えてゆく鳥たちのため息まじりのすすり泣きに通じるものがある。ドイツというお国柄か口承に特有の猥雑さ、ナンセンス、毒気は少なく、ちょっとひねったり理屈っぽかったりのオチがつくのはショートストーリーを読むようで楽しい。しかし、やはり民間から採集された初版グリム童話の残酷な描写から考えて、編纂時点での取捨選択とブラッシュアップもありえそうだ。

が「ナイス!」と言っています。
月音
幼い日に『オツベルと象』を読んで以来、今日までイーハトーヴの野や森、生命のきらめきはどれほど喜びと慰めをもたらしてくれただろう。今回、賢治が深く帰依した法華経の現代訳と併読してみて、自然とあの場面、この言葉と二つが重なっていくようだった。『「正徧知(しょうへんち)はあしたの朝の七時ごろヒームキャの河をおわたりになってこの町に入らっしゃるさうだ。」斯う云ふ語(ことば)がすきとほった風といっしょにハームキャの城の家々にしみわたりました。』(『四又の百合』より)⇒続
月音
2024/10/15 12:23

⇒なんて美しく、喜びの予感に満ちた物語の始まりだろう。もとより透明である風を清め、さらに透き通らせたのは正徧知(すべてを正しく知る者の意)の存在だと思う。おきなぐさも、土神も、雁の童子も、虔十も、おのずから善きものへと歩む──仏となる種があり、歩む道はそれぞれ違っても究極には同じところに至ると彼ら自身が身をもって語っている。ただそれは、無心に眠る幼子を見守る両親が語るように、愛する者への「何だかちょっとかなしいやう」な思いの果てにある光なのだ。

が「ナイス!」と言っています。
月音
法華経と聞いて思い浮かぶのは、私の場合、宮澤賢治、平安朝の物語・日記類にある“法華八講”、“龍女成仏(女人往生)”、“薪こる”の言葉。大角氏の訳書は二冊目で、上記の用語解説をはじめ、歴史文化面の解説が充実しているので分かりやすい。特に本書では、宮澤賢治の信仰について幾度か言及され、新たな気持ちで作品に向かいたくなった。経典に触れてみてなにより驚いたのは、「法華経という素晴らしい経典がある」と述べながら、その中身は一切明かされないことだった。…思わず二度見、どころじゃない。⇒続
月音
2024/10/12 12:31

⇒あまりに深い真理なので常人には受け入れきれず、かえって悟りの妨げになるからだそう。真理は言葉で説明して、頭で理解するのものではないということだろうか。女人往生を説く『提婆達多品』は、八歳の少女が悟りに達したのが信じられない智積菩薩とシャーリプトラに、少女がはきはきと答えるのがかわいらしい。法華経は女性でも救われると説くが、このやりとりのように菩薩であっても女性への偏見(蔑み)を見せる。自らの煩悩以外にも女性が戦う対象は多そうだ。

が「ナイス!」と言っています。
月音
本を閉じてホッと息をついた。どこか見知らない、でもとても懐かしい土地を旅してきたような、子供に戻って絵の中の子たちと遊んでいたような、そんな満ち足りた気分だった。団地や商店が並ぶ町の子も、田舎の子と同じくのんびりしている。それは画家の心そのものであり、戦後のまだ日本人が日本の未来に夢と希望を抱いていた頃の空気が映し出されてもいるのだろう。どの絵が好きかとても選べないが、花摘みに夢中になっている女の子たちの後ろでヤギが鞄からはみ出したプリントを食べている『おいしい宿題』と、⇒続
月音
2024/10/08 16:09

⇒人形の服をミシンで縫おうとして糸がくちゃくちゃになっちゃった(あるある)『失敗』に笑い、夜に赤い電燈が照らす病院へ入ってゆく女性と体が半分透けた狐を男の子が目撃する『赤い電燈』は、子供の心に潜む薄闇の部分を感じてヒヤリとした。画家が描く子供の世界が美しく無邪気なだけだったら、きっと絵の中まで入ってはゆけなかった。明るい昼、暗い夜、そのふたつのあわいの世界も描かれてはじめて鑑賞者はそこに「あの日の私」を見つけることができるのだ。

が「ナイス!」と言っています。
月音
「これは──/カステーラのように/明るい夜だ」(明るい夜)を久々に読み返したくなり、ふと目に留まった静かなたたずまいの本書に自然に手が伸びた。尾形のそっけないくらいに短く、飾り気のない詩に、松本竣介の無心に鉛筆を走らせたかのようなスケッチがとてもよく似合う。郊外へ、社会の周縁へとはずれた者の孤独や憂愁。だが、少女の美しさに見入り、服の袖につかまる子の重みを受けとめ、妻が自分を、自分が妻を大切に思うことを確信する、父として夫としてのまなざしが彼の暗く長い夜のような人生に夜明けをもたらしている。⇒続
月音
2024/10/01 12:18

⇒カステーラのような明るさは、こうしたささやかなものから生まれてくるのだろう。最後の我が子への文章は、ずしんと胸に響く。血縁のしがらみに縛られず、親の犠牲にならず、一人で人生を歩めと。男が女に、女が男に性別が変えられるなら変えてもよい、それが可能な世になったら私は嬉しい、と。現代でも親の立場でなかなか言えないことを戦前に言っている人がいたなんて!

が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2022/05/17(921日経過)
記録初日
2022/05/01(937日経過)
読んだ本
230冊(1日平均0.25冊)
読んだページ
60951ページ(1日平均65ページ)
感想・レビュー
230件(投稿率100.0%)
本棚
14棚
性別
自己紹介

〇拙文を読んでくださり、ありがとうございます。

〇ナイスや登録してくださった方、コメントを下さった方にもお礼申し上げます。登録・削除はご自由にどうぞ。ご連絡なしで構いません。

〇タイムラインに情報があふれるとパニックになるので、申し訳ありませんがこちらからのお気に入り登録は基本的にしておりません。交流するのが嫌というわけではなく、コメントいただければとても嬉しく、間違いのご指摘も含めてお返事させていただきます。

〇“どれだけ”読んだかより、“何を”、“どのように”読んだかを大切に、「面白かった」だけではない気持ちを伝えられたらいいなと思います。

読書メーターの
読書管理アプリ
日々の読書量を簡単に記録・管理できるアプリ版読書メーターです。
新たな本との出会いや読書仲間とのつながりが、読書をもっと楽しくします。
App StoreからダウンロードGogle Playで手に入れよう