初めの数編労働する人が登場。それも黙々と。何かを得るためというよりも信念に従って一心に。出版後約20年の歳月を経、誇りのもてる仕事に就けた若者がどれほどいるのだろう。今日の糧のため自分の時間を切り売りして心に蓋をしてやり過ごさねばならない人も多いのではないかと。希いとは遠い職務でも、そこに一生懸命がある時働く姿は必ず美しくなるものだとそっとエールを送りたい。抽象的なもの汎化されたものを具体的な自分の生活に引き付けて考えることに長けている人だと。その逆も。だから人の心に深く入るストーリーを紡ぎ出せるのだろう

初めの数編労働する人が登場。それも黙々と。何かを得るためというよりも信念に従って一心に。出版後約20年の歳月を経、誇りのもてる仕事に就けた若者がどれほどいるのだろう。今日の糧のため自分の時間を切り売りして心に蓋をしてやり過ごさねばならない人も多いのではないかと。希いとは遠い職務でも、そこに一生懸命がある時働く姿は必ず美しくなるものだとそっとエールを送りたい。抽象的なもの汎化されたものを具体的な自分の生活に引き付けて考えることに長けている人だと。その逆も。だから人の心に深く入るストーリーを紡ぎ出せるのだろう

1960年代に連載された随筆集。 幼少期からのご自分の心情を客観視し状況を後方視的に俯瞰する早熟な能力に驚く。そしてその目で見た日本が満州事変から第二次世界大戦に向かう道筋の出来事を同時代人としてありのままに記録でもある。時代の只中にいると点を線で理解することは困難で何もかもが後から鑑みるに…で時すでに遅しとなってしまいがちなことが恐ろしい。抗し難い濁流の中で個人の信念を譲らず守ることは難しいことだが精神は自由なのだと勇気づけられる。あらためて歴史を学ぶ意義を思う。昭和100年に読むにふさわしい本。

エッセイや翻訳などの格調高い乾性の文章もとても好きだが、茶目っ気があって弱いところや毒気も見せてくれるこの普段着の文章の人間味になんだかニヤリ。ざっくばらんな私信の中にもこの方のいくつになっても衰えない向学心と自分のいくべき道についてが繰り返し記されていて己を省みる。 表紙の絵（コーン夫妻に宛てた絵葉書）も素敵だが、中には手書きの手紙がそのまま使われているものが沢山。小さくて几帳面な文字にも人となりが現れる。ハードカバーで買ってよかった！そして手書きってやっぱりいいなぁと。手紙が書きたくなる。

“社会化や、社会への適応の過程にのみとらわれていたのでは、人間の中にある「神聖なるプラスアルファ」ともいうべきものを説明することはできない” 社会適応の中でもコミュ力が最重要なスキルとされる現代。他人だけでなく、ひとりでもネット情報に取り囲まれ本当の一人時間を過ごすことが難しくなっている現代。 子どもの延長の大人にも“外から入ってきたものを篩いにかけ、えりわけ、それらをすでに心の内にあるものと結びつける”内部機構を研ぎ澄ませる独り時間は大切。誰かと繋がることは勿論大切だけど独りの静けさも同じく大切な時

法治国家の（はず）の日本でこのようなことが起こっていたとは。制度があるだけでは安心安全が担保されるわけではないのだと危機感がわいてくる。本件を単に袴田事件として処理するのではなく、日本の裁判制度、権力機構の監視・統治問題として汎化して記憶しておかねばならない。この件が落着したから良しではなく、二度と被害者を出さないための仕組みを作らねばならない。袴田さんの取り戻しようのない年月を想うと、市民として肝に銘じ監視し続ける責任を感じる。それにしても信念のある人のなんと靭いことか。