現状に満足できず鬱々としたものを抱えているときに読むとよさそうな短編集。鬱々としたものを行動に反映させている主人公たちの姿に、恐怖を感じたり、爽快な気分を感じたりする中で、何もしない日常の平和さを見直すきっかけとなり自分ならの道が見えてくるかもしれない。好きか嫌いかで判断するのではなく、目新しいスパイスに出合った気分を味わうといい一冊な感じ。

カジュアルな対話形式にしてありながら読みやすい本ではないけれど、内容は深い。読みづらいなあと思いつつもなんとなく読み進め、最後に人間スーツ論を読むとふんふんなるほどとなるかも。「「せかい」のために「あなた」が何かをすれば、「せかい」が「あなた」のために何かをし始めるのさ。先に与えろ。するとより多くを、受け取る」「「上手に操作する必要」はないからである」「体験者が「楽しむ」ために用意されたストーリーであるから、その先に続く物語を楽しみに待つのが肝要である」

主人公の智美が、居場所と感じられる場所を見つけ、自分らしいままに成長している姿がよかった。それをサポートしているのが、世話をしてあげている存在であるはずの犬たち。登場人物がみなそれぞれ事情を抱えていて、うまくできないこともありながら、それでも一人一人の優しさが犬や誰かを助けている。世の中ってこんな感じで回っているものなのかもしれない。

やっかいな親の様子が描かれていて、成長とともに、いかに家族以外の関係を社会で作っていくことが大事かということを感じてしまった。友だちでも恋人でも結婚相手でもいいし、そういった人を通じて自分の世界を広げていけば棘に感じた過去の言葉をうまく消化していけるのではないかと。自分が変わることで親との関係が変わっていく様子が表現されているのが、とてもよかった。自由に育ったから細やかに面倒をみてくれる家庭がうらやましいと思ったこともあったけれど、そういう家庭にはそういう家庭なりの大変さがあるのかもしれないなと実感。

真面目に読むというスタンスより、「軽く何かに気づきたい人」に向いている一冊。エスパイプ・ジャバラ式の話が特によかった。ほんと、ありがたい！と思える物に囲まれて生きているなあと。

添乗員さんも派遣での勤務なのか、としみじみしながら読みました。旅が好きな人より人が好きな人に向いているのかも、は確かにそうかも。やはり知らない人の世話をする仕事はとても大変。いろんな職種に共通する苦労ではあると思うけれど。添乗員の仕事の大変さに悩んでいた遙が、コロナ禍でその仕事さえできなくなり、全く別の悩みに悩まされるようになっている様子から、あの当時の空気感を思い出しました。

主人公のキャラや兄弟同士のやりとりが微笑ましく、残酷なエピソードが含まれている内容のわりにスラスラ読み進められた。決してよい環境と一言ではいえない子ども時代を過ごしてきた主人公だが、母の愛情をしっかり受けとめて素直に育っている。経緯はさまざまであろうが、愛情をきっかけに劣悪な環境を経験してしまった犬や猫たち。その対比に考えさせられた。とはいえ、うまくできない、できなかった人たちを責める気持ちを持つよりも、自分自身が目の前の愛情を持てる対象を大事にすればいいのではないかと。人に限らず、犬や猫に限らず。

本書を読んで幸せになる（幸せに気づく）もよし、いやよくわからんという選択でもよし。どちらだってイーンダヨ！（笑）「頭は過去の記憶や経験を元にして、なにかを計算する。経験したことがないこと（未来で経験すること）は、頭の中にデータとして蓄積されてないから当然」「脳内のデータを元に計算するということは「過去の経験」というとても少ない情報量から「こうしたほうがいい」とあなたに答えを出していることになる。そんな頭がささやく言葉に、なんの価値があろうか？心が好きになった人を好きになりなさい」

現状に満足できず鬱々としたものを抱えているときに読むとよさそうな短編集。鬱々としたものを行動に反映させている主人公たちの姿に、恐怖を感じたり、爽快な気分を感じたりする中で、何もしない日常の平和さを見直すきっかけとなり自分ならの道が見えてくるかもしれない。好きか嫌いかで判断するのではなく、目新しいスパイスに出合った気分を味わうといい一冊な感じ。