上巻では経済復興やアウトバーン神話などを資料から徹底的に批判し、その場当たり的な性格を明らかにしてきたが、下巻ではそこに人種戦争とジェノサイドが加わる。原題のThe Wages of Destructionには複数の意味が込められていることがわかる。この点、複数形がある英語は面白い。「経済」と訳されたwageは本来、賃金や(労働に対する)報酬という意味があるが、複数形にすることでより広く本書の主題をカバーしている。破壊の経済「たち」。日本語にはなりえない表現だ。いずれにせよナチス研究における定本となる。