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2022年5月の読書メーターまとめ

えふのらん
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感想・レビュー
14
ナイス
142ナイス

2022年5月に読んだ本
14

2022年5月にナイスが最も多かった感想・レビュー

えふのらん
サイバーパンクなのにパンクよりもピュア寄りでびっくりした。エリスンら古典を説き伏せるような論理に欠けている。説明がない、と読者は怒るだろうけれど語ってしまえばいずれ(クラークは既に、アシモフはもうすぐ追いつかれてしまう)時代的な制約に掬われてしまう。そういう意味ではギブスン自身も度々口にしているバロウズの影響は濃厚だし、その戦術は成功している。マトリックスだの攻殻だのと元ネタ(ガジェット)を見つけることができても、文体が我々を魅了しかつ翻弄し続けているのはその証左だろう。
えふのらん
2022/05/13 03:13

「カットアウトチップを埋め込んでもらったあとは、無料で金がはいってくるみたいなもんだったもん。目が醒めてヒリヒリすることもあったけど、それだけのこと」。ガジェットも状況も非情ではあるけれど、そういった同情の前にモリイ自身の口から唐突にこれが語られる事にすごみがある。これこそが機械の、人間の視点ではなかろか。(この場面でケイスの眼差しがどこにあるかも重要)

えふのらん
2022/05/13 03:25

基本的には(映画的な意味での)ジャンプカットの積み重ねだけど、たまに電脳空間らしさ感じさせる文章が出てくるのも好きだった。「《広》プログラムが汚れた雲から噴出し、ケイスの意識は水銀球のように分裂して、暗い銀雲の色の果てしない浜辺の上で弧を描く。視野は球状で、まるで球体の内側に網膜をはりめぐらしたよう。その球体がすべてを内包しているが、すべてのものが数えつくせるだろうか」とか。ボルヘスの円環の廃墟やバベルの図書館、押井版攻殻とかでもこういう空間的な広さを表現できている作品はあるけれど、ここまで尖がってなかっ

が「ナイス!」と言っています。

2022年5月の感想・レビュー一覧
14

えふのらん
モラリストの神経逆なで全部盛りみたいな小説でかなり面白い。バッハやベートーベンといった古典派を嗜む若者が人を殴り人を殺し、更正したかと思えばまた音楽によって回心してしまう。それだけではない。全体主義的な”転向”を支える道具としてもベートーベンは活躍してしまう。情念と理性の統合である音楽が規範を逸脱するような事態に人間はどう対処すればいいのか。音楽に効果がないなら、もしかしたら文学にも、いやもしかしたら人間には良識などというものは存在しないのかもしれない。アレックスの人生は知識人の不安を表しているように見え
えふのらん
2022/05/25 23:11

何かを選ぶ権利、善と悪、要は父権と自己決定権のバランスのことだろう。人が自然権を国家に信託しているからこそ共同体が成り立つのであってその逆はない。起源が神だろうが人だろうが何かを決める(積極的)自由を制限しているから(他者危害原理に従い)大人しくしている。殺人を犯した人間であっても寛容でなければならない。バージェス自身がカトリック教徒だから、そういった社会契約論的な前提を敷くのは当然のことだと思う。それが無意識だとしても。

えふのらん
2022/05/25 23:21

神権も人権も理性や芸術を信じているからこそ成立するものであって、そういった信頼なしに自由主義は成立しない。拠所をうしなった社会は独裁や相互管理社会を許してしまう。(最終章削除版に従えば)アレックスは更正しない。体制の勝利とも読める。しかし、それすら罠なのではないか。理性を、良心を、芸術の力を我々は信じることができるだろうか。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
僕の嘆きもタイラーのバイタリティも90年代の安定した環境があったからこそあり得たんだろうな……今となってはただただ羨ましい。もう物質文明への逆張りや生老病死からの隔離を嘆くなんてこともできない世の中になってしまった。たぶん、今を生きる人にはブランドへの嫌悪と資本主義への怒りが両立することも、理解できない。(これがDQN小説に見えるのはそういうことなんだよね)
えふのらん
2022/05/25 02:57

そして、これが聖典化しているのは”ファイトクラブ”という闘技場モドキとテロ組織モドキが怒れる若者を反映しているように見えるからであって、ジェネレーションXの鬱屈とは関係がない。だって怒りの矛先がそもそも存在しないのだから。ファイトクラブの真似事にパラニュークがキレるのも当然だけど、この作品の射程も案外短いよなーとか思ってしまった。アメリカでの受容にも言えることではあるけれど、この国での受け入れ方は特にそれを表象しているのではなかろか。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
表紙はエレファントなのに中身はクリスマスキャロル。スクルージが堕ちる先は地獄でも家族でもなく、女と血の池地獄。ただ、最期まで回心はしないし金銭感覚は維持しているからその辺はドストエフスキーっぽい。(罪と罰風の)結末からして共苦の必要性を訴えている、ようにも読めるけど杓子定規で世界を測る癖は抜けていないしコロンバインは起こしてしまっているわけで、その辺の歪みをそぎ落として読むよりも、他者と交わることのできなかった異邦人として読んだ方が良い。割り切り方からしてラスコーリニコフというよりムルソーっぽいんだよね
が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
ファイトクラブからタイラーとマーラをそぎ落として鍛えた悪夢みたいな作品。カルトに育てられマナーを教わり、悲劇の主人公として流れ着いたカルトで祭り上げられたかと思えばエージェントの操り人形に……ハイジャックでさえ女の占いに振り回された結果で、最期まで自分で何かを成し遂げることはない。自分で何かを決定する、自己決定、それらはすべて流されてしまう。
えふのらん
2022/05/17 03:18

しかし、決断することはそんなに大切なことなのだろうか。乗っ取った飛行機の中でくつろぎながらディナーを楽しむ姿はマナー講師を務めていた時の物質主義的な態度と瓜二つだが、そういった贅沢をしている時だけ彼は微笑んでいる。ファイトクラブの”僕”と違って資本主義に不満を感じているわけでもない。(ちゃんと眠れているようだし)むしろ物語ること、何者かであること、何かに歯向かう事に疲れているようにも読めるのでは

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
久々に読んだらドストエフスキー流の私小説で色々と考えてしまった。病人への共感を拒絶し死を超克するためにファイトクラブを立ち上げ物質文明に反旗を翻す……ところまではいかにもヤッピーらしい考え方で、流儀も21世紀だけど着地点にいるマーラはソーニャで19世紀だよなぁ……堕ちているからこそ”ぼく”を受け入れてくれるわけで、結末はそこでいいのか?と思ってしまった。もちろん物質文明への反抗も金貸しのアリョーナ、ラスコーリニコフの殺意はファイトクラブへと通じている。
えふのらん
2022/05/16 00:11

そういうわけで僕はパラニュークが出した結論よりもフィンチャー版の世紀末的/反道徳的な結末の方が好きだな。映画もロマンティックではあるけれど、あれくらい破壊的であってほしい。現代のアメリカを舞台にするなら尚更。

えふのらん
2022/05/16 00:13

主題について思うところはあったけれど、細部は相変わらず素晴らしい。高級レストランの料理に様々な体液を混ぜ込んだり、金持ちが痩身治療で使った脂肪で爆弾を作るといった”製造技術そのもの”に皮肉が秘められている。小道具や文体そのもの力も大きい。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
サイバーパンクなのにパンクよりもピュア寄りでびっくりした。エリスンら古典を説き伏せるような論理に欠けている。説明がない、と読者は怒るだろうけれど語ってしまえばいずれ(クラークは既に、アシモフはもうすぐ追いつかれてしまう)時代的な制約に掬われてしまう。そういう意味ではギブスン自身も度々口にしているバロウズの影響は濃厚だし、その戦術は成功している。マトリックスだの攻殻だのと元ネタ(ガジェット)を見つけることができても、文体が我々を魅了しかつ翻弄し続けているのはその証左だろう。
えふのらん
2022/05/13 03:13

「カットアウトチップを埋め込んでもらったあとは、無料で金がはいってくるみたいなもんだったもん。目が醒めてヒリヒリすることもあったけど、それだけのこと」。ガジェットも状況も非情ではあるけれど、そういった同情の前にモリイ自身の口から唐突にこれが語られる事にすごみがある。これこそが機械の、人間の視点ではなかろか。(この場面でケイスの眼差しがどこにあるかも重要)

えふのらん
2022/05/13 03:25

基本的には(映画的な意味での)ジャンプカットの積み重ねだけど、たまに電脳空間らしさ感じさせる文章が出てくるのも好きだった。「《広》プログラムが汚れた雲から噴出し、ケイスの意識は水銀球のように分裂して、暗い銀雲の色の果てしない浜辺の上で弧を描く。視野は球状で、まるで球体の内側に網膜をはりめぐらしたよう。その球体がすべてを内包しているが、すべてのものが数えつくせるだろうか」とか。ボルヘスの円環の廃墟やバベルの図書館、押井版攻殻とかでもこういう空間的な広さを表現できている作品はあるけれど、ここまで尖がってなかっ

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
ギブスンはアメリカ南部の虚空に生まれて香港的千葉市的空間に至ったみたいなことが書いてあって、彼がやたらと日本を讃えるのはそういうことか、と腑に落ちた。向こうから見たらこの国はサイバネティックスとダーティリアリズムが混ざった場所(混成主体)に見えるやね……ブレードランナーのオリエンタリズムや攻殻の香港的空間の原型がわかってよかった。まぁデュシャンとか赤瀬川の名前も出てくるから源泉はジャンクアートなんだろうけど、これをSFに持ち込んだ功績は大きい。
えふのらん
2022/05/11 15:44

日本でもlainやエヴァで電線が持て囃された時代もあったわけで、こういうのは無意識に広まるものなのかもしれない。(そして潰える)。そういえば007にも電線が張り巡らされた九龍城が出てきたなぁ……スカイフォールだったかな。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
80年代末に書かれたサイバーパンク総括、なのだけれどスターリングはヒッピー文化の関係を匂わせるばかりで定義などそ知らぬ顔だし、ギブスンはサイバーパンク作家と呼ぶなと断言しているからこのジャンルが”何”なのかは最期までわからない。そもそもエリスンやネヴィラ賞の審査員、それを取り巻くあらゆるSF環境への対抗文化として生まれたジャンルだから”何か”である必要はないのだろう。とにかく皆がレッテル張りに敏感で他人との違いを協調している。
えふのらん
2022/05/11 15:13

いちばん客観的なのはディレイニーだが彼もガジャットの有無、定義よりもジャンル越境性やポストモダンの視点を重要視している。ただ、フェミニストSFによる性差解消、テクノロジーの優越こそサイバーパンクの起爆剤だったという指摘は面白かった。

えふのらん
2022/05/11 15:45

サイバネティックスであるよりも文体に重きを置いているのはみんな同じ。彼らからすれば電脳空間や義体を題にとった作品はそのような”様式”であって周辺的ですらある。ギブスンの文体、視点が極めて主観的なのにもそういう理由で、ガジェットを軸にした作風が他の古典的領域に飲み込まれるのを警戒してのこと。逆にヴォークトやバロウズ、ハクスリーらがサイバーパンクの始祖ととされるのは彼らは主観、超越的な視点を持ち、囚われのない作品を書いていたからなのだろう。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
日帝IF、ロボビルドゥングロマンときて最期はロボアニメ。作風を変えながら三部作を形成する、という試みは成功しているから作家主義的には満足した。ただ、ジャパンとサムライの西欧文学のスタイルが好きだったのでこの巻だけはあまり評価できない。トライアス自身は押井や小島が好きらしいけど、この作風は富野だと思う。ナチ撤退後の廃墟に残った人体実験の痕跡(肉片)や遺伝子改造熊のコロシアムは如何にもステロタイプで尖っていたのだが
えふのらん
2022/05/09 11:34

あとフリーメイソンっぽい秘密結社風を吹かせておいて激戦を繰り広げるのもなんだかなあ……ここにきて交代制の反動勢力ってのも違和感がある。せっかくディックから引き継いだイナゴ(USJ)があるのだから、それで革命のあり方や体験の継承について語って欲しかった。攻殻2ndという前例もあるわけだし

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
前作はディックで今回はハインライン、宇宙の戦士、あるいは終わりなき戦い。運動も勉強もできないギークが戦士になる、というのが今風で米国の筋肉質な戦争小説との違いでもある。ゲームを軸に戦術や訓練も組まれているから軍隊生活も殺伐としていない。(筋トレも訓練メニューにはいっているからその辺の苦労話もあるのだけれど)。ロボの殴り合いも派手で面白い。ただ命名規則がサブカル風で日帝らしくないのが残念。当て字でもいいから漢字表記にしてほしかった。十二使途もなぁ……作品の情報量からして古事記くらいは読んでると思うんだが…。
えふのらん
2022/05/07 14:15

というかUSJに比べて日帝である必要があまり感じられない。日本軍が舞台なのに軍紀はアメリカ風だし表記もらしくない。ゲームが重要なガジェットになっているけれど、それが日本を表す象徴になっているわけでもない。アメリカの戦争小説の作法で派手な戦闘を描く、のであれば宇宙の戦士に続けばいいわけで、ドイツ側に視点を変えるか、いっそ別な作品として発表すればよかったのではなかろか。戦争小説として楽しく読んだからその辺が気になった。

が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
なるほどイナゴ(USA)はゲバラのゲリラ戦術のような教本だから隠されたのか。ディックならこんな結論を出さないだろうけど、高い城の男を基にここまでの間諜小説に辿りつくのはなかなかのことだろう。創氏改名や防疫給水部隊をベースにした設定は元ネタになった国の人間としては考えてしまうところもあるが、ここまで極端に走れば娯楽として一級。人体改造の限りを尽くし、余生を肉人形に囲まれて過ごす退役軍人や(レジスタンスが開発したことになってるけど)軍隊蟻も敵(創作日帝)に相応しい。とてもよく出来たディックの、日本文化の外延的
が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
ネタバレ文体がすごい。人種や宗教への偏見がにじみ出ている。本人はギブスン風の(重力井戸を昇って悪徳都市を出た、みたいな)文章にしたいんだろうけど、捻りのない隠喩でぎゃーぎゃー喚くだけだから品がない。ちょっとした世界史の知識に派手な理屈を乗っけてふんぞり返るあたりはジャレッドダイヤモンドのなんちゃって人類学に似ている。ワイアードが好きな層、先進的でさえあれば精度は問わない人間には受けるだろうけど、それでいいのか?
が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
ネタバレ仮想現実黎明期らしい発想や言葉を伝染病に見立てた文明論は面白い、のだけれどそれぞれのアイデアにつながりがない。ストーリーとの関わりも希薄で、その場その場で思いついたことをひたすら聞かされているような気分になった。キャラクターは個性的……だが、これもインテリタイプではなく物語のなかでひたすら浮いている。どのページも羅列的で小説というよりメタバースの概説本という印象を受けた。
が「ナイス!」と言っています。
えふのらん
出演者全員がブレーキの踏み方をわかってないんだけど、それがニューロマンサーのノリと勢いと人体改造をままに引きついている。肉体を限界まで酷使したい→手足脊髄全部取っ払って機械に置き換えよう、将来は作家になりたい→下半身を切除して残りのりリソースを全て上半身に、働きたくない→軟禁して生活保護で暮らせ、子孫も行動制限な、外に出たい→放射能の嵐のなかで窒息しろ。普通は権力による資源の収奪や行動の制限を悪役に見立てるものだけれど、そういうものが一切ない。悪癖に見えるようなものまでぜーんぶ自己責任の範疇でやってしまう
えふのらん
2022/04/27 22:08

たぶんSF屋への受けは悪い。サイバーパンクにせよ終末SFにしろ、現在の人間の想像とはかけ離れた世界を提示するジャンルだけど、この作品はずっと人間の価値観の範疇で技術が運用している。世界の終わりですら自作自演(悪い意味の奇跡は起こる)。しかし、サイバネティックスや終末の風景を土台にした、それを当然のものとして受け止めた思索は見事なもので人物の身勝手な行動が技術をどんどん引っ張っていく。最先端の技術で快楽を貪る、というのは陳腐に見えて実はかなり未来的なのだ。そういう意味ではかなりギブスンに近

が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2011/12/09(4538日経過)
記録初日
2011/12/09(4538日経過)
読んだ本
1181冊(1日平均0.26冊)
読んだページ
322576ページ(1日平均71ページ)
感想・レビュー
1181件(投稿率100.0%)
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自己紹介

ほら耳をすませば天の声 脳内電波が 駆け巡る

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