フェミニズムの視点で文学や映画を批評したコラム集。アナと雪の女王で、エルサの力は社会に還元されなければ価値がないという方向に着地する点から、エルサがありのままに(let it go)自由になったとは思えないと著者は述べている。またシンデレラのようなディズニープリンセスは女の子の憧れであると同時に、小さな頃から「魅力的でなければいけない」という強迫観念を抱きうることも指摘されている。
ジェンダーの視点をシフトするだけで世界がこんなに豊かになるとは。とくに面白かったのは「アナと雪の女王」論。"Let It Go"のMVを娘と見たことがあるが、なるほど、エルサは確かにドラァグクイーンみたいだ。クイア的存在の象徴と見ることもできる。ちなみに著者はこの映画が好きではないという。というのも、エルサが孤独に生きられる場所をせっかく勝ち得たにも関わらず、エルサの能力を骨抜きにし、それを公共に役立つよう強いることしかしないからだ。そう、たしかにディズニー映画はこの点で暴力的な傾向がある。
エルサは山に引きこもり、変身するが、突然ドラァグクイーンみたいなお洒落なドレスに着替え、さらにものすごいクリエイティヴィティを発揮して氷の城を作る。後にアナがエルサに会った時にはその変わりようにびっくりするが、これはカミングアウトして家出した家族に久しぶりにあったらゲイっぽくキャンプでアートな感じに大変身していたみたいなものだ。結局、この映画はエルサを迎え、スケートリンクや公共彫刻を作ることでエルサが評価されることから「マイノリティを包摂して世間に対する責任を果たしてもらおう」
「一人は寂しいから社会が家族と関わってこそ幸せ」みたいな落としどころに持っていくため、著者は押しつけがましいと否定的に見ていたが、私は面白いと思った。あと『すばらしい新世界』で、「子供を産まないのは何かを失っているのではないか」みたいな反ディストピア側の主張が、非常に女性差別的で嫌と言っていた。まさに妊娠や出産を支配する発想の裏にある性的自己決定権を奪う男性中心主義的発想という訳だ。